第773話、わたくし、『桃太郎』なので、人の心の内の鬼『内鬼』を退治しますの⁉(後編)

 日本国の固有の領土でありながら、おぞましき『ナイ』たる白鬼や黒鬼を始めとして、彼らの配下である東アジア極東の半島原産の多数の小内鬼ゴブリンどもによって、不法占拠されている、日本海上の孤島『タケルジマ』。


 これまでに何度も日本の自衛隊等による奪還行動を退けてきて、すっかり油断していた鬼どもの前に現れた、あまりにも予想外なる二人の刺客。




 何と彼らは、あたかもどこかの『昔話』そのままに、旧帝国海軍の『二式大艇』が上空より投下した大きな桃の中から飛び出てきた、絶世の美少女と美少年だったのです。




 少女のほうは、いかにも日本の伝統的様式美を体現した『巫女装束』に身を包んではいるものの、月の雫のごとき銀白色の長い髪の毛に縁取られた端整な小顔の中で、夜空の満月そのままの黄金きん色の瞳を煌めかせているといった、天使か妖精であるかのような人並み外れた美貌を誇っており、


 一方少年のほうは、黒髪黒瞳という日本人特有の容姿でありながらも、せっかくの整った顔を陰鬱な表情で曇らせており、全身漆黒の衣装も相俟って、どこか禍々しくも感じられるのでした。


 しかも、二人共十代半ばという幼さでありながら、大海原を背にしての文字通りの『背水の陣』であるのみならず、前方の巨体を誇る黒白二体のナイを始めとして、小柄ながらも無数の数を誇る小内鬼ゴブリンどもに立ち塞がれているというのに、余裕の笑みを浮かべ続けていたのです。


 この異様なる有り様に、ついに堪りかねた鬼たちのほうが、いかにもおずおずと誰何の声をかけました。


「……おまえら、何者だ? 一体何しに、この島に来たんだ?」


 それに対してあくまでも飄々とした表情で答えを返すのは、銀髪金目で巫女装束をまとい右手に日本刀を携えた、あまりにも統一性の乏しい女の子のほうでした。


「あら、わたくしたちが先程、桃から生まれるところをご覧になっていたでしょうに?」


「「「はあ?」」」




わたくしこそはかの高名なる『桃太郎』の正統なる後継者であり、もちろんこの島には『鬼退治』に参りましたの♡」




 そのように、名乗りを上げた、その刹那。




「──ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ⁉」




 手にしていた大振りの日本刀を一閃するや、目の前の二体のナイのうちの黒いほうを、文字通りに一刀両断にし、首と胴体とを離れ離れにしたのです。




「「「──ひいっ⁉」」」




 そのあまりの『思い切りの良さ』と『無慈悲さ』に、残った白鬼を含めて、鬼たちのほうがドン引きとなりました。


 そんなナイどもを見下すようにして、愛刀についた血糊を舐め取りながら言い放つ、幼い少女。




「……この黒いやつ、とにかく『目障り』だったんですよねえ。ただでさえガタイがデカいというのに、全身真っ黒なんて、ウザ過ぎるのですわ。しかもこいつら、なぜかアジア人を始めとして『黄色人種』に対して、差別意識が高すぎるのよ。今回の白人と組んだゴミ蹴鞠選手の件は言うまでも無く、現在アメリカメジャーリーグにおいて名実共に『最高殊勲選手』とも呼び得る、某日本人への明確なる侮辱発言をしたTVキャスターとかもね。更には何と、ちょっとでも都合が悪くなったら、『俺たち黒を差別主義者扱いしないでくれ! 俺たち黒こそ、これまでずっと差別され続けてきたんだ! もっと哀れんでくれ!』とかほざきやがる。どんなに日本人を差別しようが! どんなに日本で犯罪を犯そうが! どんなに日本の某南の島で幼い少女をレイプしようがだぞ⁉ 『俺たち黒鬼が逮捕されたのは、差別のためなのだ』と臆面もなくわめき立てやがるんだぞ⁉ もう日本人は無条件で、世界中から黒鬼をすべて駆除しても、許されるんじゃないのか? 何が『黒鬼にも生きる権利がある』だ⁉ ねえよ! 日本人にとって、てめえら黒鬼がこれ以上呼吸をし続ける理由なんて、この世のどこにも無いよ!」




「「「──あ、あの、鬼の私たちが言うのも何ですが、そこまでおっしゃったりして、本当に大丈夫なんですかあ⁉」」」




 少女が言いたい放題まくし立て終わるとともに、間違いなく心から心配そうな声を上げる鬼の皆さん。


「大丈夫ですよ、本作の作者の言うところでは、これはあくまでも黒『鬼』に関する話であって、人間の人種としての……ええと、『黒いの』? それとも『アフリカ系』? ……うう〜ん、なんかあいつらに向かって下手なこと言うと、すぐに『差別認定』されてしまうから、呼び方に苦労するんだけど、とにかくあの『黒い人種』どものことを言ったわけじゃありませんので」


「「「いやいや、その言い訳って、あまりにも無理があるだろうが⁉」」」


「…………鬼のくせにごちゃごちゃと、うるさいですねえ(『似非チ○ちゃん』風に)。──『犬』、構いませんから、今すぐ白いほうをやっちゃいなさい」


「だから『犬』では無くて、僕にはちゃんと『うえゆう』という名前があると、申しているでしょうが?」


 もはや二人の間では『毎度お馴染みの会話のやり取り』なのか、うんざりとした表情を浮かべながらも、少年が少女の命令に従うようにして、右の手のひらを白鬼のほうに向ければ、




「──うがあああああああああああああああああああッ⁉」




 突然巨大な犬の顎門あぎと変化メタモルフォーゼするとともに、白鬼の左腕を、肩から下すべて噛みちぎったのでした。




「き、貴様、一体…………ッ⁉」


 それでもそこはさすがに、上級のナイと言ったところでしょうか。


 すぐさま大きく後ろに飛び退き、追撃を逃れる白鬼さん。


「だから申しているではないですか? 桃太郎ことわたくしあかつきよみの、忠実なる『犬』だと」


「……上無祐記、ですってば」


 見かけとは裏腹のとても人間業とは思えない速攻で、あっさりとナイ側の主力をほとんど無力化した少年少女に対して、警戒レベルを一気に跳ね上げる、手負いの白鬼。


「く、くそ! ──おい、おまえら、あの生意気な小娘を黙らせろ!」


「「「──ダ!」」」


 白鬼の命令一下、どこかの『戦闘員』みたいな奇声を発しながら、自称『桃太郎』の少女『明石月詠』嬢に向かって、己たち『ナイ』のトレードマークとも言える、禍々しき漆黒のブーメランを四方八方から投げつける、半島小内鬼ゴブリンども。


 それに対して驚くことにも、一歩たりとて動じる気配を見せない、少年少女の二人。


 あっという間に全身にブーメランが突き刺さり、あたかもハリネズミそのままとなる、詠嬢でありましたが、


「「「──なッ⁉」」」


 次の瞬間、ブーメランは文字通り霧や幻でもあったかのように霧散して、そこには笑顔の巫女娘のみがたたずんでいました。


「──貴様本当に、何者なんだ⁉」


 次々にわき起こる異常きわまる事態にもはや堪りかねて、上級のナイのプライドさえもかなぐり捨てて、悲鳴のような叫び声を上げる白鬼さん。


「だから先程から、何度も何度も申しているではありませんか? 『鬼退治』のために神仏より遣わされた、『桃太郎』であると」




「「「嘘だッ!!!」」」




「……何ですか皆さん、一斉に声を合わせて。もしかしてここは『鬼ヶ島』では無く、某雛○沢村の『鬼○淵沼』だったのですか?」


「やかましい! 隙あらば『ひぐ○し』ネタをぶっ込んでくるんじゃねえ! おまえなんかが神仏の使者であって堪るか⁉ むしろ俺たち鬼や邪神の類いであると言われたほうが、納得できるわ!」


「失礼な、わたくしほど『神聖なる者』なぞ、この世にいないというのに」


「神聖なる者、だと?」




「そう、わたくしこそは天子様に仕えし、神聖なる、『どう』にてございまする♡」




「「「へ? 八瀬童子? 天子に仕えている、『鬼』、って……」」」




 ここに来ての最大級の『爆弾発言』の直撃を食らって、もはや何が何やらわからなくなり、完全に言葉を失ってしまう鬼の皆さん。




「いやいやいやいや、言葉を失わないよ! むしろ言いたいこと山盛りだよ! 『八瀬童子』で名前が『ヨミ』で『犬』を従えているメインヒロインて、ひょっとしてゴツボ×リ○ウジ先生の、『荒○トライ──」




「──黙れ! 『荒○何とか』なんて知らん! 万一似ていたとしても、あくまでも偶然です! わたくしの名前は連載当初から明石月『よみ』でしたし、鬼退治をする桃太郎の正体が、実は鬼を屠る鬼である『八瀬童子』であると言うのは、今回新たに思いついたアイディアだし、それに何よりも桃太郎が『犬』を連れているのは、むしろ『お約束』でしょうが⁉」




「……ぬう、確かに『荒○トライブ』なんて、ほとんど知られていないと思われるのに、こうしてわざわざ自分から明言しているところを見ると、悪意をもってパクるつもりは無かったんだろうが、あくまでも『桃太郎』と言い張るつもりなら、『犬』以外の『雉』や『猿』はどうしたんだ?」


「雉は、わたくしたちをこの島まで運んでくれた、『二式大艇』です」


「──すげえスケールのでかい雉だなあ⁉ 確かに空を飛んでいたから、『雉ポジション』でもおかしく無いけど!」


「それで、残る『猿』ですけどお──」


「「「ですけど?」」」




「──今、あなたたちの後ろに、いるの☆」




「「「はい?……………………って、うわああああああああッ⁉」」」




 なんかどこかの『都市伝説少女』みたいなことを言い出す、詠嬢でしたが、


 ──それは、嘘でも冗談でもパロディでも、ありませんでした。


 いつの間にか、ナイどものすぐ後ろの砂浜から、枯れ木のような腕が飛び出てきて、彼らの脚をがっしりと握りしめたのです。


 そしておもむろに、全身を現す、他称『猿』たち。


「「「ひいッ⁉」」」


 鬼たちすらも思わず悲鳴を上げる、凄絶なる有り様。


 ボロボロの衣服の切れ端だけをまとった、腐り果てた肉を所々に残した、枯れ木そのままの骨ばかりの死体。


 そう、彼らこそ、『者』──すなわち、この武島の本来の住民であり、侵略者であるナイどもの奸計よって殺されてしまった、哀れなる『亡者』たちだったのです。




「どうです、八瀬童子最終奥義、『ゾンビランド武島』! 『死者』とともに土に帰るがいいですわ、この下等なる黒鬼に白鬼に半島小内鬼ゴブリンどもめ!」




「「「だからおまえは、隙あらばここぞとばかりに、『ネタ』をぶっ込んでくるんじゃないよ⁉」」」




 そのように、再び総ツッコミを入れる、ナイどもでしたが、




 さすがの鬼もほとんど攻撃が効かない『アンデッド』には敵いっこ無く、一緒に地中に引きずり込まれて全滅し、『武島』には再び平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし♡

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