第1170話、わたくし、『ちょい悪令嬢フライングクロスチョップ』ですの⁉(その7)
「……世界と言うものが、『現在』という一瞬の時点のみでしかなく、無数のあらゆるパターンのものが最初からすべて揃っているからこそ、『真に理想的な未来予知』ができるですって⁉」
「ええ、それ故にあなたに私の世界に移動する力さえ有れば、この世界の未来の時点を描いた
「それこそ小説でも有るまいし、そんな御都合主義的なことが可能なの? 特に異世界で何年も過ごしていた場合、たとえ日本の出発時点に戻れたところで、自分だけ歳をとってしまい、それからの生活に多大なる不都合が生じるんじゃないの? ──それにそもそも、ほんのついさっきあなた自身の口から、『唯一絶対の未来予知なんて不可能だ』と言ったばかりなのに、完全に矛盾しているのでは?」
「いいえ、別に矛盾したりはしていませんよ。これまではあなたにもわかりやすいように、『異世界に自分の世界にとっての予言書が有る』という前提で話を進めてきましたが、
「──なっ⁉」
ちょっ、またしても、本作お得意の『ちゃぶ台返し』かよ⁉
「……いや、何をそんなに意外そうと言うかむしろ、今にも『裏切られた!』とか言い出しそうな顔をしてられるのですか?
そ、そういえば。
「だったら、あなたの言う『真に理想的な未来予知』って、どうやって実現するわけなのよ⁉」
「そりゃあ当然、一部の未来を垣間見るだけでは意味が無いならば、『未来の無限の可能性』の
「──いやいやいや、無限の未来のすべてを知覚するなんて、それこそSF小説ならではの『真に理想的な量子コンピュータ』でもあるまいし、ただの人の身でできっこないでしょうが⁉」
「できますよ、これまたすでに申しましたでしょう?
「……集合的無意識とアクセスすることさえできたら、未来の無限の可能性のすべてを知覚することができるですって⁉」
「『異世界転生』の時ご説明したでしょう? 実際に世界間移動なぞ行われているわけでは無く、純粋な『異世界生まれの人間』が、現在の異世界の文化文明を何とか現代日本レベルにしようと、飽くなき努力に邁進した結果、奇跡的に集合的無意識とのアクセスを果たして、現代日本レベルの知識を得ると同時に、自分のことを現代日本人の生まれ変わりと思い込むようになり、事実上の『異世界転生』を実現していると。これは
実際に異世界転生を行うどころかタイムトラベルさえ行うこと無く、未来の情報を得ることができるですってえ⁉
「──いやいや、たとえ未来の可能性すべてとアクセスできたところで、それこそ無限の量子ビット演算処理能力を有する『SF小説ならではの真に理想的な量子コンピュータ』でも無い限り、そのすべてをきちんと認識し、最も知りたい未来の情報を割り出すことなんて不可能でしょうが?」
「そんなことありませんわよ、『真に理想的な未来予知』とは、たった一つの未来をズバリと予言することでは無く、文字通りに未来の無限の可能性を把握することなのですから」
「はあ⁉ そこら辺の天気予報とかならともかく、『真に理想的な未来予知』だったら、たった一つの未来の有り様を、ズバリと予言するべきでしょうが⁉」
「──そんなことを言っていて、もしも
へ?
「……外れたら、って」
「例えば、ある小さな村の古びた祠に土地神様が奉られていて、村人たちにちょっとした奇跡とか知識を授けたりして、それなりに信仰を集めていたのですが、ある年不幸にも天候不順が続いて農作物が村の存亡に関わるほどに不作が見込まれた際に、村人たちが藁にもすがる思いで、これから先の『天候の推移』を神様に占ってもらって、その回答次第でもう少し頑張るか、いっそのこと村を捨てて新天地へと旅立つかを判断しようとしたとしましょう。──さて、この超重要な『天気予報』を、もしも神様が『外してしまったら』、どうなるでしょう?」
「ど、どうなる、って……」
「当然、神様としての信仰を失い、村人にとっては役立たずの得体の知れない『化物』に格下げされて、名実共に『神様ではいられなくなる』ことでしょう」
──ッ。
「ちょっと待って、そもそも神様が、未来予知を外したりすることが有り得るの⁉」
「有り得ますよ、この世に完璧な『全知全能』なんて、存在しないのですからね」
「……それは、小さな村の土地神ごときじゃ、全知全能レベルの未来予知は不可能ってことなの?」
「いえいえ、そんなものが本当にいるのか存じませんが、全宗教の上に立つ『絶対神』であろうとも、明日の天気を必ずピタリと当てることなんて、絶対に不可能なのです」
「自他共に認める『絶対神』であろうが、明日の天気すら当てることが不可能って、どうしてよ⁉」
「だから何度も何度も申しているではございませんか、現代物理学の根本原理である量子論に則れば、『未来には無限の可能性があり得る』のであり、『ラプラスの悪魔』に代表される人魔のレベルであれば、ただ一つの未来をズバリ当てることができるなどと言った『決定論』なんぞは、すでに古典物理学の衰退とともに全否定されているのだと」
「だったら、たった一つの未来をズバリと当てられない予知能力なんて、一体何の役に立つというのよ⁉」
「立ちますよ、例えばあなたにとっての、『最もやり直したいこと』なんかにね」
「……私が最もやり直したいこと、ですって?」
そ、それって、まさか──
「そうです、この『未来の無限の可能性』のすべてを把握する力を真に有効に使っていれば、あなたのお姉様の不慮の死を回避できたかも知れないのです」
「──‼」
(※【その8】に続きます)
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