第991話、わたくし、男は『身長』なんかでは無く、『頑張り』こそがすべてだと思いますの!

 私が、最近最も衝撃を受けたのは、久方振りに帰郷した実家において、作成中の『国勢調査』の提出書類を見た時だった。




 ──父親の最終学歴、『短大卒』。




 一瞬、我が目を疑った。




 私自身は、歳をとってから授かった末っ子と言うことで、結構無理して京都の名門私立大学に入れてもらった。


 歳の離れた長姉は、地元の私学とはいえ、現在市役所のトップスリーの一角を占めるほどの出世を遂げたことからわかるように、有能な卒業者を大勢輩出している、伝統有る四年制大学を卒業している。




 それなのに、


 ──ああ、それなのに、




 私たちに誰にも恥じない学歴を与えてくれた父親自身が、まさか短大卒業だったなんて。




 ……職業が『教師』だから、当然『教育大学』卒業だとは思っていたけど、


 教育大学には、『短期課程』も有ったのか?


 昔の、いわゆる『ベビーブーム』の期間だけの話?


 ひょっとして、今も存在していたりするの?


 ──あ、一応ネットで調べたところ、『教員養成課程』を有する短期大学や短期履修コースを有する大学は存在しているものの、れっきとした公立の教育大学の『分校としての短期大学』は、少なくとも現在実家が所在する地方には存在していないようであった。


 つまり、大昔の高度成長時代において、児童の数が増えすぎて教員の数がまったく足りなくなって、窮余の一策として教師を『促成栽培』するために、二年という通常の過程の半分で済む短期大学を、日本全国で手っ取り早く設立したと言ったところであろう。


 ……ある一定の時期に特に小学校において、『女教師』が圧倒的な割合を占めていたのも、同じような理由だったのではなかろうか?


 もちろんこのような、いわゆる『自分の生まれる前のことはすべて、現実味の無い歴史上の出来事に過ぎない』論に則れば、まさか国立の教育大学に短期の分校があったなんて知る由も無かった私は、自分をここまで立派に育ててくれた父親の最終学歴が短期大学だったことに、今更ながらに驚愕せざるを得なかったのだ。




 ──何せ父は、この地方における校長への昇格の、『最年少記録』を塗り替えるほどの、いわゆる『出世頭』そのものだったのだから。




 この地方では、お中元やお歳暮は配送業者任せにせず、自らお世話になった相手のところに届けるのを習わしとしていた。


 私が子供の時にも、大勢の立派な身なりをした大人たちが、盆暮れの挨拶にやって来た。


 ある日一人で留守番をしていた時、子供相手に畏まって贈り物を手渡してきた初老の紳士に向かって、「どちら様ですか?」と聞いたところ、彼はこう言った。




「○○小学校の校長です。お父様にはよろしくお伝えください」




 びっくり仰天したのは、言うまでも無かった。


 私の父親って、ただの校長では無く、他の校長が自ら盆暮れの挨拶に出向いてくるほどの、『大校長』だったのか⁉──と。


 その後すぐに母親が帰ってきたので、大慌てで事の顛末を伝えたところ、彼女は少しも驚くこと無く、こう言った。


「──当然でしょ? あの人は本来校長の器じゃ無かったんだけど、これまでいろいろと役に立ってくれたので、お父さんが無理して校長にしてやったんだから」



 ──何ソレ怖い。


 うちの父親って、『大校長』どころか、『フィクサー』か何かだったのかよ⁉


 それが『短期大学』しか出ていないって、どういうこと?




 そうなのである、


 終戦直後の子だくさんの貧乏家庭の次男坊で、とても四年制大学なんかには行けなくて、


 自分で奨学金をもらって、徒歩で遠方の分校まで通って、


 そんな家柄も学歴も最低だというのに、誰にも負けまいとがむしゃらに働き続けて、


 この地方の小学校教師として、『頂点』にまで登り詰めて。




 ──そんな父も、職を辞して、長年連れ添った母を亡くしてからは、めっきり老いてしまった。




 一緒に散歩に行くその姿も、いやに小さく見えるようになった。




 ──否。







 父は最初から、身長が低かったのだ。







 ……無理も無い。


 戦後の食糧難時代の大家族の中で『みそっかす』として育てられてきたのだから、当然の仕儀であろう。


 それに対して、生まれつき『校長先生のお嬢さん』であった母親は、ただでさえ祖父が高身長であるだけでは無く、比較的裕福であったので栄養も行き渡り、女性にしては結構背が高かった。


 その血を受け継いだ、私と姉も、170センチ以上の身長を誇っていた。


 特に姉は、その威風堂々とした外見と無口な性格が相俟って、市役所の重鎮としての貫禄に満ちあふれており、同じ公的機関の上級管理職とはいえ、第一印象では何かと舐められがちな父とは雲泥の差であった。




 そうなのである、実は私の家族の中で父だけが、異様に低身長であったのだ。




 だけど、むしろ低身長であったことや、貧乏であったことや、短期大学卒であったことこそが、彼のバイタリティの原動力となったのだ。


『親ガチャ』と言うのなら、戦後の混乱期の大家族の中で、実の親から虐待され続けた彼こそが、いくらでも『親ガチャ』のせいにできたであろう。


 少なくとも、同世代の母が生まれ育った家庭環境とは、比較にもならなかった。


 しかし父は自分の人生を一度も、『親ガチャ』のせいや、貧乏のせいや、学歴のせいなんかに、したことは無かった。


 とにかく、自分自身の持てる力を振り絞って、自他共に認める『校長の中の校長』にまで登り詰めたのだ。




 ──果たして、この事実を前にして、『低身長の男性には人権が無い』なんて、ほざけるやつがいるだろうか?







 はっきり言って、『殺意』を覚えた。







 ……もうね、存在自体が『害悪』である、ろくな事件を起こしやしない(一部の悪質な)、『プ○ゲーマー』や『Y○uTuber』や『お笑○芸人』こそ、すべての人権を剥奪して根絶やしにしたほうがいいんじゃ無いかなんて『暴言』を、うっかり吐き出しそうになりましたよwww




 あ、これはあくまでも、『一部の悪質な人』限定の話ですよお?




「ふざけるな!」「職業差別だ!」とかわめき立てるやつは、自分が『害悪』である自覚が有るだけじゃ無いですかあ?(棒)




 そういえばエロ漫画のお約束的パターンとして、クラスの女王様的存在が、弱者男子を散々馬鹿にしていたら、「──オラッ、劣等遺伝子をくれてやる!」「いや、やめて、それだけはやめて! いやあっ、劣等遺伝子、いやああああああっっっ」とか何とか、『わからせられる』作品をよく見るけど、例の『発言者』の方、本当に大丈夫う?




 ……本作において何度も何度も申しておりますように、『差別』は絶対に無くならず、『低身長』であるだけで、一生差別され続ける運命にある方も多いでしょう。




 だけど、そんなクソみたいな差別主義者になんか、負けては駄目だ!




 常に差別と闘い続けて、最終的に自分の人生に勝利すれば、それでいいんだ!




 ──まさしく、私の父のようにね。
















 ……ちなみに、『低身長男性差別』発言をした某女性プロゲーマーは、SNSを中心としてネット上で散々叩かれた挙げ句の果てに、スポンサー様から次々と契約解除を食らっているそうですwww

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