第959話、わたくし、ゼイゼイくたばれ! 吸血鬼退治魔法少女アルミですの☆

「──あはははははは! 無様なものよ! そもそも魔法少女ごときが、この吸血鬼の女王である、カーミラ様に敵うとでも思ったのか⁉」




 古びて荘厳なる城内の広大なる謁見の間にて響き渡る、絶世の美女の嘲りに満ちた哄笑。




 しかしそれに対して、魔法少女決死隊『ちょい悪シスターズ』を代表する勇者少女ゆ○ゆである、わたくしことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナは、返す言葉の一つも無く、満身創痍の身体を大理石の床に這いつくばらせるのみであった。




「──あ、アルテミスッ!」


「しっかりせいや!」


「もはやあなただけが、最後の望みですのよ⁉」


「邪悪な吸血鬼なんかに、負けないで!」




 少し離れた場所で同じくいかにも死屍累々といった感じでうずくまっている、仲間の魔法少女たちが、必死に声援を送ってきた。


 しかしもはや再び立ち上がるどころか、抗う力さえも残っておらず、自称吸血鬼の女王様に首根っこをつかまれて吊り上げられて、彼女の目の前に無防備なうなじを晒すばかりであった。




「……ふむ、ここで貴様らを皆殺しにするのは容易いが、それでは芸がなさ過ぎるな。──よし、こうしよう。喜ぶがいい、貴様らを我が『眷属』に加えてやろう」


 ──なっ⁉


 そんなとんでもない言葉を吐息がかかるくらいすぐ耳元で聞かされて、思わず振り返れば、ニンマリと笑み歪む深紅の唇から、鋭く尖った牙が幾本も覗いていた。


「ふふ、ふふふ、ふははははははは! いいぞいいぞ、その怯えた表情! 敬虔なる聖レーン転生教団の使徒たる『魔法少女』が、これからすぐに討伐対象である最凶の神敵、『吸血鬼』に堕とされるのだ。これ以上の屈辱もあるまい! さあ、これまでに無い絶望と、この上もない被虐的快楽を、存分に堪能するがいい!」




 そう言うやいなや、わずかなためらいも無く、わたくしの首筋へと突き立てられる、二本の牙。




「──アルテミス⁉」


 悲痛に叫んだのは、我がパーティーのリーダーのヨウコちゃんか。


 しかし、すぐさま訪れた激痛と、それに続いたえも言われぬとによって、もはや何も考えられなくなってしまい、




 ──ただただ、『本能』にすべてを委ねた。




「そうだ、それでいい! もはや神や使命のことなぞ忘れて、ただのオンナとなり、我を受け容れろ! ──安心するがいい、別におまえの血を吸い尽くして殺そうというわけでは無く、むしろ我の『真祖の血』を与えることで、おまえを吸血鬼にしてやろうとしているのだからな!」




 朦朧とした意識の中で、途切れ途切れに聞こえてくる、吸血鬼の女真祖による、いかにも得意げな言葉。


 嘘偽りは、無かった。


 彼女の牙はけしてわたくしの生命の源を奪うことは無く、むしろどんどんと活力をみなぎらせていったのだ。




 ──あたかも、『眷属』どころか、『生粋の吸血鬼』をも、とするかのごとく。




「……どういうことだ、これは?」


 これまでの尊大なる口調は、どこへやら。


 いかにも怪訝そうに言い放つや、慌てふためいてわたくしから身体を離す、吸血鬼の女王様。


「おやおやせっかく頂けるものなら、存分に頂いておこうと思ったのですが、少々やり過ぎてしまいましたか? それは申し訳ございませんw」


 そのように言いながら、しっかりとした足腰ですっくと立ち上がったわたくしの姿を見て目を丸くする、こちらはどことなくやつれたようにも見える吸血鬼さん。


「……おまえ、一体」


 そんなもはや威厳もへったくれも無い、いかにも恐る恐るといった感じの疑問の言葉に答えたのは、残念ながらわたくし自身では無かった。




「一体って、何を今更」


「言うまでも無く、うちらは魔法少女やん?」


「自分が『何』と戦っているか忘れるなんて、『ツイフ○ミ』でもあるまいし」


「……いや、いくら何でも『吸血鬼の女王様』を、女性の最底辺である『ツイフ○ミ』扱いは、失礼過ぎるのではございません?」




 そこにいたのは当然のごとく、わたくしの仲間の魔法少女たちであったが、


 その全員共に、身体中の大小様々な傷がすでに癒えているのを始め、堂々とした物言いや血色のいい表情からして、十分活力がみなぎっているようであった。


「──そんな馬鹿な! あれだけ吸血鬼の真祖の魔法攻撃を浴びておいて、もう完全に回復してしまうなんて⁉」


 もはや何が何やらわけがわからず、ただわめき立てるばかりとなる、(見かけ上は)妙齢の女性。


「は? 我々魔法少女には、即効性の治癒能力があるのは、周知の事実だろうが?」


「それにしたって、限度と言うものがあるだろうが⁉ これじゃ、まるで──」


「まるで、なんや?」


「──ッ。まさか、貴様ら⁉」


「だから、何が『まさか』ですの?」


「一体どういうことなんだ⁉」


「と、おっしゃいますと?」




「──どうして聖レーン転生教団の『吸血鬼狩り』の魔法少女たちが、まるで、超常なる治癒能力を持っているんだ⁉」




 謁見の間の隅々にまで響き渡る、この古城のあるじの悲鳴のごとき絶叫。


 それに対して、今度はすぐ面前に立っているわたくし自身が、答えを返してあげることにした。




「そりゃあもちろん、わたくしたち魔法少女が、に決まっているでしょう?」




「──はあ? 何で我々吸血鬼と敵対している教団の魔法少女が、吸血鬼なんだよ⁉」


「ていうかむしろ、どうして魔法少女が『吸血鬼では無い』と、思われていたのです?」


「……へ?」


「空を飛んだり、時には蝙蝠や狼等種類を問わず動物に変身したり、更には魔法を使ったりできるなんて、ほとんどが吸血鬼の『基本的能力』そのまんまではありませんか?」


「──そんなもの、他のファンタジーキャラでも十分可能であり、別に吸血鬼に限った話では無いだろうが⁉」


「でも、吸血鬼こそが、このファンタジーワールドにおける『最強のキャラ』と言っても、過言では無いでしょう?」


「……まあな。そもそも吸血鬼とは、最強種たるドラゴンを人間サイズにしたようなものであり、『進○の巨人』で言えば、『九つ○巨人』に対する『ア○カーマン』みたいなもので、小さい分だけ小回りがきき戦いやすく、基本的に同じ能力レベルのドラゴンさえも討伐可能だからな」




「──でしたら、『吸血鬼退治』を使命とする我々魔法少女も、『吸血鬼同等』の力を持つ必要があるとは思われませんか?」




「──ッ」




 ついに『何か』に気づいたようにして、顔面を蒼白へと染め上げる、吸血鬼の女王様。




「……まさか……まさか、教団のやつらは、我々吸血鬼を退治させるためだけに、貴様らのような幼い少女を何らかの方法で、永遠に『化物』にしたわけなのか⁉」




「──と言うよりも、我々のような特に信仰心の厚い娘たちが、自ら立候補いたしましたんですけどね」




「──狂っている! おまえらも、教団も、みんな狂っていやがる!」




 自分にとっては単なる『エサ』としてしか見なしていなかった、『人間』たちの想像を絶する所業に、もはや恥も外聞も無く叫びだす真祖様。




「ええ、わたくしたちは皆、狂っておりますわ。──むしろ狂ってでもいなければ、人間の身でありながら、あなたたち強大無比なる吸血鬼を討伐しようなんて、思いもしないことでしょう♡」

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