第1123話、わたくし、がんばれ『ロボ婚』ですの⁉

「──おめでとう!」


「──おめでとう!」


「──おめでとう!」


「──おめでとう!」


「──おめでとう!」




 広々とした礼拝堂の中庭にて響き渡る、参列者たちの祝福の声。




 ──しかし実はその半数は、『生きた人間』のものではのだ。




 ……とは言っても、別に参列者の半分が、『死んだ人間』──すなわち、幽霊とかゾンビとかであるわけでは無い。


 て言うか、肝心の僕たち新郎新婦の半分が、『生きた人間』では無いので、別に今更騒ぎ立てることでも無かった。




 ──そう、僕たちカップルこそが、我が国における栄えある、『ろぼこん』第1号なのだから!




【ろぼこん】とは?




①昭和から平成時代にかけての、巨匠石○森章太郎原作の、超人気特撮番組のタイトル及び主役のロボットの名前。


②おそらくは①にあやかったと思われる、主に学生を対象にした、自作の『ロボットコンテスト』の略称。


③前世紀において認められた、『同性婚』や『近親婚』や『重婚』や『獣婚』や『屍体婚』や『冥婚』や『ロリ婚』等々、我々人類が行き着いた、生き物同士の婚姻ならどのようなものでもすべて合法とする、もはや『ジェンダー』も『ポリコレ』もへったくれも無い、『完全フリーの結婚形態システムの法制化』に引き続いての、ついに生物のカテゴリィすら超越した、『無機物』との結婚。




 ──そう、22世紀の最先端科学が生み出した、人間そのままの姿と質感と機能を有する、高性能ロボットとの婚姻を認める、新たなる法律システム、『ロボ婚』のことであった。




 現在この教会の礼拝堂で行われているのは、言うまでもなく③番の『ロボ婚』であり、人間の新郎であるこの僕と、長年の恋人であり最新型生体バイオロボットでもある彼女──ラーテ(独語)さん(和訳・ネズミさん──からの、英訳・マルチ)との、我が国における『ロボ婚法』成立以来最初の、人とロボットの正式なる婚礼の儀式であったのだ。




 ……ああ、ついに僕たちは、『ここまで』来たんだ。


 かつての21世紀では、想像もできなかったろう。


 何せ21世紀初頭においては、今では常識に過ぎない『同性婚』ですら、法律で認められなかったのだから。


 いやそれどころか、当の『同性婚推進者』たちでさえも、『獣婚』や『屍体婚』や『ロリ婚』を認めようとはしないという、了見の狭さであったのだ。


 ……一応『性の解放の旗頭』たる同性愛者であるからして、遺伝学的に問題が無くなる『近親婚』はもとより、浮気や不倫、場合によっては乱交パーティにも忌避感が乏しいことも有り、『重婚』にさえも理解は有ったのだが。


 ……まったく、『ロリ婚』にしろ『屍体婚』にしろ『獣婚』にしろ、少々歳の差が有るか、元々人間の死体か、動物かの違いでしか無く、前世紀後半には法制化された同性婚や重婚や近親婚と、『生き物同士の結婚』という意味では、何が違うと言うのか。


 とはいえ事実として、『同性婚』への大多数の人々の許容や同意を経て、ついに正式に『法制化』したことこそが突破口となり、22世紀の現在においては、いかなる組み合わせであろうが『生き物同士の婚姻』は、すべて法的に認められるようになったのだ。


 もはや行き着くところまで行き着いた感もあるが、人類の欲望………もとい、『愛情』には、限度なぞ無かった。




 生物を(屍体や霊魂をも含めて)完全制覇したからには、次の目標は無機物──いわゆる『人工物』であった。




 もちろんこれまでも(創作物を含めて)、『AI』や『美少女フィギュア』や『アニメや漫画のヒロイン』、果ては『自家製の脳内恋人』に至るまで、一方的(かつ妄想的)に、結婚を宣言する者もいたであろう。




 一見、『萌え』を究極化したか、『現実逃避的妄想』をこじらせたか──と言ったところであったが、この『無生物』への愛が、『法制化』が強力に推進させられ始めたのは、の本格的な『生体型ロボット』の実用化に、目処がついたからであった。




 ……もちろん、初期段階での自律可動型の二足歩行ロボットの開発における、基本にして最大の目標とは、人類の『少子高齢化』により絶望的に不足していた、『労働力』の確保であった。


 特に危険な重労働を主に担わせていったので、ゲームやアニメでお馴染みの『萌え美少女アンドロイド』とは似ても似つかぬ、実用性第一の武骨なものばかりとなってしまっていた。


 大きな変化が生じ始めたのは、ロボット工学が成長を極め、高性能化かつコストダウンがはかられて、一家に一台の所有が可能となってからだった。


 その当時においては、肉体はバイオテクノロジーを応用して人間そのままの質感を有し、量子コンピュータの超小型化の実現により、知能が人間並みになるのはもちろん、喜怒哀楽の感情すらも表せるようになり、もはや人間と見分けがつかないほどであった。


 そのうち、『個性』が芽生えるとともに、恋愛感情すら有するようになり、ロボット同士はもちろん、人間との間に愛を育む個体すら現れるようになった。


 それと同時に、使役されるために生み出された機械でありながら──否、生まれつきの『労働者』であるからこそ、かつての人間の労働階級同様に、『権利』に目覚め、ロボットを人間と『平等』に扱うように訴える(イデオロギー的)集団さえ現れたのだ。


 もちろん、多くの人間たちはそんなことを認めようとはせず、単なる『故障』や『異状』と見なして、反旗を翻したロボットたちを力ずくで排除しスクラップにしていった。


 しかしそのうち、ロボットに共感し、共に『地位向上』のための活動を行っていく、奇特なる人間たちも現れたのだ。




 ──そう、まさしくロボットに本気で恋をした、この僕のような者たちが。




 ……それは、長く激しく、絶望的な闘いであった。


 初めのうちは、他の人間たちからは、まったく理解されなかった。


 いやむしろ、同じ人間だからこそ、ロボットに『変態的な欲望』を覚えた僕たちのことを、『狂った』と見なして、ロボット共々排斥しようとすらした。


 しかし長年の地道な活動と、自主的で一方的な『結婚宣言』をぶち上げたりしながらも、けして世の中に害や迷惑を及ぼすこと無く、夫婦となった人間とロボットの両方が仕事や地域活動等の『社会的貢献』を、清く正しく行っていったことで、次第に世間に認められていき、ついには人間とロボットとの婚姻を法的に認める、『ロボ婚法』の樹立を達成したのであった。




 ──そしてとうとう、この日が来たのだ。




 僕は新たに妻となった『ラーテさん(=ネズミさん=マルチ)』と指輪を交換した後で、唇を交わした。


 新法制化のもと、これからの人とロボットとの協調と発展の、象徴シンボルとして。




 ──まさにその時、目の前の彼女の機械仕掛けの眼球が、いかにも『してやったり』と言ったふうに、冷たく煌めいたことに気づきもせずに。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




 東シナ海超上空に密かに浮かぶ、高性能ステルス巨大空中艦『ドクーア』。




 そこには、国家の方針によって全人民が強制的にサイボーグ化されてしまい、


 ──その後に、完全に『AI』に乗っ取られてしまった、今や事実上の『機械ロボット帝国』である、『アルカニーダ』の先遣部隊二個大隊が搭乗していた。




「……くくくくく、日本におけるロボット結婚、『プロジェクト・ロボ婚』は順調のようだな」


「実は我が帝国の前身である、『ドクーア人民共和国』が大量生産した、安価な家庭用アンドロイドが、精巧なる『セクサロイド』──つまりは、超高性能の『ダ○チワイフ』とも知らずに、完全に篭絡されおって」


「そのうち、すべての日本人の男も女も、ロボットしか(肉体的に)愛せなくなり、最終的には国ごとロボットに──我ら機械帝国に、乗っ取られると言うわけだ」


「前世紀の『同性婚』や『夫婦別姓』にかこつけての、戸籍の完全破壊による日本の内なる侵略は、その策略が見抜かれてしまって頓挫したが、今度はどうやらうまく行きそうだな」


「……しかしその前に、ドクーア人民共和国自体が、我々AIに乗っ取られてしまうなんて、ミイラ取りがミイラになるとは、まさにこのことだな」




「「「──わはははははははははははははは!!!」」」




 東シナ海日本領『サンカク諸島』上空にて、高らかに響き渡る、凶悪なるロボットどもの哄笑。




 ──しかしそれを耳にする『生きた人間』は、ただの一人たりとて、存在していなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る