Idea
ゴンザレス田中
第1章 白金連続殺人事件 壱
・・・不快な目覚ましの音だ。こうしてまた一日の始まりを告げる。鉛のような体を無理矢理ベッドから引きずり下す。時刻は午前七時。いつもギリギリだ。寝室の扉を開けるとテレビを見ている由利の横顔があった。
「あ、おはよう。ご飯できてるよ。」
「おはよー。」
そんな歯切れの悪い返事をして穂積は食卓に着いた。
「疲れは取れた?」
屈託のない笑顔で問いかける。
「ああ、何とか大丈夫。」
適当にあしらう。
「ほんとー?ここ最近忙しいんでしょ?ほら、例の事件のことで。」
「うん、でも大丈夫。由利のお陰だよ。」
彼女は一拍置いてから
「もー、嘘つき。早く支度しないと遅刻ちゃうよ?」
「ああ、わかったわかった。」
テレビで流れるニュースでは近年アンドロイドによる犯罪の増加についてコメンテーター達が熱く討論している様子がある。穂積はそれを横目に目玉焼きの乗ったトーストを頬張った。
時間というのは待ってくれない。そそくさと支度をし、職場へ向かった。
外はすっかり夏から秋に移り変わっていて、時折吹く木枯らしに季節の喪失を感じた。
「おはよう、穂積君。今日もかわいいわねー。」
「おはようございます。」
売店のおばちゃんに心無い挨拶を交わし僕のデスクのある捜査一課へ急いだ。
「新木主任、おはようございます。」
「おお、おはよう。穂積君。」
新木雅信、この道20年のベテラン刑事。穂積にとって直属の上司であり、相棒だ。強面で頑固、そのくせ優しい。
「そうだ、お前。俺のシュークリーム食っただろ、謝れ。」
気がする。
「えー、あれ主任のだったんですか?名前書いてなかったから食べていいものだと。」
「後で買ってこい。」
「はい、わかりました・・・。」
はあ、朝からついてないなそう思いデスクに座って身支度を済ませようとしたころ。
「警視庁から
社内に無機質な音声が流れた。
「おいおいおい、またあれか?今度で何度目だよ。」
そう吐き捨て新木はジャケットを担いで外へと向かった。
現場は意外と離れていなかった。住宅街にたたずむ人気のない公園。辺りは騒然としていて、一角にビニールシートが張られている。
「お疲れ様です。」
警察手帳を広げ中へ入っていく。そこには女性が仰向けで倒れていた。顔や首に肉のないような生々しい傷が目に飛び込んだ。
「また白金連続殺人事件ですかね・・・。」
「ああ、そうだろうな。この特徴的な
二人で仏さんに両手を合わせる。この行為は今でも複雑な気持ちになる。この人がこうなる直前、相当苦しかったはずだ。ただ、警察はそのお陰で飯が食えてると思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ガイシャは。」
新木が検視をしている捜査官に向かって振り返った。
「はい、
「第一発見者は。」
「あちらのパトカーにて簡単な事情徴収を行っております。」
「よし。」
さっさと遺体を後にした新木はその第一発見者がいるというパトカーの窓をノックした。すぐに窓が開き、
「お疲れ、状況は。」
中にいた男はすぐに車を降りた。
「新木主任、お疲れ様です。どうやら第一発見者の女性は午前7時半頃出勤中のところ倒れていた被害者を発見、通報した模様です。怪しい人物などは見かけなかったとのことです。」
「そうか、また手掛かりなしか。」
新木はそうつぶやくと腕を組み辺りを見渡した。
「ん、なんだあいつ。怪しいぞ。」
「え?どこですか。」
周りは人だかりができているためか誰が新木の言う怪しいのかがわからなかった。
「ほら、あの電柱の影。行ってみろ。」
「はいはい、わかりましたよ。」
足取りは軽くはなかった。何よりあの言い方が問題だ。もっと人とうまく付き合える方法があるだろうと思いながらも新木が指さす電柱に近づいた。すると分かった。あいつだ。何か辺りを見渡してきょろきょろしている。その恐ろしい視力に鳥肌が立ったのを覚えている。
「あのー、ちょっとお話よろしいですか?」
穂積の言葉をすべて聞く前に彼は逃げ出した。とっさに追いかけた。早い。警察学校で上位に入るくらい脚力には自信があった穂積が全く追いつけなかった。住宅街ということも相まって3つ目の角を曲がるころには怪しい男を逃がしていた。
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