第4章 白金連続殺人事件 肆 

散々引っ掻き回された結果、穂積は表彰されることとなった。あの日の夜、闇の中にいた男、安堂ロイド(製造24年)がこの一連の事件の犯人だったのだ。あんなに情報を集めるために必死だったのにもかかわらず肝心な星がこんな形で巡り合ってしまうのは何か彼と運命的なものがあったのかもしれない。動機は恋に落ちたからだそうだ。そのくせ両想いときた。関係を持ちたいなんて誰しもが考えるようなことで、安堂も例外ではなかった。しかし女性は冷静だった。あくまであなたはアンドロイド、私とは一緒になれないのよ。とんだ昔のおとぎ話のような振られ方をしてしまった安堂は諦めきれなかったのだ。どうしても人間に成りたい。なんとしてでも。そんな強い意志はまるっきり理性はなかったのだろう。盲目の果て信ぴょう性のない言葉にすがってしまうのは心があるこそのジレンマと言えるだろう。ではなぜあの時動物を握っていたかというと、彼曰く人間がダメだったからネコなら、ともう人間離れしていた。もうああいうアンドロイドは処分の末路だろう。生き残ったとしても記憶消去でもう安堂が身を削ってまで手に入れたかったものはきれいさっぱり消えてしまったわけだ。そんなこんなで穂積は大きな手柄を挙げた結果となった。


「ねー翔ちゃん、あの事件翔ちゃんが解決したんだって?」

朝食を採っている穂積に向かって由利が問いかける。

「ああそうさ、あの時は僕のとっさの判断が功を奏したのさ。」

「ええー!すごーい!その時の翔ちゃん見たかったなー。」

正面に座る由利は両手に顎を乗せ穂積を見つめていた。

「でもそれもこれもみんな由利が家のことやっていてくれるお陰だよ。ありがとね。」

親元から離れると母親の存在が大いに感じた。どんな時であっても家事をやらなくてはならない、今更ながら感謝している。

「もー、また話しそらすー。」

由利は不貞腐れた。そんな彼女はアンドロイドだ。警察学校の頃コツコツ貯金していたお金で買ったのだ。もともとアンドロイドはそこまで高くない。グレードの低い車を買うくらいだ。穂積は車よりもアンドロイドを選んだ。昔から人間の女の子とうまく付き合うことのできなかった穂積は隣にいてくれる存在が欲しかった。それは家族でも友達でもない、特別な存在を。この情報を知っているのは上司である新木だけだ。一人暮らしということから押し掛けてきたのだ。この秘密はシュークリームが守ってくれた。あの頼りない皮に。たまにせびってくるのが質の悪いものだが、口は堅い。はずだよな・・・。

 穂積はいつものように身支度をしてアパートを後にした。色づいてきた木の葉を眺めながらいつもの道を歩く。そのいつものに異常が潜んでいたんだな、ふと先日のマンションを見上げ思った。鉛色の空はいつの間にか青く澄み渡っていた。

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