第1169話、わたくし、『ちょい悪令嬢フライングクロスチョップ』ですの⁉(その6)

「──異世界で作成されている『現代日本の有り様を描いた』小説を、『予言書』として利用するための第一条件としては、まず何よりもその小説の内容が、現実の日本よりも未来のことを記述していなければなりませんよね?」




 あ。




「そ、そうか、その小説が未来のことを記しているとは限らず、現在のことか、下手したら過去のことしか書いてなかったら、『予言書』にはなり得ないんだ」


 こんな至極当然な可能性に思い当たらないなんて、私は馬鹿か?


「ああ、大丈夫、それこそ『やりよう』は、いくらでも有りますから」


「やりよう、って?」




「もしもあなたがわたくしのように異世界に行く場合、量子魔導クォンタムマジックネット小説である『ゆめメガミめない』が、現代日本の未来を描いている時点に行けばいいし、それが叶わないのなら、未来の記述になるまで異世界に居座り続ければいいのですよ」




「ええっ、そんなことができるの⁉」




「できるかできないかで言えば、ここで『できない』と明言してもよろしいのですよ? そもそも異世界に行くことなんて、常識的に不可能なんですから」


「うっ」


「でもこうして、本来異世界人であるはずのわたくしがここにいると言うことは、異世界から現代日本への移動が可能と言うことになるので、現代日本から異世界への移動も否定できなくなるのでは?」


「──結局、どっちなんだよ⁉」




「ですからここでは一応のところ、『できるかできないか』の話はやめておこうと申しているのですよ」




 ……あー、そういう意味か。


「確かに元々、『未来予知』とか『異世界召喚』とかを実現しておいて、その他の超常現象の実現可能性を頭から否定していたら、話にならないわな」


「ご理解いただけて、幸いですわ。──それでは、話を続けましょう」




「いやちょっと待って、確かに今あなたが言ったことが実現可能だったとして、必要な情報を得るまで、何日も──下手すると何年間も、異世界に居座り続けているうちに、当然現代日本のほうも時間が経過しているわけで、知りたかった『未来』が『現在』を通り越して『過去』になってしまって、わざわざ異世界に行った意味が無くなるんじゃ無いの⁉」




 ……考えてみれば、そうだよな。三日後のことが知るために、三日待つことになってしまっては、それは『未来予知』でも何でも無いわ。


 あ〜あ、話が終わってしまったじゃんか。




「そんなことありませんわよ、何せ複数の世界の間には、時間的な前後関係なぞ存在しないのですからね」




 へ?


「……な、何よ、『世界には前後関係は無い』って?」




「まず、現実的に考えれば一つだけしかないはずの世界に対して、よりによって物理学の根本原理である量子論において、『多世界解釈』なんてものが提唱されて、異世界転生やタイムトラベルの可能性が完全に否定できなくなるのは、なぜかと申しますと、むしろこの『現代日本』あるいは『現実世界』そのもの自体が、『無数の世界の集合体』だからなのですよ」




「は? この現実世界が、無数の世界から成り立っている、ですって?」




「世界と言うものの過去・現在・未来が、『一本道』そのままに連続していると言うのは、すでに過去のものとなった古典物理学における『決定論』的考え方なのであり、これだと未来と言うものがただ一つに決まっていることになるので、現代物理学の根本原理である量子論における『未来には無限の可能性があり得る』とは相容れず、現在の学界ではまったく認められないのは言うまでも無く、異世界転生をフィーチャーする『なろう系』やタイムトラベルをフィチャーするSF小説としても、断じて容認できないのです」




「……どうしてここに、『なろう系』やSF小説が出てくるのよ?」


「世界がただ一つしか無く、時間が連続しているとなると、別の世界や時点へと移転する、異世界転移や転生、それにタイムトラベルができなくなるではありませんか?」


 あ。


「実はこれは『現実問題』としても同様なのですよ。世界と言うものが時間的に一本道そのままに連続していると、何の変化も無く『昨日と同じ今日』が永遠に続くことになって、『革新的かつ急激なる変化』が望めず、世界がまったく発展しなくなってしまうのです」


「……別に急激で無くても、緩やかに変化を続けて行けば、ちゃんと世界は発展していけるじゃ無いの? ──それに、これまでの歴史上で、世界や時代が一変した、急激な変化なんて有ったっけ?」




「──恐竜の絶滅」




「うっ⁉」




「──産業革命」




「ううっ⁉」




「──二度の世界大戦と、核兵器の実用化を始めとする、科学技術の急激な高度化」




「うううっ⁉」




「──個人用コンピュータ端末と、それを世界規模で繋ぎ合わせるインターネットの発達による、現代文明及び文化全体の長足の進化と計り知れない多様化」




「うううっ⁉」




「このように、ほんのつい最近でも『急激かつ革新的な変化』は挙げればキリが無いほど有るのに、ほんの数千年足らずの人類史は言うに及ばず、億年単位の地球の歴史において、世界が一変するほどの変化が、どれ程の数有ったものか」


 ──た、確かに。


「……ヨーロッパの宗教革命にルネサンスや、日本の文明開化に戦後の高度経済成長等々の、細かいのまでも含めれば、文字通りに枚挙にいとまが無いしね」


「このことでわかるのは、世界や時間と言うものはけして連続しておらず、『現在』という一時点が独立して永遠に続いており、それはずっと『現在』であり続けて、『過去』も『未来』も存在しないのです」


「──過去も未来も存在しないって、だったらどうして世界は続いていくの⁉ こうして実際に、時間や歴史が積み重なっているわけ⁉」


「ですから、世界は『連続していない』と申しているでは無いですか? それに、時間や歴史なんて具体的に存在しておらず、人類が生活上必要なので便宜的に設定しただけなのです」


「……時間や歴史なんて具体的に存在せず、単なる『人為的設定』に過ぎないですって?」




「断絶した無数の『現在』という一瞬のみの時点である『世界』と言うものは、最初からすべての時点──つまりは、すべてのパターンが揃っており、そしてそれはけして一つも欠けることなく、ずっと存在し続けているのですよ」




「これまでの、いえ、これから訪れるはずの『時点』すらも、最初からすべて揃っていて、ずっとそのまま存在し続けるって、それじゃ過去も未来も有りはしないじゃないの⁉」


「だから、そう言っているでしょうが?」


 あ。


「それに、すべてのパターンが前もって存在していないと、量子論における『無限の可能性』と矛盾してしまうでしょうが?」


 そ、そういえば。




「そして、このようにいつでもどんな世界や時点にでも移転できる可能性を否定できないからこそ、異世界転生を扱った『なろう系』やタイムトラベルを扱った『SF小説』等の、『論理的根拠』ともなれるわけなのです」




「えっ、そこに繋がるの?………ちょっと強引じゃ無い?」




「──何をおっしゃっているのです、これはあなたのためでもあるのですよ?」




「私のため、って……」




「なぜなら、この『世界は無数の一瞬の時点に過ぎない』論に則ってこそ、真に理想的な『未来予知』を実現することができるのですから!」




 ──なっ⁉







(※【その7】に続きます)

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