第967話、わたくし、『敵基地攻撃』は『軍艦擬人化少女』にお任せですの⁉

 ──今私の前には、絶対に乗り越えることのできない、巨大で強固なる壁が立ち塞がっている。




 とはいえ、本当に物理的な壁が、この東エイジア大陸の東方海上浮かんでいる、弓状列島『神聖皇国旭光ヒノモト』の、国境カイガン線すべてを取り囲んでいるわけでは無い。




 先の『魔女大戦』において、基本的にこの島国にしか棲息していない、最強の魔法種族である魔女と、その他の種族たちとの、十数年にも及ぶ世界戦争の末に、どうにか魔女たちを大陸から追い払うのには成功したものの、その実力差は『圧倒的な数の差』でさえも覆すことは叶わず、全世界の結界術師の命と引き換えに、魔女たちを島内に閉じ込め外界に侵出することを絶対に禁じる、『不戦の契り』を具現化した、人呼んで『九条の結界』を、弓状列島改め『九条』列島の外周すべてに張り巡らせたのだ。




 これにより、いかに絶大なる魔力を誇る魔女とはいえ、列島の外へと侵出して、よその国に対して物理的及び魔法的に攻撃を加えることは、年に一度魔女たちの力が最高潮に達して、その反動で結界自体に綻びが生じる、『ヴァルプルギスの夜』のみに限られることになったのだ。


 ──それに対して、周辺諸国においては、魔力では到底敵いっこ無いと言うことで、次第に科学技術の向上によって補おうとし始めて、戦後80年近くも経過した現在においては、各国とも核兵器や長距離かつ超高速ミサイル等、遠距離から確実に魔女の国を殲滅し得る、戦略兵器や戦術兵器の開発に鎬を削っていた。


 特に最近頻繁に皇国の近海においてミサイル発射実験を行っているのが、極東半島部の北側に位置する、ダークエルフ族の共和国で、その『大量破壊兵器』の実用化は、魔術に長ける魔女たちにとっても、とても無視できない脅威であった。


 そこで皇国においても、攻撃&防御魔法術のより向上を図るとともに、科学技術力の開発にも取り組み、敵国のミサイルや爆撃機の早期発見や撃墜のためのシステム作りに邁進していったのだ。


 ──だが、しかし。


 ますます高速化及び変則フレキシブル化していく敵ミサイルの性能の向上に、防衛システムが追いつかなくなり、いっそのこと敵国本土のミサイル発射基地に対して先制攻撃を行う、『敵基地攻撃能力』の実装が望まれるようになった。


 もちろん『九条の結界カベ』が有る限り、そのようなものなぞ実現できるはずが無かったのだが、




 ──そこは、世界最強の魔法種族たる、魔女といったところか。




 実はいくらでも、やり様があったのだ。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──と言うわけで、今から『敵基地攻撃』を開始しまーす★」




 休日の北ダークエルフ人民共和国の首都、ピンチョンの繁華街にて響き渡る、幼い少女の快活なる声音。


(※作者注、この一見特異な首都名は、現代アメリカ文壇におけるポストモダン文学の代表格、トマス=ラッグルス=ピンチ○ン=ジュニア氏にあやかってつけております)


 何事かと振り向く大勢のダークエルフ人民の目にさらされて、途端に赤面して縮こまる、一見人間ヒューマン族に見える、何の変哲もない幼い少女。


 ただしそれは発言者ご本人では無く、彼女の妹であった。


「──もう、ヘレナったら、突然こんなところで叫んだりして、恥ずかしいじゃないの?」


「でもミクラ、お母さんが『作戦実行』の前にちゃんと『宣告』しないと、国際条約違反になってしまうって言ってただろうが?」


「……それならそれで、言いようというものがあるのでは? ──見てごらんよ、ダークエルフの皆さんの怪訝そうな顔、みんな本気にしていないじゃないの?」


 そのように、いかにもあきれ果てたようにたしなめる、三人姉妹の末っ子であるヤシロ(宇宙服非着用)の声に促されるように周囲を見回せば、確かにすでに彼女たちは、この場の注目をすべて集めていた。




「……何だ、あの子供たち?」


「東エイジア大陸の中つ国の、人間ヒューマン族か?」


「しかし、さっき何と言っていた?」


「確か、『敵基地攻撃』とか、何とか」


「それって、旭光ヒノモトの魔女どもが、密かに開発を行っているって、噂のやつだろ?」


「と言うことは、あの子たちって、魔女の幼体である『魔法少女』とか⁉」


「あはははは、そんな馬鹿な。魔女はもちろん魔法少女だって、春の到来を告げる『ヴァルプルギスの夜』以外は、あの九条列島の外には出られないんだからな」


「こんな真冬に、このエルフ半島にいるわけが無いだろうが」


「そういう意味では、そもそも『敵基地攻撃』自体、できっこないんだよな」


「何せ『九条の結界カベ』は、魔女のどのような魔法だって、通しはしないからな」


「当然、最高の先端技術が投入されると思われる、『敵基地攻撃』においても、何らかの形で魔法が使われるはずだしね」


「第一ここは『軍事基地』どころか、我が北ダークエルフ人民共和国の誇る、首都ピンチョン最大の繁華街だからな。攻撃目標からは除外されるだろうよ」


「そうだそうだ」


「「「──わはははははははははははは!」」」




 そのように表通り中に響き渡る、明朗なる笑い声。


 しかし──




「あら、ここにもちゃんと『首都環状線』という立派な『鉄道』が存在しているのだから、紛う方無き『敵基地』として、攻撃目標になるんですけど?」




 いきなりとんでもないことを言い放つ、ヘレナと呼ばれた少女。




 そのいかにも『好戦的な表情』に、思わず笑みを消し去って食ってかかっていく、休日の群衆たち。


「ど、どうして、環状線があるだけで、『軍事基地』になるんだよ⁉」


「どこの国の首都にだって、鉄道ぐらいあるだろうが⁉」


「それも全部『敵基地』として、攻撃目標にするつもりなのか?」




「いや、あんたら、この前馬鹿丸出しで、時代錯誤の『列車砲』モドキの鉄道軌道上発射型の、大陸間弾道弾の試射を行ったじゃないの? ──しかも、恐れ知らずにも我が皇国に向かって。よってその瞬間、この国の鉄道網のすべてが、我が皇国にとっての『敵基地』に該当することになったのさ。……何せ発射実験のせいで、我が国の漁業等に深刻な被害が出てしまい、これ以上看過することができず、今回こうして『敵基地攻撃』を実行することにしたんだよ」




「な、何だよ、その『詭弁』は⁉」


「それに、『我が皇国』だと⁉」


「やはりおまえらは、旭光ヒノモトの魔法少女なのか⁉」


「そんな馬鹿な⁉ おまえらは『ヴァルプルギスの夜』以外は、島外には出られないはずだろうが⁉」




「私たちの母親である、軍艦擬人化型魔法少女の『雪風』は、魔女大戦後『賠償艦』として、皇国から独立した『タイヴァーン』に渡り、そこで私たち姉妹を産んだんだ。──つまり、私たちは最初から九条列島の外で生まれ育っているので、『九条の結界』の影響を受けないんだよ」




「タイヴァーン生まれの、魔法少女だと⁉」


「そんなものがいたのか⁉」


「……ちょっと待て」


「母親が、軍艦擬人化型魔法少女、だと?」


「だったら、おまえらも──」




「はい、その通り♡ ──集合的無意識とアクセス! アメリカ海軍所属セントルイス級軽巡洋艦2番艦、『ヘレナ』の武装形態情報をダウンロード!」




「──集合的無意識とアクセス! 大日本帝国海軍所属御蔵型海防艦1番艦、『御蔵』の武装形態情報をダウンロード!」




「──集合的無意識とアクセス! 大日本帝国海軍所属御蔵型海防艦6番艦、『屋代』の武装形態情報をダウンロード!」




 そのように、あたかも呪文めいたことをつぶやくや否や、三姉妹の周囲に突如海の鬼火たる『不知火』のようなものが灯ったかと思えば、次の瞬間巨大な砲門や対空機銃へと変化メタモルフォーゼしたのであった。




「「「これより、敵基地攻撃開始!」」」




 ──そして次の瞬間、一つの都市が完全に壊滅してしまったのである。

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