夏の終わり

第1話

「夏、終わっちゃうね」

　僕は半分独り言のように言った。

　日本はドローン技術の発達により、気象がコントロールできるようになった。

　それにともなって国民投票により「夏」を廃止することが決定したのは、昨年のことだった。

　理由はもっともらしく、一年の中で最も「不快だから」だそうだ。

　たしかに夏は暑いし、蚊も多いし、湿度も高いし、豪雨もある。だけど夏にだって良いところはたくさんあるだろう。

　そうは思うが、僕はこの結果に対して不満だのと抗議するような人間ではなかった。

　彼女との最後の帰り道、ひねり出した独り言のもう半分はひぐらしの声にかき消され彼女の耳には届かなかった。

　まるで僕だけが夏に取り残されたようだった。

　今年で日本の夏は終わる。

　彼女と初めて会った夏はもう来ない。