第2章 白金連続殺人事件 弐
「・・・。 主任!」
穂積は上がる肩を抑えて叫んだ。
「おう、どうした。」
いつもの冷静な声が返ってきた。
「先ほどの妖しい人物を逃がしました。」
「そうか、後で始末書だな。」
「うー、はい。すぐにそちらへ戻ります。」
呼吸を整えるように歩き出す。先ほど目の前を走っていた面影を思い出しながら男の心情を描いた。絶対この事件のカギを握っているはずだ。目を合わせた時の驚き様。深く帽子をかぶったその奥が見えなくとも感じたのだ。奴はなぜ逃げ出したのか。時間が経つごとに逃したことへの後悔が募る。そんなことを考えているうちに新木のいる現場へ戻っていた。
「ずいぶん激しい散歩だったな。」
「すみません。追いつけませんでした。」
「戻って洗い直すぞ。」
「はい・・・。」
新木らはそのまま車に乗り込み署へ戻った。
「これが白銀連続殺人事件の資料です。」
「おう、お疲れ。」
穂積は大きく膨れた段ボールを自分のデスクの上に置いた。蓋を開けると様々な書類が雑多に詰まれており、整理するだけでも一苦労だと悟った。
「これが一連の事件の被害者です。」
ホワイトボードに写真を並べ説明を続けた。
「まず一人目、
新木はいつの間にか自分を背にパソコンとにらめっこしていた。
「ちょっと主任、聞いていました?」
「おうおう、もちろん。いい睡眠になったよ。」
「もう、人の話くらい最後まで聞いてくださいよ・・・。それより犯人はなぜこうも人間ばかり襲えるのでしょうか。だって人間とアンドロイドの見た目は一目じゃ遜色ないのでは。」
顎に手を当て首を傾げた。
「穂積君はそれでも警察の端くれかね。」
「端くれは余計です!立派な警察官ですよ!」
間髪入れずに放った。
「ではアンドロイドの施行に関わる法律言ってみ?」
「馬鹿にしないでください!まず、アンドロイドに人権を適用する。そのアンドロイドのアルゴリズムを人為的に操作してはならない。アンドロイドは公務員になってはならない。そしてアンドロイドの恋愛を禁z・・・。あ!」
「気付くのが遅いよ、穂積君。アンドロイドは恋をしてはならないのだろう?ガイシャのそのような姿を確認したのではないのかな?」
「でもそれだけでは不十分な気がしませんか?だって、学生とかもいるじゃないですか。」
道理は通じるが何か引っかかる。
「穂積君にはアンドロイドの同級生がいるのかな。」
一拍置いて穂積は答えた。
「あ、そういえば見たことないです。それってどうゆうことですか?」
「彼らは成長することがないから初めから社会に放たれるから見た目が20歳未満のアンドロイドは存在しない。君が一番詳しいはずじゃないか?」
「そうでしたね、よくよく考えてみればわかることでした。」
「他にも結婚指輪とかその二人の雰囲気とかでアンドロイドの二人組か人間のカップルかなんて一目瞭然じゃないか。俺でもわかるぞそんなこと。」
「なるほど、そう言われてみればそうですね。」
納得した。事件の関連性ばかりを意識しすぎていた穂積には見えていなかったあまりに的を得た答えだった。
「じゃあ、どうして犯人は人間の肉を食いちぎるだけなのでしょうか。それだけ飢えていたらバッグや財布の一つでも奪えばいいのに。」
「これを見てみろ。」
新木が指したそれは先ほどから調べていたウェブサイトだった。某掲示板の書き込みがずらっと表示されたそれをまじまじと読んだ。
「・・・!?人の肉を喰らえば人間に成れる!?なんですかこれ!」
「こういった書き込みをいくつか見つけた。確証のないただのいたずらだ。」
「犯人はこれを信じて犯行に及んだんですかね。馬鹿でも信じないよなこんなこと。」
インターネットなんて信じるに値しない。それは穂積が小学生のころ、小さいながら学んだ教訓だ。
「ああ、そうだろうな。まあ動機には十分すぎる。手がかりがここまで出ないのは不思議だが・・・。」
「そうですよね、本当に目撃者がいないかまた当たってみましょう。」
穂積は胸の前で拳を握った。
「ずいぶんやる気じゃないか。じゃ、送っていくぞ。」
望んでいた回答と違った。これはよくあることだ。
「えー、主任はいかないんですかー。」
「嘘だ。飯行くぞ。」
基本素直じゃない。半年一緒に捜査をしてきてようやくつかめてきた。と、思っている。
それは署から徒歩3分のところにある蕎麦屋だ。入るなり温かいそばを二つ頼んだ。最近肌寒くなってきて毎日ざるそばを頼んでいたころをふと思い出した。数分で目的のそばが並べられた。立ち込める湯気をかき分け甘めのつゆを一口。五臓六腑に染み渡るそれはとてもやさしい味付けで、更に一口と続いた。そしてそばをすする。程よい歯ごたえがある。噛む度ざるそばとは異なるそばの香りがふわっと鼻を抜けた。二人は会話もせず夢中になった。終盤、七味を足すことで引き締まる甘さと香りのある刺激を堪能した。気が付けば一滴残すことなく平らげていた。
「あー。ごちそうさまでした。」
両手を合わせ感謝を記した。
「おばちゃん、おあいそ。」
「はいよー。」
奥から艶のない貫禄のある声が響いた。
「よし、情報稼ぐぞ。覚悟はできたか。」
「はい!」
こうして僕らの午後は始まった。
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