第772話、わたくし、『桃太郎』なので、人の心の内の鬼『内鬼』を退治しますの⁉(前編)
「──ギャハハハハハ、黄色い不細工どもが! 貴様らのような劣等人種が、サッカーなどとは、片腹が痛いわ!」
「そうだ! そうだ! サッカーは俺たち、白鬼と黒鬼の専売特許だ! 黄色い不細工どもは、俺たちの暇つぶしのための、ゲーム機の生産や修理をやっていろ!」
──ここは日本海に浮かぶ、人呼んで『
本来ここは日本国固有の領土であり、少数の人たちが漁を
しかし、そこに突然漂流してきた二人の『外国人』によって、すべては激変してしまったのです。
季節外れの嵐の後の早朝の浜辺に流れ着いた、二人の見慣れない大男。
しかも二人共顔形がまったく日本人とは異なっているだけでは無く、何とその肌の色ときたら、片方は真っ白で、片方は真っ黒だったのです。
もちろん、島民たちは、大騒ぎです。
これはきっと、地獄の鬼や魔物が現れたものと、気を失ったままの二人の周りを遠巻きに取り囲み、怖々と様子を見守るばかりでした。
しかし、ようやく意識を取り戻した二人の行動は、予想外のものでした。
彼らは別に暴れたりせずに、むしろ自分たちを取り巻いている数十人もの視線に怯えているようでもありました。
その様子から、おそらくは嵐によって難破した船から投げ出されて、命からがらこの島に泳ぎ着いたものと思われ、気の毒に思った島民たちは、衣食住を始めとして、二人の世話をすることにしました。
漂流者たちのほうも、最初のうちは島民に対して心から感謝をして、元気を取り戻してからは、島の人々の手伝いをし始めるほどでした。
──しかしそれはあくまでも、日本の人々を騙すための、『演技』でしかなかったのです。
彼らはすっかり油断しきった島民に対して、島からさほど離れていない沖合に座礁している難破船から、自分たちの故郷であるスペインのバルセロナから運んできた、東アジア大陸の少数民族を強制労働させて作らせた、不吉な漆黒のブーメランマークが描かれた運動靴を、これまでの『感謝の気持ち』として渡しました。
そのいかにも機能性が高そうで見かけのカッコいいカラフルな靴をもらって、人のいい島民たちは大喜びでその場で履き替えたのですが、
──それこそが、狡猾なる『罠』だったのです。
実はその靴は、地獄の『
その銘、『
一度身に着ければ、誰もが心の
その結果、これまで平穏そのままだった島内においては、島民同士が完全に疑心暗鬼に囚われて、互いに差別し合い、傷つけ合い、陥れ合い、──そして最後には、一人残らず本気で殺し合って、あっさりと全滅してしまったのです。
その一部始終を見守っていた白人と黒人の男性──その正体こそは、上級の
強大なる鬼である自分たちに人間である日本人が敵うはずが無いと、すっかり慢心した白鬼と黒鬼は、まんまと武島を不法占拠しながら、動画サイトを使って日本人を侮辱した差別動画をいくつもネットに上げて、日本人の感情を逆なでしていきました。
もちろん海上保安庁や警察庁機動部隊や自衛隊等々が、果敢に武島への上陸を試みましたが、さすがにマジモンの鬼の軍勢が相手では分が悪く、いまだに島の実効支配の奪還は成し得ないままでした。
調子に乗った白鬼黒鬼は、己の配下である
……ちなみにそのため、数年後ムーン酋長が落ちぶれた際に、東京で開催されたオリンピックにかこつけて来日して、日本国の総理大臣に媚びへつらって助力を得ようとしたところ、国内に一歩足を踏み入れた途端、過去の『不法入国罪』によって逮捕されて、完全に政治生命を絶たれてしまうという、非業の最期を遂げることになるのですが、これはまた別の話でございます。
とにかく現時点においては、もはや武島に対しては、日本国として為す術も無いものと思われていた、
──まさにそんな時でした。
「……何だ、あれは?」
その日、突然轟いた爆音に、思わず空を見上げる、島中の
すると何とそこには、第二次世界大戦において大日本帝国海軍が誇りし『二式大艇』をターボプロップ化した特別仕様の輸送機が、悠然と武島に迫り来つつありました。
さすがの
残された落下物のほうはと言えば、すぐさまパラシュートが開き、ゆっくりと波打ち際の海面へと着水しましたが、何とそれは──
小型の軽自動車ほどの大きさのある、二つの巨大なる『桃』だったのです。
「「「は?」」」
白鬼黒鬼すらも含めて、すべての
二つの桃のうちの片方から聞こえてくる、調子っ外れの歌声。
『モーモタロさん、モモタロさあ〜ん、
海に
攻めてみたいな、鬼ヶ島あ〜』
「「「──同じ童謡とはいえ、『桃太郎』か『うみ』か、どっちなのか、はっきりしろ!!!」」」
……そのように、
いきなり二つの桃の両方が、真っ二つに割れたのです。
「「「──なっ⁉」」」
そして、そこから現れたのは、
それぞれの右手に、日本刀を携えた、
いまだ年若き、
──絶世の、美少女と美少年であったのです。
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