結成

 翌日の学校、生徒会室にて。

 陽介が普段見せないような表情をしながら固まっていた。


 それもそのはず。

 何故なら学校すら違うのに、俺の隣には白鳥さんがいたからだ。

 その白鳥さんは辺りを物珍しそうに見渡している。どうやら白銀女学院とは違った雰囲気の金庭高校の生徒会室に興味を惹かれているらしい。


 俺としては陽介や白鳥さんより、妙に上機嫌で時折ニヤケ顔を見せている紫垣さんの方が気になるが。

 昨日のことは陽介が無理矢理協力させたようなものなのでてっきり怒っているか、昨日のことを根掘り葉掘り聞かれるかと思ったのだが、今のところそんな素振りは全く見せていない。


「おい、明人」


 いきなり陽介に肩を組まれたかと思えば、部屋の隅っこに連れてこられた。


「これはいったいどういう状況なんだ?」

「どういう状況って、白鳥さんが俺達に協力してくれることになったんだよ」

「なんでそんなことになったんだ!? 昨日だって進展なさそうな感じだったから、わざわざ茶谷の家まで知恵を借りに行ったんだぞ」


 昨日の寄り道はそういう事だったのか。

 とりあえず陽介に昨日の出来事をかいつまんで話す。


「なるほど。何故そんなことになったのかはわからんが、とりあえずわかった。つまり、白鳥さんは正式に俺達の味方になったという事だな」


 陽介が納得したという事で、早速本題に入ることにする。


「それじゃあ、色を取り戻す方法について話し合おう」


 俺の言葉に、白鳥さんと紫垣さんが席に座る。

 ……紫垣さんには協力を頼んでいないのだが。


「えっと、紫垣さん?」

「何ですか? ……ああ、私がいることでしたらお気になさらず。決して誰にも話しませんから」


 そんなことを言われましても……。


「紫垣は放っておいても良い。話を始めよう」


 陽介が白鳥さんの向かいの席に座る。

 残っているのは生徒会長が座る椅子。この部屋の中で最も上座にある席だ。

 そこに座るという事は代表、リーダーになるということ。


 つまり、俺にリーダーを務めろと、そういうことなのだろう。

 陽介の方に視線を向けると、案の定陽介は生徒会長の椅子を指し示してくる。

 それを見て仕方がなく、元々陽介の席である、生徒会長の席に座る。

 そして、本題を切り出した。


「それじゃ、改めて。どうやって色を取り戻すか、だが」


 話し合いを始めてすぐに、白鳥さんが手を上げる。


「やっぱり話し合いしかないのではないですか?」


 うん、確かに一番まともでオーソドックスな手段だろう。

 しかし、俺達に話し合いという手段を用いることは出来ない。


「ごめん。それは無理なんだ」

「どうしてですか?」

「…………」


 白鳥さんの質問に俺が目をそらして無言を貫いていると、陽介が俺のミスを暴露する。


「明人が色波透矢に啖呵を切ったんだ。それで俺達が色を取り戻そうとしているのがバレてしまっている。これで白鳥さんまで味方につけたとなると、こちらの話は絶対に聞いてくれないだろう」

「く・ろ・さ・わ・さ・ん?」


 白鳥さんに睨まれ、俺は肩を落として縮こまるしかなかった。

 あれは俺が悪いという自覚があるので反論が出来ないのだ。


「はぁ……」


 白鳥さんはため息をついた。

 済んでしまったものは仕方がない、という考がありありと見える。


「そんなことよりも、これからどうするかを考えようぜ。俺としてはせっかく白鳥さんが味方になったんだから、無効化装置を作れば良いと思うんだが」


 俺のあからさまな話題転換に陽介と白鳥さんは顔を見合わせため息をつくが、何かを言うつもりはないらしく、俺の案を真剣に吟味し始める。

 正直、話題を逸らす為だけに適当に考えた案なので真剣に吟味されると恥ずかしいのだが、話題を逸らすことには成功したので黙って待つことにする。


「駄目だな。時間がかかりすぎる」

「そうですね。その間、透矢さんから隠し通すのも難しいですし」


 そんな真面目に考察しなくても……。


「というか、もう俺達に出来ることなんて一つしかないよなぁ?」

「あまりやりたくはないですけど、やってしまったものはしょうがないですしね」


 陽介と白鳥さんが顔を見合わせながら笑みを見せる。

 何だか仲間外れにされた感じがして良い気がしない。

 大体、陽介はリンちゃんが好きなくせに、白鳥さんと楽しそうにしているんじゃねえよ。


「で、その一つってのは何なんだ?」


 ぶっきらぼうな口調で問いかけると、陽介が決まっているだろうと言いたげなドヤ顔を見せて来た。


「説得に行っても話を聞いてもらえないのなら、実力行使で話を聞かせれば良いってことだろ?」


 それってつまり……。そこまで考えて、急速に顔が青ざめていくのがわかる。


「「こちらから殴り込みに行くんだよ(ですよ)!」」


 息ぴったりに宣言する二人は、同じ高校生だとは思えなかった。

 元々、人間関係においてとんでもない能力を持っていたり、文武両道、多芸多才、才色兼備の完璧超人だったりしたけれど、とうとう心まで高校生離れをしてしまった。


「それで日程はどうする?」

「いつ行くにしても、バイト終わりに行くことになりますね」

「だな。とりあえず次回のバイト終わりにでも殴りこむか」


 目の前で繰り広げられる物騒な話し合いに、思わず耳を塞いでしまう。

 その間にも二人は持っていく武器や拘束用の道具など、必要なものを絞り込んでいっている。


「なあ、やっぱりまずいんじゃないのか? 殴り込みって要するに色波透矢に無理やり言う事を聞かせてあの機械を止めようってことだろう? 普通に犯罪だろ」

「はぁ……。明人の意気地なし。大体、先に犯罪を犯したのはあっちなんだ。俺達が非難される謂れはない」

「そうかもしれないけど。失敗したら大学に入学なんか出来ないし、親に迷惑かけることになるんだぞ」


 俺の場合、母さんが女手一つで育ててくれたわけだし、白鳥さんの親だって高級住宅街に住んでいることから稼げる役職に就いているはずだし、陽介の父親だって目の病気は完治しているとはいえ、再発の不安を抱えながら働いていたはずだ。


 まあ、個人情報が流出してたら確実に迷惑をかけていたであろう俺が言っても説得力はないのかもしれないが。


「うっ……。それを言われると辛いな」

「そうですね。そこまで考えが及びませんでした」

「くそっ。振り出しに戻っちまったな」

「いったいどうしましょう……?」


 それでも俺の話を聞いてくれたようで、陽介が悔しそうに歯噛みし、白鳥さんは困ったように眉を寄せる。

 選択肢がどんどん狭まっているので、それも仕方がないことだろう。

 しかしだ。


「何を悩んでいるんだ。それこそ、取れる選択肢は一つだけだろう」


 机に片手を突きながら、陽介と白鳥さんを見つめる。

 陽介と白鳥さんは何も言わない。俺が導き出した答えを待っているようだ。


「陽介が言っていたことは正しいと思う。話を聞かせるには実力行使しかないだろう。けど現実問題としでそれは出来ない」


 陽介が目だけで続きを催促してくる。

 俺はそんな陽介に笑みを見せ。


「だったら正々堂々、相手の同意を得た上で正面からぶつかり合うしかないだろう」


 俺の提案に陽介は目を見開き、白鳥さんは首を傾げている。


「えっと……、どういうことですか?」

「俺達三人は、透矢にとって必要な人材となっていることは間違いない。だがらこそ、俺達がイクシード研究所に自主的に協力することをちらつかせれば、決闘を受けてもらえる可能性が高い」


 自身の計画がとん挫する可能性があったにもかかわらず俺をスカウトしてきたことから、自身を餌にして食いつく可能性が高いと睨んでいる。

 そこに俺達の付け込む隙がある。


「どうせ殴り込んで失敗すればお終いなんだ。だったら、俺達がこれからの協力を条件に決闘を挑んだ方がまだ良い」


 全て得るか失うかオールオアナッシング

 俺は一世一代の賭けにでることを決定した。

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