第1090話、わたくし、【完全新作】『お稲荷様転生記』ですの!(その4)

 ──気がつけば『私』は、現代日本の某県山奥の隠れ里にある、旧家の座敷牢の布団の中で横たわっていた。




 ……え。


 ちょっと、待って?




「──まさか、夢オチ⁉」




 し、信じられないッ。


 おいおい、四回も連載を続けておいて、結局この体たらくかよ?


 これもう、「作者が病気だった」とか言った、言い訳は通用しないぞ⁉




「……やれやれ、別に『夢オチ』でも構わないじゃ無いか? むしろおまえ自身が『夢の世界における作者』──すなわち、『神様』そのものだからこそ、『未来予知』は言うまでも無く、『異世界転生』や『世界そのものの改変』なんて、意のままにできるんだし」




 ………………………は?


 私が『夢の世界の作者』みたいなもので、『異世界転生』や『世界改変』をやりたい放題ですって?


「──てか、夜明やめ様、どうしてこんな所に⁉」


 そうなのである、


 一応『淑女の寝室』であるこの座敷牢の格子の外で、ニヤニヤとした笑みを隠そうともせずにこちらを見つめていたのは、このたび我が一族の『御当主様』を襲名したばかりの、本家のお坊ちゃまであった。


「……どうしても何も、おまえを『異世界転生』させた手前、戻ってくるまで見守ってやらないと、無責任だろうが?」


 へ?


「見守っていたって、私が目覚めるまで、ずっと待ってくださっていたのですか?」


 ……それはそれで、若干キショくて退くけどね。




「ずっとって言っても、ほんの二、三分くらいだけどな」




「はあ?」


 に、二、三分て。


 確かに、夢の中の時間は現実世界とは全然違うと言うけど、それでも異世界で生まれ直してからの十数年間が、たった二、三分ですって⁉




「実はおまえは、実際に異世界転生をしたわけでは無いのはもちろんのこと、『異世界転生をする夢を見た』わけでも無く、ただ単に夢の世界を通して『集合的無意識』とアクセスして、『異世界人の記憶と知識』を、脳みそにダウンロードしただけなんだよ」




 ──また、そのパターンかよ⁉


「……ちょっと、いい加減にしないと、そのうち読者の皆様から飽きられてしまいますよ?」


 あとこのしつこ過ぎる、『メタパターン』もな。




「何言っているんだ、おまえの『未来予知能力』自体が、『集合的無意識とのアクセス方式』以外で、どうやって実現できるんだよ?」




 あ。


 そ、そういえば。




「しかも、『絶対に的中する未来予知』ときたもんだ。これって、これまでには無かったパターンだよな?」




 ──⁉


「言われてみれば、確かにおかしいじゃん⁉ これってこれまで作者が語ってきたことの、『全否定』じゃ無いの⁉」


「そこがおまえが、『作者』であり、『神様』であるってことなんだよ」


「だからその、『神様』とか『作者』って、一体何なのよ⁉」




「単に集合的無意識から『未来や他の世界の情報』を脳みそにダウンロードして、『あくまでも可能性レベルの未来予知』や『なんちゃって異世界転生』ができるだけでは無く、ガチで他人の意識を書き換えるのを始めとして、世界そのものを書き換えることができると言う、文字通り『創造主』的存在だよ」




 世界そのものを、小説家が自作を改稿するかのように、『書き換える』ですって⁉




「以前言ったように、現在の『天気』に合わせて、他者の『記憶』を書き換えて、量子論上『本物の神様』でも絶対不可能なはずの、『天気予報の完全的中』を実現すること自体も『反則技』レベルだけど、おまえは他者の精神を完璧に書き換えて自分の意のままに操るのみならず、特に世界のすべてが変幻自在の『ショゴス』によって構成されている剣と魔法のファンタジー異世界においてなら、世界そのものを物理的に改変することも可能なんだよ」




「──それってつまり『量子論』的に言い直せば、すべての物質を集合的無意識からダウンロードした『形態情報』によって書き換えて、分子レベルで自分の望むままに変化メタモルフォーゼさせることができるってことなの⁉」


 確かにそれなら間違いなく、『神様』そのままじゃん⁉


「ど、どうして、『狐の先祖返り』でしか無い私に、そんな大それた力が有るのよ⁉」




「そりゃあもちろん、俺たちの御先祖様と結ばれたという『お狐様』ご自身が、『神様』だったからに決まっているじゃないか?」




 ──‼




「……狐が神様、ですって?」


「正確には、『神様の使い』かな?」


 神様の、使い?


「──ああっ、それって、もしかして⁉」




「そう、ご存じ『お稲荷さん』さ。昔から我が国の神道においては、狐こそは『神様の使い』であり、『神様』そのものを象徴しているんだよ」


「……それなのに、最近の漫画やアニメやWeb小説においては、おまえのような『狐耳の美少女ヒロイン』と言うと、単なる『萌えキャラ』や『妖怪や魔族』や『狐の獣人』と言う、『低レベルの人外キャラ』としか扱われていなくて、嘆かわしい限りだぜ」


「でもね、『狐耳キャラ』って、まさしく『神様のメタファ』なのであって、もちろん『神様』同然の力を使えて当然なんだよ」




 わ、私が単なる『萌えキャラ』なんかでは無く、『神様のメタファ』そのもので、神の力を行使できるですってえ⁉




「そういうことで、別におまえが俺たち人間に対して、『疎外感』や『劣等感』を持つ必要は無いんだ。人間のほうこそおまえを崇め奉るしか無く、むしろおまえは俺たちを、せいぜい『見下して』やればいいのさ」




 ──ッ。


 そのように、かつて私を『自由にする』ためだけに無理やり新当主の座をもぎ取った青年は、これまでに無い優しい目つきでささやきかけてきた。


 そうか、


 彼は私を、この座敷牢や明石あかしつき家のしきたりからでは無く、私自身の『心の呪縛』から、自由にしようとしてくれているんだ。




「……で、でも、あなたが言うように、いつでも自分たちの精神を書き換えて意のままに扱ったり、下手すると世界そのものを改変したりできる私のことが、怖くは無いの?」




 恐る恐るそのように尋ねてみたところ、その新当主様はあっさりと言ってのける。


「そこら辺のところは、『明石月のシステム』的に、問題が無いようになっているんだよ」


「明石月のシステム、って……」




「俺のような本家の血筋のうち、当主に選ばれるようなずば抜けた力の持ち主は、『巫女姫おまえ』の精神操作を受け付けないばかりか、下手に『神様としての力』を暴走させた際には、それを無効化して世界の破滅を防止することができるんだよ。──まあ、具体的に言えば、おまえの『集合的無意識とのアクセス能力』を、『神業レベルの力の発現』に関してのみ、遮断することができるわけさ」




 ──なっ⁉


 明石月の当主と巫女姫とに、そんな補完関係が有ったなんて⁉




「──と言うことで、俺たちはこれからずっと『一蓮托生』であり、文字通り『切っても切れない関係』にあるわけだから、よろしくお願いするぜ」




 そう言って、右手を差し伸べてくる青年。




 それに対してわずかに頬を染めながらも、生まれて初めてと言ってもいいほどの晴れやかな気持ちで、格子越しに力強く握り返す、『狐の巫女姫』であった。

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