第862話、わたくし、『食文化の否定』は『民族自体の否定』だと思いますの⁉

「──これは一体、どういうことなんや⁉」




 西日本国首府『ナンバ大阪城』の天守閣にて響き渡る、国家元首たる当代の関白豊臣秀樹の胴間声。




「で、殿下、どうかなされましたか⁉」


「どうもこうもあらへんわ! 東日本国の江戸幕府のやつら、いきなりぶちかましてきやがったんや!」


「──とおっしゃると、将軍自らの公式声明でも、ありましたのでしょうか?」


「まだ幕閣での法案作成の段階やけど、うちの間諜スパイが、とんでもない特ダネを掴んだんや!」


「とんでもない、特ダネ、ですと?」




「東日本のやつら、日本人の『蛸食』を禁止する、法律を設定するつもりなんや!」




「「「──なっ⁉」」」




 天守閣の大広間に、かつて無い衝撃が走った。


 それ程『蛸食の禁止』は、関西人にとっては大問題だったのだ!


「……嘘でしょ、嘘だとおっしゃってください、ハニー!」


「誰がハニーや、ワイは関白や! もちろん嘘ではあらへん、テレビをつけてみ!」


「「「こ、これは⁉」」」


 ──テレビのワイドショーの画面には、東日本国首都大江戸霞ヶ関の国会議事堂の最上階の大窓から吊された、『蛸を食べる先進国なんか存在しない!』と記された、巨大な垂れ幕が大写しにされていた!


「ぬう、何と言うことを!」


「完全に、我ら関西人に対する、面当てでは無いか⁉」


「貴様らだって、酢蛸やゆでだこやたこ刺し等々、散々蛸料理を食ってきただろうが⁉」


「確かに、蛸は欧米では『デビルフィッシュ』と呼ばれており、『蛸食』の習慣はまったく無く、蛸を日常的に食している日本人のことを、奇異に思っているかも知れぬ」


「一部には、『先進国にあるまじき野蛮さ』と、見る向きもあろう」


「──しかし、『食文化』とはまさしく、『民族の本質』そのものなのだ!」


「外圧に屈して、自ら手放そうとするなんて、日本民族としての『自己否定』では無いか⁉」


「そりゃあ、東日本国の連中は構わないだろう」


「やつらにとって『蛸』は、数多あまたある食材の一つでしか無いんだからな」


「しかし、我々西日本国──特に、首府大阪を中心とする関西にとっては、死活問題なのだぞ⁉」


「関西人なら必ず一家に一台、『たこ焼き器』があるのを知らないのか⁉」


「我々関西人から『たこ焼き』を奪うなんて、悪魔の所業以外の何物でも無かろう!」


「……やはり、そうか」


「東日本国元首である当代の征夷大将軍徳川家麺イエメンが、先頃国連本会議で行った、『関ヶ原合戦終戦宣言』は、単なるブラフだったのだ!」


「本気で東西日本を四百年ぶりに統合するつもりがあるのなら、『蛸食の禁止』なんて言い出すはずが無かろう!」


「ていうか、これって完全に、我々関西人に対して、ケンカを売っているだろうが⁉」




「──開戦だ!」


「──宣戦布告だ!」


「──休戦条約の破棄だ!」




「「「今こそ、武力でもって東日本国を下し、我々西日本国政府のもとで日本統一を成し遂げて、『蛸食』を永遠の国民的食文化とするのだ!」」」




 今、関西人の心が、一つとなった!




 愚劣なるあずまえびすの民どもに、正義の鉄槌を下す時だ!




 ──さあ、すべての猛虎トラキチ兵士つわものたちよ、全軍で『六甲おろし』を歌いながら、敵陣に特攻するツッコムのだ!




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




メリーさん太「……何だよ、これって」




ちょい悪令嬢「え、見ての通りですけど、わかりませんか?」




メリーさん太「わからないから聞いているんだよ⁉ そもそもこれって、『悪役令嬢』とは、まったく関係無いよな⁉」


ちょい悪令嬢「簡単に申しますと、『たこ焼き』をテーマにして、『食文化こそ民族の本質』であり、たとえ国際的に奇異な食材であろうとも、安易に自ら放棄しようとしたりすれば、それは民族としての『自己否定』にも等しく、下手するとすべての人民の反感を買い内乱すらも呼んで、国を滅ぼすことさえもあり得ることを、赤裸々に描きあげたわけなのです!」


メリーさん太「──やっぱり、『悪役令嬢』関係無いじゃんか⁉」


ちょい悪令嬢「実は作中の西日本国元首の関白殿下の娘さんが、『悪役令嬢』なんですよ」


メリーさん太「何その取って付けたような『裏設定』は⁉ だったらその娘さんも、本文中に登場させろよ?」


ちょい悪令嬢「は? 『悪役令嬢』なんて、『関西弁ワールド』とは、完全にミスマッチじゃありませんか?」


メリーさん太「貴様あああああああああああ! ──謝れ! 関西弁を嗜んでおられる、すべての方に対して土下座しろ!」


ちょい悪令嬢「……いやむしろ、『関西弁の悪役令嬢』って、案外いけるかも?」


メリーさん太「そういうのは、『スライムがどうたら』の作者の人にでも任せろ! ──ていうか、もしかしたらすでにWeb小説として、存在しているのでは?」


ちょい悪令嬢「いっけなーい! 考えてみれば、まさに本作の【魔法令嬢編】において、すでに登場しておられましたっけ☆」


メリーさん太「……ああ、『ユーちゃん』か。そういえば【魔法令嬢編】になっていきなり、関西弁をしゃべるようになったんだっけ」


ちょい悪令嬢「最近本編をやっていないので、すっかり忘れておりましたわ」


メリーさん太「主人公のくせに忘れるなよ⁉ ──ていうか、【魔法令嬢編】で思い出したけど、今回って最近になって立て続けに終了した、『マギア○コード』セカンドシーズンや『フリップフラ○パーズ』等の、『魔法少女系アニメ作品』の総括を、本作のこれからの作品づくりに役立てるためにも、全力かつ詳細に行う予定じゃ無かったのかよ?」


ちょい悪令嬢「……もちろん本来はその予定だったのですが、それどころでは無くなったのです!」


メリーさん太「それどころでは無くなったって、本来は【魔法令嬢編】を継続中の本作にとって、『魔法少女系作品』を検証すること以上に、重要なことなんてあるのか?」


ちょい悪令嬢「それを今回冒頭の【寸劇】において、暗示した次第であります!」


メリーさん太「あのわけのわからない『関西弁劇』に、何の意味があるって言うんだよ?」




ちょい悪令嬢「実はまさに現在、下手するとアジア大陸極東の某半島部において、数十年にも及ぶ休戦状態が破られて、再び戦火が燃え盛らんとしているのです!」




メリーさん太「──やっぱりあの『分断国家化した日本』て、某『南北に分裂した半島国家』のメタファだったのかよ⁉」




ちょい悪令嬢「そりゃそうに決まっているでしょうが?」


メリーさん太「すると何か⁉ あのバカン半島の休戦条約が破棄されて、戦争が勃発する怖れがあるって言うのか⁉ 一体何の根拠が有ってそんなことを⁉」


ちょい悪令嬢「……本編にちゃんと、書いてあったではありませんか?」


メリーさん太「本編のどこに、『キタ』と『K印』とが、また戦争をおっぱじめる切っ掛けになりそうな、描写があったって言うんだよ⁉」


ちょい悪令嬢「『蛸食の禁止』、ですよ」


メリーさん太「へ?」




ちょい悪令嬢「何とほんのついこの前、K印国のドア小酋長が、南半島においては『犬喰い』を法的に禁止するとか言い出しやがったのですよ!(※『大統領』は日本生まれの名称ですので、国を挙げての日本語追放運動中のK印国内では使用不可能なので、ドア自身にお似合いな『小酋長』に変換いたしましたw)」




メリーさん太「──はあああああああああああ⁉ 『犬喰い』民族が『犬喰い』をやめるだと⁉ それって完全に『犬喰い』として、アイデンティティが崩壊しているじゃないか⁉」


ちょい悪令嬢「おっしゃる通りでございます。──ああ、そうそう、『犬喰い』はれっきとした『食文化』であり、バカン半島民族にとっては『誇るべきこと』なのですから、彼らに対して『犬喰い』と呼ぶのは『最高級の尊称』なのであって、けして『ヘイト』なんかではございませんので、そこら辺のところは間違うなよ? むしろこれを『ヘイト』や『差別』だと決めつけるやつこそ、立派な半島の『食文化』である『犬喰い』を見下している、『差別主義者』だからな?」


メリーさん太「いや確かに、『犬喰い』民族が『犬喰い』を禁止するなんて、文字通り正気の沙汰じゃ無いけれど、それはあくまでも南のK印国内限定の話なんだろ? それがどうして、バカン半島戦争の本格的再開に繋がるんだよ?」


ちょい悪令嬢「何度も申しますが、日本人だって世界的には『奇異』であると見られている『蛸食』をしているくらいですので、他の民族の方が、『犬』を食おうが『猫』を食おうが、その是非を問おうとは思いません。それは『K印』に対してはもちろん、その兄弟国である『キタ』に対しても同様なのです」


メリーさん太「あ、そうか! K印で『犬喰い』が行われているのなら、当然『キタ』でも行われているわけか⁉」


ちょい悪令嬢「むしろ食糧事情が切羽詰まっている『キタ』においては、党主導で『奨励』されていようとも驚きませんよ」


メリーさん太「まあ、食うに困っていきなり手を出すのでは無く、昔から食べていたのだから、誰からも文句を言われる筋合いは無いよな」


ちょい悪令嬢「それなのに、いきなり南の『同胞』が、『犬喰いは先進国としてふさわしくないから禁止する』なんて言い出したら、どうでしょう?」


メリーさん太「──まるで面と向かって、『おまえらは先進国では無い』と言われたようなものじゃないか⁉ 確かに『キタ』が激怒するのも当然だよな!」


ちょい悪令嬢「それだけでは無いのです、事もあろうにその直前に、K印のドア小酋長ときたら、国連において『バカン半島戦争の終戦宣言』なんかを、勝手にぶちかましやがったのですよ!」


メリーさん太「……それはあたしも知っていたけど、別に構わないのでは? 言うだけタダだし、むしろ好ましいことだし、何よりも『キタ』においても好感触だったじゃないの?」


ちょい悪令嬢「そうなんですよ、いろいろと思惑はあるとは思いますが、南北双方共『半島統一』自体は、乗り気ではあるのです。──だがしかし、それをぶち壊したのが、K印の『犬喰い禁止宣言』だったのです!」


メリーさん太「え、何で? 『バカン半島統一』と『犬喰い禁止』って、別に関係無いじゃないの?」


ちょい悪令嬢「関係大アリですよ! もしもK印において『犬喰い禁止』が法制化した後に、南北統一が果たされた場合、『犬喰い』の扱いは、一体どうなるのですか⁉」


メリーさん太「──ああっ! そうか、そう言うことか⁉」




ちょい悪令嬢「今回何度も何度も申しておりますよね、『食文化こそ、民族の本質』だと。それなのに、統一された一つの国家の中で、『犬喰い』を率先する勢力と禁止する勢力とが併存したりしては、どう考えても『差別』や『分断』や『紛争』の素にしかならないでしょうが⁉」




メリーさん太「うおっ、まさにその通りじゃんか⁉」




ちょい悪令嬢「『キタ』の首領様からすれば、K印のやつらが本気で南北統一を望んでいるのか疑わしいどころか、あからさまに『ケンカを売っている』も同然でしょうよ。もう平和的な統一なんてあきらめて、武力でねじ伏せようとしても、おかしくは無いのでは?」




メリーさん太「……うん、『食い物の恨みは恐ろしい』と言うからな。『犬喰いの是非』こそが、バカン半島における再びの開戦──下手するとそれどころか、『民族そのものの滅亡』を招く可能性も、けして否定できないよな」




ちょい悪令嬢「──と言うわけで、K印国の皆さん! 『犬喰い』を捨て去るなんていう、民族としての『自殺行為』なんてやめましょう! 他人の『食文化』にケチをつけるやつは、自分の『食文化』にケチをつけられるだけの話なのです! これからも未来永劫誇りを持って、『犬喰い』に邁進してください!」




メリーさん太「……これはけして、日本人だって他人事じゃ無いからな。本文でも述べていたけど、たとえ欧米人からすれば『悪魔の魚デビルフィッシュ』であろうとも、日本人にとっては大切な食材なんだから、『蛸食』をやめることなんて、けして無いように!」


ちょい悪令嬢「万が一にもそんなことになってしまえば、それこそ関西人と半島の『キタ』とが手を携えて、東京霞ヶ関に戦争をふっかけることでしょう!」


メリーさん太「……え、関西人はともかく、何でここで『キタ』が出てくるんだよ?」




ちょい悪令嬢「ご存じの方も少なくないでしょうが、『キタ』の首領様とその妹様のお母様は、何と日本国の大阪ご出身であられますので、例の『一家に一台♡たこ焼き器』の法則に則り、きっとかの御兄妹様におかれましても、ご幼少のみぎりより『たこ焼き』に慣れ親しまれてきたに相違ありませんわ★」




メリーさん太「──ええっ⁉ 今回『たこ焼き』を題材モチーフにしたのは、単なるネタでは無くて、れっきとした『伏線』だったわけ⁉」

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