第1166話、わたくし、『ちょい悪令嬢フライングクロスチョップ』ですの⁉(その3)

「──なっ⁉ 『メリーさん』てまさか、あの『都市伝説』で有名な『メリーさん』なわけ⁉ どうしてそんなのが、突然私の前に現れるのよ⁉」




 あまりにも予想外の展開の連続に、ついに堪りかねてわめき立て始める、我が国においても伝統有る神祇の家系の末裔である私こと、あかつきよみ(現役JK)。


 それに対してむしろ余裕たっぷりの大人びた表情で、深々とため息をつく、目の前の美幼女。


「……『そんなの』とはまた、ずいぶんな言いようなの。それにそんなに驚く必要も無いと思うの。別に知らない仲でもあるまいし」


「は?」




「忘れてもらっては困るの。本作におけるあたし『メリーさん』の初登場は、まさにあなたがヒロインを演じた、本作『わたくし、悪役令嬢ですの!』の【現代日本編】における、『渋谷(ハロウィン)事変』回においてだったの」




「え、そうだったっけ…………………って、ちょっと待って! 何なのよ『本作』とか、『わたくし、悪役令嬢ですの!』とかって⁉」




「何をおっしゃられているのよ、まさにこの現代日本におけるWeb小説として、わたくしことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナを主人公にした、『わたくし、悪役令嬢ですの!』という作品が、全世界的に公開されているのでは無いですか?」




 ………………………………………………へ?




「──そっちこそ何を急に、『メタ』そのままなことを言い出しているのよ⁉ あんた自分が『小説の登場人物』であるとか思っているわけ?」


わたくし自身はもちろん、現実の存在だと思っていますわ。──でも、あなたにとってはどうかしら?」


「……『私にとって』って、どういうことよ?」




わたくしはあなたにとっては、『異世界人』でしかも『予知能力者』であるわけでしょ? そんな超常的存在って、『小説の登場人物』とどれ程の違いが有ると言うの?」




「──ッ」




 な、なるほど、


『埒外の存在』という意味では、『異世界人』も『超能力者』も『小説の登場人物』も、大して変わりはしないよな。


「……うん、そういや私自身も、実の姉が『予知能力者』だったし、魔導書の力を借りたとはいえ、自ら『異世界召喚』なんかをやらかしたわけだし、今更『都市伝説』だけを否定するのもおかしいわな」


「やっとわかってくれたのね⁉ さすがはあたしのほ○らちゃんなの!」


「誰がほ○らちゃんか⁉ それにあんたも『ま○かちゃん』では無く『メリーさん』だろうが⁉ ──つうか、『都市伝説の存在』は認めるとしても、私あなたに会った記憶なんて無いんですけど?」


「「え?」」


 私の言葉がそれ程意外だったのか、何と異世界人と都市伝説が二人してスマホらしきものを取り出すや、何か小説のようなもの(おそらく今し方話題にのぼった『わたくし、悪役令嬢ですの!』とやら)を画面に表示した。


「……あ、本当だ」


「このエピソードでのあたしは、ある意味『イリュージョン』のようなものに過ぎず、『作者』の力を有するうえゆう氏以外だと、異世界人にしか認識できなかったっけ」


「姿格好についても、わたくしとあなたとそちらのあかつきよみ嬢とが、みんなまったく同じ外見をしていたしね」


「この当時の作者って、一体何を考えていたんだろ」


「……それについては、作者自身も、完全にど忘れしていたりして」


 なんか二人して、更にメタそのものなことを言い出しているぞ。


 しかしどうでもいいけど、やけに仲がいいなこいつら、初対面では無いのか?


 まるでどこかの【番外編】で、仲良く座談会の司会でもしているようでは無いか。




「……いや、それにしても、まさかメリーさんが異世界にもいたなんて、思ってもみなかったわ」




 そのように、思わぬ事実の発覚に、しみじみと感嘆する私であったが、


 どうせ、「もはや『なろう系』の異世界では、むしろメリーさん絶賛増殖中なの!」てな感じで、毎度お馴染みな『メタ』的な返しが来るものと思ったものの、


 ──返ってきたのはむしろ、幼女らしからぬ真顔での侮蔑の視線であった。


「……まったく、魔術師の家系の末裔であり、実際に異世界召喚を行いながら、複数の世界間の『境界線』と言うものを、ここまでまったく理解していないとは、むしろ尊敬に値しますわ」


「『世界の境界線』って………………もしかしてそれが、その子が『境界線の守護者』と呼ばれていることに関係が有るの? 例えばメリーさんとかの『都市伝説』って、『世界の境界線』とか呼ばれる所に住んでいるとか?」


「うんまあ、『都市伝説』全体としては、良く有る設定かも。現実世界とは微妙にずれた世界に生息していて、なんかの拍子で二つの世界が重なった時のみ、普通の人間が『都市伝説』と邂逅するとかいったパターンも少なくは無いですよね。──でもこの場合問題になるのはあくまでも、メリーさん独自の『キャラ属性』ですの」


「メリーさんの、キャラ属性、って……」


「例えば『なろう系』作品に結構見受けられますが、どうしてメリーさんが異世界なんかで存在することができると思われます?」


「え、それはもちろん『なろう系』にありがちなパターンとして、異世界転生や転移をしたり、異世界側から召喚されたりしたからでは? それともそれこそ、メリーさん独自のミラクルパワーによって、自由自在に異世界に行けるとか?」


 あまりにも話題のメタメタしさに、後半ほとんどヤケになって答えを返してみたところ、


「──おお、最後のほうは、ほとんど正解じゃ無いの♫」


 はい?




「ざっくりと答えると、すでに『なろう系』の異世界には、現代日本からたくさんの転生者が来ているからなのですわ」




 ──はああああああああああああああああああ⁉




「異世界に日本人がいるから、メリーさんも存在することができるって、何だそりゃ⁉」


 もはや原因と理由の因果関係が、むちゃくちゃじゃんか⁉


「あんたこんな『メタメタなメタ理論』を絡めなければ、メリーさんについて語れないわけか⁉」




「ええ、まさしくメリーさんこそは、『メタの申し子』とも呼べるのですから」




 へ?


「……な、何よ、その、『メタの申し子』って?」




「そもそもメリーさんが存在できるのは、『メリーさんの存在を知っている』者がいるからなのです。事の起こりは、メリーさんという人形を捨てた持ち主の所に電話がかかってくることから始まるのですが、当然その人はメリーさんを知っていたし、『都市伝説』になってからはむちゃくちゃ有名になったこともあり、ほぼ間違いなく『都市伝説としてのメリーさん』を知っている人の所にだけ、メリーさんは電話をかけてくるようになったのですよ」




「いやいや、メリーさんのことを知らない人の所にも、電話がかかってくることが皆無なんてことは無いでしょ?」


「そんなをして、どうするのです?」


「無駄なこと、って?」


「メリーさんのことをまったく知らない人のところへ、『あたしメリーさん、今駅の改札口にいるの』と電話をかけてみたところで、『……すみません、私あなたのことを知らないのですけど、間違い電話じゃ無いですか?』という返答で、話が終わってしまうじゃないですか?」


「いやそこは『都市伝説』として、何度でも電話をかけるべきじゃないの⁉」


「それは普通に、『着信拒否』されるのでは?」


「いやいやいやいや、メリーさんなら、『着信拒否』されようが、何か神通力とかで、無理やり着信させることができるよね? そうだよね、メリーさん!」




「……いや、何であなたが、そんな必死になって聞いてくるの? そもそも今アルテミスが言ったように、あたしが用が有るのは、あたしを捨てた相手だけだし、あたしを知りもしない相手に対して、しつこく電話をかけることなんて無いんだけど」




「──言われてみたら、おっしゃる通りじゃんか⁉」




「言うなれば、メリーさんの存在をまったく知らない人にとっては、メリーさんは存在しないも同然なのであり、電話がかかってきたりはしないと言うことなのですよ」


「……逆に言うと、たとえそこが異世界であろうと、メリーさんのことを知っている者がいれば、メリーさんが存在できるようになるってことなの?」




「言うなれば、『シュレディンガーの猫』みたいなものなのですよ。現代日本だろうが異世界だろうが通常デフォルトでは、メリーさんが存在するか否かは確定していないけど、メリーさんの存在を知っている者が一人でもいれば、そこで初めて存在する可能性が生じて、その者に対して何らかの形で連絡をして、『あたしメリーさん、今○○にいるの』と伝えた瞬間に、半信半疑でも『メリーさんが実際に存在するかも知れない可能性』を何となく肯定した途端、その世界にメリーさんは存在することになるのですわ☆」







(※【その4】に続きます)

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