第683話、わたくし、SFアニメは物理学よりも心理学のほうがふさわしいと思いますの⁉

ちょい悪令嬢「──はい、今回はすでに放映&配信が始まっております、2021年春アニメを始めとして、『アニメ作品において、SFはどうあるべきか?』について、存分に考証していきたいかと思います!」




メリーさん太「……あれ、今回は珍しく、まともな出だしじゃないか? 本作の趣旨とも合致しているし。一体どういった風の吹き回しなんだ?」




ちょい悪令嬢「それと言うのも、少しばかり、自信が無くなってきたのです……」


メリーさん太「自信が無くなったって、何に対する自信だよ?」


ちょい悪令嬢「まず何と言っても、まさに現在リアルタイムで『ア○マTV』様において全話無料配信されている、『ゲキ○ル』のクライマックス以降における、いきなりのSF的展開についてです」


メリーさん太「……ああ、あれは確かに、難解だったよなあ」




ちょい悪令嬢「まあ、『大筋』はわかるんですよ、『時間犯罪人』を追って『時間管理局』のエージェントが、21世紀の池袋に来るんでしょ? それで結局何やかんやあって、世界の時間軸が無茶苦茶になって、人々が何か分岐世界みたいのに囚われてしまって、そのまま世界丸ごと消滅するはずだったところ、なぜか主人公たちの演劇が現状とシンクロして、しかも奇跡的に『正解』を演じることによって、世界が元通りとなり、SF的現象は最初から無かったことになって、めでたしめでたしで終了♡………………………って、感じですよね?」




メリーさん太「う、う〜む、確かに『大筋』では、そんな感じかなあ?」


ちょい悪令嬢「……う〜む」


メリーさん太「……う〜む」


ちょい悪令嬢「……」


メリーさん太「……」




ちょい悪令嬢「──いや、わからんわ! どうして単なる演劇が、世界の危機的状況を救うことができるんだ? そこにどういう、SF的仕掛けが存在していたんだよ⁉」




メリーさん太「……あ、うん、まあ、『ゲキ○ル』クライマックスの難解さは、その一言に集約されるわな」


ちょい悪令嬢「そして更にイミフなのが、クライマックスになってからのいきなりの、メインキャラ勢の総入れ替えなのです!」


メリーさん太「あれも、面食らったよなあ……」


ちょい悪令嬢「せめて、か○るさんを中心とした、『時間犯罪』関係のエピソードを中心にやってくれれば、どうにかついていけたと思うのですが、なぜか竹○氏なんかがメインとして出張ってきて、か○るさんとの間で愛憎劇を展開し始めるしなあ」


メリーさん太「更に謎なのが、(ア○スちゃんこと)ドールちゃんと(美○さんこと)み○ちゃんで、そもそも『時間犯罪』とこの二人って、一体どう関わっているわけ? ドールちゃんて、『どの派閥』に属していたの?」


ちょい悪令嬢「う、う〜ん、ドールちゃん自身が、時間犯罪を犯したわけでも無いし、むしろ時間管理局側の『備品』?…………だったりして?」


メリーさん太「それにしては何だか、『フリーハンド』過ぎるし、むしろ『すべての黒幕』みたいだしで、ほんと良くわからないよな」




ちょい悪令嬢「……もしかしたら、『黒子』かも、知れませんね」




メリーさん太「へ? 黒子、って……」


ちょい悪令嬢「まさしく『ゲキ』、すなわち、『演劇』の黒子ですよ」


メリーさん太「え、ドールちゃんて、そんな『裏方』的な役割だったっけ? どちらかと言うとさっきも言ったように、『すべての黒幕』か『狂言回しトリックスター』って感じだったけど?」


ちょい悪令嬢「まあ、このことに関しては後ほど詳しく述べるとして、ここでは『ゲキ○ル』における、最大のSF的問題点について指摘させていただきたいかと思います」


メリーさん太「最大のSF的問題点、って……」




ちょい悪令嬢「世界そのものの『修正』──つまりは、広い意味での『世界改変』です」




メリーさん太「──ッ」




ちょい悪令嬢「これって以前も言及したかと思いますが、『ゲキ○ル』って、『時間犯罪』に始まり、『時間管理局』、『過去の改変』、『世界の分岐』、『世界の修復』、『世界の消失』等々と、本作において事あるごとに指摘し続けてきた、『SF的作品におけるタブー』を、ことごとく採用しているといった体たらくでございます」




メリーさん太「……あー、久し振りに見たよ、いわゆる『ハ○ヒ的駄目SFイベント』のフルコースw」




ちょい悪令嬢「何度も申しておりますように、世界と言うものは無数のパターンの並行世界が、最初からすべて存在しているので、改変や修正や消失や分岐なぞをする必要は無く、そもそもそんなことが起こり得る可能性自体がけしてあり得ないのです。──すなわち、現在目の前にあるこの世界のみが、『唯一絶対の現実世界』として、永遠に続いて行くのみなのでございます」




メリーさん太「……たとえ、過去へタイムトラベルしたので『未来の知識』を持っていたり、そもそも最初から『未来予知能力』を持っていたりするなどと、本気で主張していたとしても、それはあくまでも何の能力も無い正真正銘の『現在の普通の一般人』が、たまたま集合的無意識とアクセスすることによって、無限に存在する未来の可能性の一端に触れただけに過ぎず、その通りの未来になるとは限らない──ってやつか」


ちょい悪令嬢「何せ、たとえ『過去へタイムトラベル』をしようが、『未来予知』をしようが、『集合的無意識とアクセス』しようが、現代物理学の根本原理である量子論に基づけば、その時点からの未来には無限の可能性があり得るのですからね、何の意味も確証性も無いのです」


メリーさん太「本作の作者お得意の、『現在の世界こそ唯一絶対論』、か……」


ちょい悪令嬢「そう言った意味では、今期のオリジナルアニメにおいても、由々しき作品が幾つかあるのですよ」


メリーさん太「……あー、『アレ』かあ」




ちょい悪令嬢「そうです、まさしく『悪夢再び』そのままに、例の『前々期のオリジナルアニメの評判を地に堕とした二大戦犯アニメ』のうち、エロゲ作家では無くWeb作家が脚本を担当なされたやつです」




メリーさん太「……『死に戻り』は独自のシステムと言うことで、多少大目に見ることができたけど、こうもあからさまに『過去の改変』をやられたんじゃ、擁護のしようが無いよな」


ちょい悪令嬢「ていうか、これって『ターミネ○ター』のいにしえから連綿と受け継がれている、『機械敵国VS人間勢力の、未来の運命を賭けた戦い』の亜流の一つですよね? みんなそろそろあのクマのぬいぐるみが、一体『どっちの勢力』の手先なのかとか、言っていることほぼすべてが『ミスリード』であることとかを、気づかれてもいいのでは無くって?」


メリーさん太「……まさかマジで、ヒロインの『味方』とか『善意のアドバイザー』とか、思っている人なんていないよな? よな?(『ひぐ○し』のレ○ちゃんの口癖の応用例)」


ちょい悪令嬢「まあ、クマの思惑は別にしても、現在の時間軸線上で何をしようが、彼の言う『百年後の世界』には、何の影響も与えることはできないのですけどね☆」


メリーさん太「──ちょっ、いいのか、作品そのものの『全否定』じゃねえか⁉」




ちょい悪令嬢「大丈夫です、否定したのは『SF設定』の部分だけであって、作品そのものではありませんので」




メリーさん太「……へ? SFの部分だけ、って?」


ちょい悪令嬢「『リゼ○』の時にも申したではありませんか、確かに『死に戻り』はけしてあり得ませんが、その抜群の娯楽エンターテインメント性ゆえに、作品そのものは全面的に支持するって」


メリーさん太「で、でも、今回の作品は『リゼ○』以上に、SF的設定が世界観と密接に結びついているから、これを否定すると言うことは、作品そのものを否定することになるんじゃないのか?」


ちょい悪令嬢「ふっふっふっ、『量子論SF』が駄目なら、『ユング心理学』ってことですよ」


メリーさん太「……つまりまた、『集合的無意識とのアクセス万能説』、ってパターンか?」




ちょい悪令嬢「クマのぬいぐるみがもたらす未来の情報が──もしくは場合によっては、情報体そのものとも言えるクマのぬいぐるみ自体が、集合的無意識を介してもたらされた、『無数の未来の可能性』の一例に過ぎず、それを勝手に『既定路線』と思い込まされているだけで、ヒロインとクマのぬいぐるみコンビは、思うがままに行動することによって、人類側に立ってAIの暴走を阻止することも、AI側に立って人類を滅ぼすことも、自分たちの望むがままの未来を創り上げることができるって次第ですよ」




メリーさん太「……それって実質的に、本編のストーリーラインを、ちゃんと実現できているようなものじゃないか?」


ちょい悪令嬢「そうです、集合的無意識論に則れば、『Vi○y』の世界観は、現実的に実現可能なのです」


メリーさん太「SF的設定を捨ててこそ、SF的作品が初めて成り立つことになるなんて、何と言う皮肉……ッ⁉」



ちょい悪令嬢「クマのぬいぐるみは、たまたま集合的無意識とのアクセス権を持っていたのか、はたまた場合によってはすべてでたらめを言っているに過ぎないのかは、定かでは無いものの、とにかくいかにももっともらしい言動を弄して、ヒロインを誘導しているのは、間違い無いものと思えるのですよ」




メリーさん太「つまりクマの存在そのものが、『悪意のみによって構成された集合的無意識』みたいなものなわけか? ……ふうむ、考えようによっては、ヒロインのほうに『集合的無意識とのアクセス権』が偶発的に芽生えて、このミスリードばかりのクマとして具象化された集合的無意識から、アドバイスを受けているような妄想に囚われているとも言えるかもな」




ちょい悪令嬢「──そして実はこれは、『ゲキ○ル』についても、言えることだったりするのですわ☆」




メリーさん太「……え? あの『SF的タブー』のオンパレード作品が、SFでは無く心理学に基づけば、ちゃんと現実性を獲得できるってわけか?」


ちょい悪令嬢「現実性と言うよりもむしろ、むしろ『虚構性』に全振りすることによって、『妥当性』を獲得することができたのです」


メリーさん太「はあ?」




ちょい悪令嬢「先程、ドールちゃんのことを『黒子』みたいなものと申したでしょう? 『ゲキ○ル』の作品世界そのものを、いっそのこと『演劇空間』と見なすと、すべてが論理的に説明できるのですよ!」




メリーさん太「──ちょっ、それってまさしく、『メタに逃げる』ってことかよ⁉」


ちょい悪令嬢「と言うよりも、公式の世界観設定として、『シアトリカルマテ○アルシステム』という仕掛けがあるじゃないですか? あれを使って、一つの演目を世界中で同時に上演することによって、現実と虚構とを入れ換えることが可能だったりして☆」


メリーさん太「おお、そういや竹○氏ってば、やけにシアトリカルマテ○アルシステムにこだわっていたし、か○るさんも、何だかそんなことを言ってたような気もするよな」


ちょい悪令嬢「それに何よりも重要なのは、本作お得意の、『他人様の作品の中で何が起ころうとも、それはその作者様の自由なので、誰であろうが文句をつけることは許されない』ってことなのですわ」


メリーさん太「……ああ、一つ作品を創るごとに、一つの(何でもアリの)異世界を創造するもの同然で、主人公たちは作品の開始と同時か、本編途中で魔法少女等に激変メタモルフォーゼしたりした瞬間に、(何でもアリの)異世界に転生するようなものなのだ──ってやつか」


ちょい悪令嬢「特にこの『ゲキ○ル』は、様々な『劇中劇』の集合体ですので、それぞれの『演目』の上演中は、異世界に転生しているようなものなのですよ」


メリーさん太「……ただし、どのような『不思議世界』であろうが、現在そこに存在している限り、当人たちにとってはその世界こそが、唯一の『現実』であり『現在』であるってことなんだよな」


ちょい悪令嬢「ええ、たとえゾンビがうごめいている学園であろうが、時間犯罪者と時間管理局のエージェントが女子高生をしていようが、もうじき消滅することが運命づけられている分岐世界であろうがね」


メリーさん太「……何せ最後に残るのは、何の不思議現象も存在し得ない、『完全なる現実の池袋』だしな」




ちょい悪令嬢「当然でしょ? すべてが異世界転生によって実現されていると言うことは、結局は『現在の現実世界』において、集合的無意識を介して、『別の可能性の世界の記憶や知識』を脳内にダウンロードしているだけで、どんなに荒唐無稽な世界を経験した気になっていたとしても、それはあくまでも妄想のようなものに過ぎないのですからね」




メリーさん太「……な、なるほど、『ゲキ○ル』も『Vi○y』も、やはり『SF的設定を捨ててこそ、真の現実性を獲得できる』ということに尽きるわけなんだな」




ちょい悪令嬢「……まあ、難しく考えることなぞ必要無く、すべての不思議現象は、集合的無意識によって一時的に与えられた、『別の世界の記憶』に過ぎず、最初から最後まで『現実の現在の物語』でしかないってことなのですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る