第880話、【ハロウィン記念】わたくし、場合によっては、トリート(平和)よりもトリック(戦争)を選びますの⁉

『──トリック、オア、トリート! 「キタゴミニズム人民共和国」の皆様、我が完全主権国家「シン・ニッポン」は、貴国の鉄道網から試験発射された大陸間弾道弾ICBMが、我が国の領空を侵犯しそのまま日本列島を越えて太平洋側の領海内に着水したことにより、明確なる「侵略行為」と見なし、ここに「シン・ケンポウ第九条戦争実行規則」に基づき、「宣戦布告」をいたします。これよりはたとえ非戦闘員であろうとも、ミサイル発射基地の周辺10キロ以内におられる方は「敵対勢力」と見なし、攻撃対象として命の保証はいたしませんので、直ちに退避してください。──繰り返します、繰り返します、これが最後通牒です、「抗戦かトリック、オア、降伏かトリート」?』




 202X年10月31日、東アジア大陸極東の半島北部の、『キタゴミニズム人民共和国』の首都繁華街にて。


 突然すべてのメディアと全人民の携帯端末が『乗っ取られて』、一方的に通知される、『宣戦布告』。


 本来なら、文字通り『国家的危機状態』そのものであり、パニックが起こってもおかしくは無いのだが、


 ──意外にも、そんなことは、一切無かった。




「……『抗戦トリック』か『降伏トリート』か、だと?」


「つまり、『シン・ニッポン』が、本当に『宣戦布告』したわけか?」


「ハッ、そんなまさか!」


「確かに最近新政府が成立し、旧平和憲法を全面的に破棄したらしいけど」


「筋金入りの『平和ボケ国民』が、こんな短期間にまともな兵士になれるものか!」


「現在保有している兵器類も、そのほとんどが『防衛用』であり、他国に対して侵攻することなんて不可能だろう」


「それに我が『キタゴミニズム人民軍』の誇る、超高性能の戦略兵器に対しては、為す術も無いだろうよ!」


「最近開発に成功した、極超音速巡航ミサイルを始めとして」


「発射地点を突き止めるのがほぼ不可能な、列車発射方式の大陸間弾道弾ICBMは言うに及ばず」


「そもそも通常のミサイルに対しても、南の『頭K印国』のレーダー網の補助が無いと、把握できないといった体たらく!」


「──むしろこちらから先制攻撃したら、手も足も出ないだろうよ!」


「おお、そうだよ! せっかく向こうさんから『宣戦布告』してくれたんだから、やっちまおうぜ!」


「首都にミサイルを一発でもぶち込めば、すぐさま全面降伏したりしてな!」


「おいおい、あちらの都市部には我が同胞の『キタゴミニズム学校』等があって、結構ゴミニズム人民が住んでいるんだぜ?」


「だったら、『新生ニッポン軍』の軍事基地だけを狙おうぜ!」


「我らが精密ミサイルなら、十分可能だ!」


「まあ、少々ミスって、周辺のニッポン人を巻き添えにしようが、構うものか!」


「『ハロウィン』だからと浮かれて、身の程知らずにも我が偉大なる『キタゴミニズム人民共和国』に逆らった、『天罰』だ!」




 ──次々にわき起こる、勇ましい声。


 そして最後を締めくくるように、歓楽街中に響き渡る、『マンセー』の大合唱。


 ……その後、しばらくして、




「──おっ、あっちを見ろよ!」


「どこだよ?」


「あの街外れの、首都環状線の高架」


「おおっ、ただの貨物列車と思っていたのに、変形し始めてやがる…ッ⁉」


「あれこそは、我が『キタ』が誇る、『列車砲型大陸間弾道弾ICBM』か⁉」


「自ら旭日旗を打ち消して我が南の同胞に媚びを売った、列島の五流アニメ『自滅の刃』の主人公とは違って、『判断が速い』ぜ、ゴミニズム人民軍!」


「──ようし! 核ミサイルをどんどんぶち込んで、日本列島をすべて焦土に変えてやれ!」




 更に威勢のいい声を口々に上げていく、ゴミ(ニズム)人民たち。


 まさにその時、手元のスマホから聞こえてくる、先程と同じ機械音声。




『──ミサイル発射準備行為を、確認。これより「基地攻撃」を開始する! 明らかに列車を使用していることにより、「キタゴミニズム人民共和国」全土に張り巡らされている鉄道網の、周囲10キロ圏内にいる者はすべて、軍関係者と見なし、「殲滅対象」とする!』




「「「……は?」」」




「この国の鉄道の、周囲10キロ以内、って」


「それって、ほとんど全人民が、該当するのでは?」


「──いや、それよりも、『シン・ニッポン』のやつら、どうしてこちらの動きがわかったんだ?」


「こんな内陸部の、一都市の鉄道の状況を、ほぼリアルタイムで把握できるなんて……」


「ひょっとして、スパイでも紛れ込んでいるのか?」


「まさか! 日本に対しては戦後一貫して、鎖国状態にあった我が国において、スパイなんて潜入できるものか⁉」


「じゃあ、偵察機とか?」


「でも空には、何も見えないぞ?」


「空と言っても、高度一万メートル以上の高高度だったら、発見しにくいのでは?」


「馬鹿言え、こんな雲一つ無く晴れ渡っている中で、飛行機が飛んでいれば、少々の高度でも目につくはずだ」


「じゃあ、もっと上空、とか?」


「……、上空、だと?」


「おいっ、それって──」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」


「まさか」




「「「──じゃ、ないだろうな⁉」」」




 次の瞬間。


 まさしく先程誰かが言ったように、『天罰』そのままに、


 天空より、無数の『光の柱』が舞い降りてきて、


 全土の鉄道網を中心として、地表を深々と貫き、大爆発を巻き起こし、




キタゴミニズム人民共和国』すべてを、一気に焦土と変えてしまったのだ。







『──トリック、オア、トリート!』







 覚えておけよ、『平和トリート』では無く、『戦争トリック』を選んだのは、おまえら自身だ。




 しかも、国土のすべてが攻撃対象となり、


 本来標的から外されるはずの、非戦闘員までも殲滅せざるを得なかったのは、


 おまえらが、あまりにも愚かだったからだ。




 これ見よがしに、時代遅れの『列車砲』を猿真似したりするから、


 全国に張り巡らされた鉄道網すべてが、『ミサイル発射基地』と見なされて、先制攻撃の対象となってしまったのだ。


 ──しかも、我が『シン・ニッポン』の誇る、『人工衛星発射型のビーム兵器』は、核兵器以上の破壊力を誇るので、周辺10キロ以内はすべて消滅させることさえ可能なのだ。


 もちろん、偵察機能も兼備しているから、そちらの軍事的行動はすべて筒抜けだし、


 更にはすべての通信網を乗っ取って、全人民を対象として、事前に『降伏勧告』や『避難勧告』を行うことも可能なのである。




 ──そう、我々はちゃんと『戦時協定』に則って、正式なる勧告を行ったのだ。




 それに従わず、すでに重大なる軍事拠点と化した『鉄道網』の周辺に居続けている者は、軍人か民間人にかかわらず、すべて『滅ぼすべき敵』でしか無かった。


 国際法的にも何の問題も無く、この戦争に負けない限りは、歴史的問題として『北の京虐殺事件』(w)とか揶揄されて、責任を問われることは無いのだ。




『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』


『トリック、オア、トリート』




 ──さあ、我が新生『シン・ニッポン』の、周辺諸国の皆様、




 あなたは、『戦争トリック』と『平和トリート』との、どちらを選びますか?

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