第843話、わたくし、いっそ全閣僚を女性にして、全国民を強制的に夫婦別姓にしますの⁉(後編)

「……そこで大いに役に立っているのが、『選択的』という『マジックまやかしワード』なのですよ。たとえ『夫婦別姓制度』などと言う、人々の権利や自主性を踏みにじる悪魔の制度であろうとも、頭に『選択的』と付けるとあ〜ら不思議、各種の(恣意的な)アンケートにおいて、『……別に自分以外の人が夫婦別姓を選んでもいいんじゃない?』という、どちらつかずの意見が大勢を占めることによって、あたかも『夫婦別姓』が社会的に許容されたような雰囲気をでっち上げることができるのです。──それに対して、『これから夫婦は絶対に別々の姓を名乗らなくてはならない』なんて尋ねられた場合、一体どれだけの国民の皆様が、賛意を示されるでしょうね?」




「「「──うううっ」」」




「おやおや、どうしました? 『夫婦別姓』は素晴らしい制度なんでしょ? 女性の地位向上を促進するんでしょう? 国民すべてが幸せになれるんでしょう? だったら『選択的』なんてごまかしは無しにして、我が国の夫婦全員を強制的に別姓にする制度を導入すればいいではありませんか? ──何せ、今となっては『選択的夫婦別姓制度』そのものが、れっきとした『憲法違反』なのだから、日本国内においていかなる法令をもってしても、成立させることは不可能なんですからね」




「「「は? 『選択的夫婦別姓制度』が、憲法違反、て……」」」




「だってあなた方『夫婦派』は、意見を異にする『夫婦派』の方々に対して、事あるごとに、『今の若者たちは夫婦別姓を求めている、時代は変わった、女性が今以上に社会進出するためには、夫婦別姓制度が必要なのだ!』などと、まるで同姓派が『時代錯誤』であるかのように決めつけているし、『元々日本は夫婦別姓だったのだ、おまえらの同姓派のほうが、歴史認識がおかしいのだ!』などと、まるで同姓派が『歴史的に間違っている』かのように決めつけているし、『夫婦同姓は日本だけだ、海外ではほとんどの国が夫婦別姓なのだ!』などと、まるで同姓派の『国際感覚が狂っている』かのように決めつけているしで、現段階で完全に全力で『差別している』ではありませんか?」




「「「──うぎょおっ! さ、差別、ですと⁉」」」




「『時代錯誤で歴史観も国際感覚も狂っている』って、相手に対する『全否定』ではありませんか? まさしく、言われなき『レッテル貼り』ではありませんか? 『蔑み』以外の何物でも無いではありませんか? これを『差別』と言わずして、何を『差別』と言うのです?」




「「「ぐうっ⁉」」」




「それなのに、あなた方の企み通り、『選択的夫婦別姓制度』が施行されて、国民が『夫婦同姓派』と『夫婦別姓派』とに分断されたら、どうなると思います? 時代感覚に優れて正しい歴史観を持ち国際感覚も豊かな、(自称)先進的な『夫婦別姓派』の皆様が、ごく普通に『夫婦同姓』であるだけの常識的な一般庶民の皆様に対して、『おまえらは時代錯誤だ!』とか、『おまえらの歴史感覚は狂っているんだ!』とか、『おまえらは国際的に遅れているんだ!』とか、ありとあらゆる罵詈雑言によって見下し『差別』して、徹底的に弾圧し続けて、夫婦別姓派に転向することを強制することでしょう」




「「「『選択的夫婦別姓制度』が成立したら、『別姓派』による『同姓派』に対する、卑劣極まる差別攻撃が蔓延る『ディストピア』になるだと? そんな馬鹿な⁉」」」




「でも実際、現時点においても、少しでも『夫婦別姓制度』に疑問を持つ人たちに対して、『おまえは時代錯誤だ!』とか、『真の歴史を知らないのだ!』とか、『国際感覚がおかしい!』とか、言いたい放題あげつらってくるではございませんか?」




「「「──うぐっ⁉」」」




「そして、現行の日本国憲法下の日本においては、他の何よりも、ほんの少しでも『差別』を助長する可能性を有するものは、絶対に許されません。つまり、国民の間において重大なる差別を生じさせる怖れの大きい『選択的夫婦別姓制度』は、絶対に成立不可能ってことになるのですよ」




「『選択的夫婦別姓制度』を成立させたら、差別が横行する世の中になるだと⁉」


「……ううむ、確かに現下の日本国憲法においては、差別を生み出すような法令は、けして成立させるわけには行かぬよなあ」


「と言うことは、『夫婦別姓』を成立させようと思えば、先程の『強制的夫婦別姓制度』しかあり得ないというわけか?」




「……だから、そのような強制的に夫婦や子供たちの姓をバラバラにさせてしまう、『人権無視』の法令なんて、これまた日本憲法的に許されるわけが無いでしょうが?」




「「「──だったら、駄目じゃん、八方塞がりじゃん⁉」」」




「そうなのですよ、あなた方は本来絶対許されない、『強制的夫婦別姓制度』や『能力無視の女性閣僚の多数採用』を、『選択的』とか『半数だけ、半数だけだから!』とかいった、体のいい言葉でごまかして、主に女性有権者に対して好感度アップを図ろうとしている、『ペテン師』そのものでしかないのですよ! 真に自分たちの政策を自信を持って成立させようと思えば、『選択的』とか『半数だけ』とか言わずに、ちゃんと『強制的夫婦別姓制度』や『新内閣の全女性化』を実現すると、宣言すべきなのです!」




「「「いやいやいや、そんなことを言ったら、総選挙において、『票』がまったく集まらないじゃないか⁉」」」




「心配御無用、そんな『悪制度』なんて、このわたくしが我が党の総裁になることによって、成立する前に全力で叩き潰す所存ですので。それともあなた方は、『選択的』とか『半数だけ』とか言って、有権者である国民の皆様を騙すおつもりなのですか?」




「「「うっ⁉」」」




「──と言うわけで、わたくし悪役令嬢議員が新総裁となり、きたる総選挙に勝利して、我が国初の女性首相となった暁には、女性の中でも『悪役令嬢』──すなわち、『悪い女』の皆様が、存分に『悪事』を行える世の中にしたいかと存じます!」




「「「……………………は?」」」




「『悪い女』とは、男や親や社会に頼り切りにならず、どんなに卑怯な手段を使おうとも、あくまでも自分自身で全力を尽くすことによって、金や権力や名誉等を手に入れて、自分の『願望ユメ』を実現しようとされている方々であり、つまりは、男女にかかわらず『実力が正当に認められる社会』を実現していけばいいわけで、そのような『公正な競争システム』さえあれば、どんな努力も惜しまないやる気のある女性なら、どのような夢を叶えることも不可能では無いでしょう。──例えば、どんなに現在の政界が女性が圧倒的に少数派であろうと、権謀術策の限りを尽くして、国会議員どころ閣僚にすらなったり、現下の法制度においても、結婚後も完全に夫婦間の実権を掌握して戸主となり、自分の姓を使わせることを実現したりしてね♡」

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