第1165話、わたくし、『ちょい悪令嬢フライングクロスチョップ』ですの⁉(その2)

「……ちょっと待って、ようく考えてみれば現在の私の状況って、『邪○ちゃんドロップキック』で言えば、同じ巫女の跡継ぎであるゆ○ねちゃんでは無く、警察官のくせにガチの犯罪的『ロリコン誘拐魔』の婦警さんそのままで、これぞまさしく『事案発生』なのでは⁉」




 神田の怪しげな古本屋で見つけた魔導書によって、異世界から『予知能力者』を召喚しようなぞと言った、どこかのアニメのヒロインのようなことを藁にもすがる思いで敢行してみたところ、


 何と本当に、『何者か』の召喚に成功し、しばらくの間言葉を失い呆気のとられていた私こと、古き神祇の家系の後継者あかつきよみだが、




 冷静になって現在の状況を再確認してみたところ、非常にまずいことになっているのに気がついたのであった!




 月の雫のごとき長い銀白色の髪の毛に縁取られた、端整な小顔の中で満月そのままに煌めいている、黄金きん色の瞳。


 小柄でつややかな白磁の肢体を包み込んでいる、至る所をフリルやレースに飾り立てられた、漆黒のゴスロリ調のドレス。


 ──まさしく天使か妖精かといった神秘的な美しさであったが、問題はそこじゃねえ!




 どう見ても彼女の年格好が、10歳未満にしか見えないのですよ、奥さん!




 ……もしも、まさに今この時、この場に知り合いや警察官が踏み込んできたとしたら、一体どうなるでしょうか?


 未成年誘拐かつ監禁の現場以外の、何物でもありませんよね?


 現在の世間の風潮的には、私自身も女性でしかも年齢的に高校生であることは、何の免罪符にもなりませんし。


 しかも、言い逃れが一切できないと言う、最悪の状態にあったりして。


 だって馬鹿正直に、「古本屋で見つけた魔導書を使って異世界から召喚してみました☆」と言ったところで、誰が信じてくれるものか。


 いいとこ、『犯行当時精神的に問題あり』と言うことで、『犯罪責任能力』を問われなくなる可能性が生じるくらいなものだろう。




 ……どっちにしろ、『人生的にツミ』と言うことに、違いは無かった。




 ──どうすれば、一体どうすればいいの⁉




「……ねえ、人のことをこんな変なところに無理やりんでおきながら、何をさっきから一人で悶絶しているんですの? 少しは説明くらいしてくださらないかしら?」




 その時唐突に聞こえてきた、まるで鈴の音そのままの涼やかなる声。


 思わず振り向けば、目の前の美幼女さんが、人形そのままのご尊顔を、さも不快げに歪めていた。




「………え、日本語しゃべれるの?」




「──『なろう系』で、今更そこをツッコむのかよ⁉」




 あ、うん、『自動翻訳魔法』でも、発動していることにしておくか。


「……ええと、説明する前に確認したいんだけど、いいかな?」


「何かしら?」


「あなた先ほど自己紹介的に、『魔法王国の宗教的指導者』とか何とか言っていたよね?」


「ええ、申しましたけど?」


「と言うことは、あなた自身も魔法を使えるわけよね」


「まあ、使えるか使えないかで言えば、使えるかしらね」


「……妙に、もったいぶった言い方ね」


「あら、あなたは初対面の相手が、『我こそは全知全能の神である!』とか言い出した場合、まったく疑いなく信じてしまう『底なしの阿呆』なのかしら? そんなのに召喚されたとなると、わたくしも『とんだ間抜け』になってしまうのですけど?」


「──ぐっ」


 た、確かに、もしも今この子が『わたくしどんな魔法でも使えますわ☆』とか言い出したら、むしろ胡乱な思いを抱いてしまったであろう。


「……じゃあ、ズバリ伺いますけど、あなた、『予知能力』が使えるかしら?」


「予知能力って、『未来予知』とか『予言』とかの類いのこと?」


「ええ、そうよ」


「──まあ、あなた、ラッキーじゃ無いの!」


「へ?」




「何を隠そうこのわたくしこそが、『の巫女姫』と呼ばれし、ホワンロン王国きっての『予知能力者』でございますの!」




 ──なっ⁉




「それって、本当⁉」


「ええ、もちろん」


「だったら、お願いが有るの!」


「ほう、どんな?」




「これから私の、未来予知を行っていって欲しいの!」




「……これはまた、妙な言い方をなされるわね?」


「え、私何か、おかしなこと言った?」




「普通わたくしのような力を持つ者に対しては、『未来予知をして欲しい』とか望むはずなのに、『自分の代わりに』ってのは、どういうことかしら? あなた自身が未来のことを知りたいわけじゃ無いの?」




 ……ああ、そういうことか。


「実はあなたには、私の姉の代わりになって欲しいの」


「お姉様の代わり、とは?」


 ──そこで私は正直に、彼女にすべてを明かした。


 我が明石月家が、代々『予知能力を有する巫女姫』を輩出する家柄であることも。


 残念ながら私自身は無能だが、双子の姉のほうは希代の予知能力者であったことも。


 そんな彼女が、私(や姉自身)のいたずら心のために、死んでしまったことも。




 ──その結果、これからは私が姉になりすまして、『未来予知の巫女姫』として生きていかなければならないことも。




「……ふうん、難儀な話ねえ。まあ、あなたのような素人ごときが、『召喚術』などと言った『禁忌のわざ』に手を出した理由はわかったわ」


「え、召喚術って、禁忌だったの⁉」


「……いや、本当にあなた、この世界の古き神祇の家系の娘なの? そもそも魔術とか魔法自体が、滅多なことでは手を出してはならない、『禁忌』そのものなんでしょうが!」


 ──ううっ。


 し、仕方ないじゃない。


 私はこれまでずっと、明石家においては『みそっかす』扱いされてきて、まともな魔術指導なんて受けては来なかったんだから。


「特に『召喚術』なんて、禁忌中の禁忌なのよ? ──それこそ、『予知能力』なんかよりもね」


「どうして? むしろ予知能力のように、神様でも無い身で未来のことを知ろうとするなんて、ただの人間には最上級に『出過ぎた真似』なんだから、召喚術なんかよりもよほど禁忌だと思えるんだけど?」


「何よりも世界にわたって、人や物を移動させるところが問題なのよ。本来そう言ったことなんて有ってはならないので、『境界線の守護者』と呼ばれる、それはそれはヤバいお方たちが、随時見張っているくらいなのですからね」


「境界線の、守護者、って…………」


 その時突然着信音を鳴らし始める、傍らのテーブルの上に置いてあった、私のスマートフォン。


「噂とすれば何とやらね、わたくしには構わず、出てごらんなさいよ」


「──『出てごらんなさい』って、あなた異世界人のくせに、これが『通信機器』の類いであることを知っているの⁉」


「……だから『なろう系』の作品内でいちいち細かくツッコむなって、言ってるでしょうが⁉ いいからとっとと出なさいよ!」


 ええー、さっきからちょっと、設定がガバ過ぎない?


 そんなことをぶつくさと心の中でつぶやきながら、スマホの通話ボタンをタップした、


 まさに、その刹那、







「『──あたし、メリーさん。今あなたの後ろにいるの』」







 確かに、スマホのスピーカーから、


 それと同時に、『肉声』としても、すぐ真後ろから、




 いかにもどこかで聞いたような台詞が、聞こえてきたのであった。




 そして、恐る恐る振り返ってみれば、そこには──




 まるで捨てられた人形のようなボロボロのドレスを、やはり10歳未満の華奢で小柄な肢体にまとった、


 人形そのままのブロンドヘアに青水晶の瞳をした、絶世の美幼女がたたずんでいたのである。







(※次回に続きます)

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