第842話、わたくし、いっそ全閣僚を女性にして、全国民を強制的に夫婦別姓にしますの⁉(前編)

「──全国の我が『地味ジミヘン党』の女性党員の皆様に、お約束いたします! 私が今回の総裁選に勝利した暁には、新閣僚の半数を女性の方にお任せする所存でございます!」




「おお、さすがは我が党の女性議員の旗頭、ヤダモン政調会長!」


「いつもながら、女性の地位向上には熱心だな!」


「それにしても、閣僚の半数を女性にするなんて」


「いやあ、豪儀なものだよな!」


「これは、党の女性議員の主力グループである我々も、全力で応援しなくては!」


「いやいや、我々党主流派の男性議員にとっても、今秋予定されている解散総選挙に勝つためにも、女性有権者に受けのいい女性総裁も、その斬新なる女性優位のスローガンも、大歓迎だ!」


「これよりは派閥を越えて、全党員一致団結して、ヤダモン総裁候補を盛り立てて参りましょうぞ!」


「「「おおー、異議なーし!!!」」」




 そして、党本部大会議場において鳴り響く、万雷の拍手。




 それに対してにこやかな笑みを浮かべながら、さも満足げに手を振って応じるヤダモン議員。


 最近国民の皆様からの批判も厳しい、現政権与党の地味ジミヘン党としては、間近に迫った解散総選挙で必勝を期するためには、『憲政史上初の女性首相』と言うインパクトは是非とも必要と見られているが、このたび総裁選挙に名乗りを上げた二人の女性候補のうち、もう一人のほうはちょっと『アレ』(w)なので、一部の先鋭的な『愛国者』の賛意しか得られそうも無く、もはや(少々左派リベラル過ぎるものの)穏健派のヤダモン政調会長の新党首就任は決定的とも言えて、まさしく『この世の春』といった感じで、自信満々の笑顔を隠そうともしなかった。


 ──しかし、まさに、その時。




「はあ? 閣僚の半数を女性にする? 史上初の女性総理大臣になろうとしている者が、何を馬鹿げたことをおっしゃっているのですか?」




 何の前触れも無く唐突に大会議室中に響き渡る、涼やかなる声音。


 振り向けばそこには、まるで中世欧州のおとぎ話から──ていうか、『乙女ゲーム』の中からでも現れたような、豪奢なドレスを身にまとった、銀髪金眼の絶世の美女が、不敵な笑みを浮かべながら仁王立ちしていた。




「「「あ、あなたは、もう一人の女性総裁候補の、『悪役令嬢』議員⁉」」」




 そうなのである。


 まさしく彼女こそが、超過激な愛国者としてとみに高名な、ヤダモン新総裁候補の最大のライバルであったのだ。


「……ふん、さすがは男性受けのいい、党内タカ派急先鋒の悪役令嬢議員、女性閣僚の増数に対してあからさまに難色を示されるとは。まさしく女性の皮を被った『名誉男性』ならではの、裏切り行為ですこと! あなたこそ『女性の敵』そのものよ!」


「あら、わたくしほど『女性の地位向上』に全力で励んでいる者はおりませんけど? ──少なくとも、『新閣僚の半数を女性にする』などと、寝とぼけたことをおっしゃっている、あなたなんかよりもね」


「私の高邁なる意見が、寝とぼけているですって⁉ それってどういう意味よ⁉」




わたくしなら──わたくしの真に理想的な『女性のための内閣』なら、閣僚を『すべて』女性にすると、申しておるのですよ」




「「「──なっ⁉」」」




 あまりに予想外の悪役令嬢議員の言葉に、一気に騒然となる大会議室。




「……全閣僚を女性にする、だと⁉」


「そんなこと、できっこないだろ!」


「いくら総裁選挙における『多数工作』としても、やり過ぎだ!」


「むしろ荒唐無稽過ぎて、党として信用を失ってしまうぞ!」


「そんな世迷い言を言っていて、党内の支持を得られるとでも思っているのか⁉」




 当然のごとくそれは、非難囂々の有り様であった。


 しかし当の悪役令嬢議員のほうは、涼しげな表情をわずかにも揺るがせることは無かった。




「あら、それ程までに全閣僚の女性化が不可能だとおっしゃるのなら、『半数なら実現できる』という、『根拠』は一体何なのですか? 今すぐ具体的に説明してくださらないかしら? 『全部が無理でも半数なら可能』って、よく考えてみれば、おかしいと思うのですけど?」




「「「──うっ」」」




「そもそも女性を半数も新内閣の閣僚に抜擢しようとするのは、女性が男性に比しても遜色なく『優秀』であると認めておられるからなのでしょう? でしたら『女性と同じ能力に過ぎない男性』の皆様には今回は遠慮していただいて、総選挙の際により訴求力のある『女性優先アピール』をしておいたほうが、『選挙対策』の意味からも上策では無いでしょうか?」




「「「──ううっ」」」




「もちろんあなた方は、『女性は男性と遜色ない政治能力を持っている』と思っていらっしゃるのですよね? だからこそ『新内閣の閣僚は半数を女性にする』とおっしゃっているのですよね? ──でしたら、いっそのことすべての閣僚を女性にしても、何ら問題はございませんよね?」




「「「──うううっ」」」




「……まあ、『女性閣僚』に関する、世の中の女性の皆様を舐めきった、いかにも釣り針のデカすぎる『クソ公約』については、このくらいにしておきましょう」




「「「あ、ありがとうございます! 以後気をつけます!」」」




「引き続いて、次の『問題点』ですけど──」




「「「え、まだ続きが有るのですかあ⁉」」」


「……有りますが、何か?」


「「「──いえ、何でもありません! どうぞお続けください!」」」


「ヤダモン候補は確か、『選択的夫婦別姓』の実現についても、提言なされておりましたよね?」


「「「あ、はい、やはりこれも女性や若者にウケが良くて、総選挙においてアピール度が高いと思いまして……」」」




「生ぬるい!」




「「「へ?」」」




「このわたくしなら、『選択的』などでは無く、いっそのことこの機会に、『強制的』夫婦別姓制度を導入いたしますわ!」




「「「きょ、強制的、って……………………いやいやいやいや、そんな⁉」」」


「あら、何が『そんな』、なのです?」


「強制的に夫婦を──ひいては、生まれてくる子供さえも含めて、家族に別々の姓を名乗らせる法律なんて、実現できっこないだろうが⁉」


「下手すると、個人の自由意志を否定して、憲法違反になりかねないぞ!」


「そもそも、こんな家族を無理やりバラバラにしてしまう法案なんか提起したら、国民から総スカンを食らって、選挙どころじゃ無くなるじゃないか⁉」


「一体何のために、『選択的』と言う条件を付けていると、思っているのかね⁉」


 ……今度はここぞとばかりに、悪役令嬢議員に対してフルボッコする、ヤダモン派所属の議員たち。


 とはいえ、当の悪役令嬢議員自身は、少しも堪えていないようであったが。


「『選択的』? それは単に、問題から『逃げて』いるだけではございませんの?」


「「「な、何だと⁉」」」




「だってそうでしょ? 本当に『夫婦別姓』が女性を生きやすくさせて、すべての国民を幸せにする制度なら、『選択的』などといった条件を付ける必要は無く、初めから全国民に強制的に『夫婦別姓&子供の姓もバラバラ』にすることを、義務づければいいではありませんか?」




「「「──うっ」」」




「でも、あなた方はけしてそうはしない。『強制的』にしてしまえば、どんなに本人が嫌がっていようとも、夫婦はおろか子供たちの姓をもバラバラにされてしまうと言う、人権無視の『憲法違反の悪制度』であることがバレてしまいますからね」




「「「──ううっ」」」







(※後編に続きます)

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