第684話、わたくし、ディストピアSFには量子論が似合うと思いますの⁉

ちょい悪令嬢「──さて、今回も前回に引き続いて、アンドロイドとかAIとかが登場する『SFアニメ』に対する、考証を行いたいかと思います!」




メリーさん太「……え、これって、まだ続けるつもりだったの? 前回得意の『集合的無意識とのアクセス方式』によって、完璧に論破していたんじゃ無いのか?」


ちょい悪令嬢「う〜ん、それはそれで構わないんですけど、アニメとはいえ『SF』と言うことで、ちゃんと量子論に基づいて考証しておいたほうが、やはり正当性があるかと思いまして……」




メリーさん太「──前回の内容、全否定じゃねえか⁉」




ちょい悪令嬢「いえいえ、それがそうとも言えないのですよ」


メリーさん太「はい?」


ちょい悪令嬢「『Vi○y』については、更に『量子論SF』の面からも考証を加えれば、より深く本作の作者のポリシーと合致したりするのです」


メリーさん太「作者のポリシー、って……」




ちょい悪令嬢「量子コンピュータの最も正しい使い方とは、『不幸な未来のみの予測計算シミュレーション』に限定することであり、不幸な未来となるパターンがすべてわかっていれば、それらに対して適切な対策をあらかじめ行っておけば、不幸な未来になる可能性をすべて潰すことが可能となる、完璧な『リスク回避』が実現できる──ってやつですよ」




メリーさん太「──‼」




ちょい悪令嬢「そもそも作品最大のテーマが、『百年後の人類滅亡の危機を回避する』ですしね」




メリーさん太「そういえばッ⁉」




ちょい悪令嬢「しかもその大目標に向けて邁進しながら、各エピソードにおいてもそれぞれのリスクを解消していくと言う、全体構成となっているところなぞは、非常に理想的と申せましょう」


メリーさん太「……そ、そうか、『リスク回避』という視点で見れば、本作の作者がこれまで散々アピールしてきた、『真に理想的な量子論SF』ともなり得るかも知れないってことか」




ちょい悪令嬢「──何せ、きょうびAIとかアンドロイドと言えば、量子コンピュータですしね!」




メリーさん太「と言うことは、ヒロイン自身の電子頭脳が、本格的な量子コンピュータだったりするわけ? なんか『史上初の自律型AI』であることを、作内において盛んに喧伝していたし」


ちょい悪令嬢「いいえ、量子コンピュータであるのは、例のクマのぬいぐるみさんのほうですわ」


メリーさん太「へ?………………………って、おいおい、あいつは『すべての黒幕』か『狂言回しトリックスター』じゃ無かったのか?」


ちょい悪令嬢「その可能性も捨てきれませんが、『不幸な未来を回避するため』に行動しているのも、また事実でしょ?」


メリーさん太「……それ自体が、ヒロインに言うことを聞かせるための、『ブラフ』かも知れないじゃないか?」


ちょい悪令嬢「ブラフで構わないではないですか? 別に『たった一つの絶対なる未来』を決めつけようとしているのでは無く、無数の未来の可能性をすべて予測演算シミュレーションして、それに内包されている『危険因子リスク』を、一つ一つ潰そうとしているのですから」


メリーさん太「あ、そうか」


ちょい悪令嬢「そして、『無限に存在し得る未来の可能性パターン』をすべて予測計算シミュレーションできるのが、『真に理想的な量子コンピュータ』と言うわけなのですよ」


メリーさん太「……むう、確かに」


ちょい悪令嬢「ところで、このクマさんには、『死に戻り』をしている疑惑があるのは、ご存じですか?」


メリーさん太「──はあ? 人間どころか生物でも無いAI(入りのぬいぐるみ)が、『死に戻り』って、いくら『リゼ○』繋がりとはいえ、そんなまさか⁉」


ちょい悪令嬢「ヒロインに対して何かと口うるさく、自分の言う通りにやらせようとしているのも、これまで何度同じ百年間を繰り返そうとも、ヒロインの失敗によってやり直してきたからであると言う、いかにももっともらしい説が、ネット上においてまことしやかに噂されていたりしてね☆」


メリーさん太「いやだからさあ、そもそも生物では無いんだし、クマもヒロインも『死なない』じゃん? 死なないのなら必然的に、『死に戻り』もできないだろうが? それとも『シ○タゲ』か何かのように、データだけを未来から過去へと送っているとか?」


ちょい悪令嬢「おやおや、そんな必要なぞございませんが? 確かにデータは取得しておりますが、別にそれは本物の未来からいただいたものではありませんよ?」


メリーさん太「……なに?」


ちょい悪令嬢「あらら、もうお忘れですか? 集合的無意識が、『ユング心理学』的には、どのように実現されているかを」


メリーさん太「あ」




ちょい悪令嬢「そうです、別に本当に死んだり、世界や時間をやり直したりしているわけでは無く、集合的無意識とアクセスして、そこから『死んでしまう=失敗してしまう』未来の情報だけを脳内にインストールして、実質上『ループ』を体験したのと同様の状況になっているだけなのです」




メリーさん太「……つまり、今回はそれが、人間等の生物では無く、AIやアンドロイドにおいて、行われているって言うのか?」


ちょい悪令嬢「内容的にはほぼ同じですが、あなたがおっしゃるように無生物を相手にしているので、集合的無意識論では無く、量子論に則ることになりますけどね」


メリーさん太「……量子論によって、『死に戻り』を実現するだと?」


ちょい悪令嬢「実はそのための、量子コンピュータなのですよ♫」


メリーさん太「──ッ」




ちょい悪令嬢「以前も申しましたが、そもそも集合的無意識とのアクセスを果たせたとしても、必要な情報そのものを丸ごと取得できるわけでは無く、あくまでも『大枠』と言うか『プロテクトキー』と言うか、必要最小限の『考え方の雛型テンプレート』がダウンロードされるだけで、後は『天然の量子コンピュータ』とも言える人間自身の脳みそで演算処理して、あらゆる未来の可能性を弾き出し、その中から求める答えを取捨選択しているのです。──それに対して、SF小説なぞに登場する『真に理想的な量子コンピュータ』ともなれば、何と集合的無意識にアクセスすることさえも無く、無限に存在し得る未来の可能性をすべて自力で予測計算シミュレーションして、それに基づいて最適な解答を導き出すことすらもできるといった次第なのであります」




メリーさん太「……と、言うことは」




ちょい悪令嬢「クマさんに真に理想的な量子コンピュータが内蔵されているとしたら、別に本当に未来から来たわけでも死に戻りを体験したわけで無くても、無限の未来の可能性を予測計算シミュレーションして、まるで『死に戻り』を行ったかのように、あらゆる『未来のリスク』に対して、あらかじめ対応策を練ることが可能となるのですよ」




メリーさん太「……おお、なるほど。こうして量子論に則ると、『Vi○y』におけるSF設定が、ほぼすべて現実性を帯びるようになるし、クマさんが常に口うるさくヒロインを自分の言う通りにさせようとすることに、説得力が出てくるよな⁉」




ちょい悪令嬢「ただし、これはこれで、問題が生じることにもなるのですよ」




メリーさん太「え、これだけ『SFアニメ』として完璧になったと言うのに、問題が有るって?」


ちょい悪令嬢「一つには、例の『飛行機事故』についてです」


メリーさん太「……ああ、あれかあ」




ちょい悪令嬢「なんかクマさんてば、何としても目標の未来にたどり着くためには、余計なことは極力しないほうがいいと言う、いわゆる『バタフライエフェクト論』そのままな、『古いSF観念』に囚われておられますが、前回も申しましたように、未来には無限の可能性があり得ますので、『ハ○ヒ』シリーズにおいてみ○るちゃんがこだわり続けた『確定した未来』なぞ存在せず、むしろせっかく飛行機事故が起こる可能性が高いことがわかっているのなら、全力で未然に防いだほうが、『リスク回避』として非常に正しいのであって、あそこでクマさんがヒロインの邪魔をしたのは、量子論的にもユング心理学的にも、完全に間違いだったと申せましょう」




メリーさん太「……ああ、むしろ事故を防いだせいで問題が生じる可能性があると言うのなら、それこそ量子コンピュータをフル回転させて、『解決策』を算出シミュレートすればいいだけの話だしな」


ちょい悪令嬢「そうですよ、飛行機事故の一つも防ぐことができなくて、百年後の人類滅亡の危機を防ぐことなんか、できっこ無いではありませんか?」


メリーさん太「──それで、『一つには』と言ったからには、まだ他にも問題点が有るのか?」




ちょい悪令嬢「ええ、それもこの作品だけでは無く、今期の春アニメ全体に言えることなのですが、『これってほんとに面白くなるのか?』といった、最重要問題についてです」




メリーさん太「──こらあああああああああああああああああああああっ‼」




ちょい悪令嬢「……な、何ですか、メリーさん、いきなり大声を上げたりして。びっくりしたではないですか?」


メリーさん太「『何ですか』も『びっくりした』も、こっちの台詞だよ⁉ 何なんだ一体、その言い草は! それじゃまるで、『Vi○y』が今のところ、面白くも何とも無いようじゃないか⁉」


ちょい悪令嬢「あ、これは別にディスっているわけでは無く、むしろ期待の表れなのですよ」


メリーさん太「……ほんと、だろうなあ?」


ちょい悪令嬢「もちろんですとも! 何せ『リゼ○』に対しては、『死に戻り』等の設定の妙よりも、抜群の『面白さ』こそを、評価させていただいたのですからね!」


メリーさん太「──うっ、た、確かに……」




ちょい悪令嬢「いやね、別にわたくしが恐れ知らずにも、現時点で『まったく面白くない』とか、決めつけているわけでは無いのですよ? 『面白い』かどうかは、あくまでも『人それぞれの感想』ですからね。──でもそれにしても、あまりにもSF面において、『テンプレ』過ぎるかと思うんですよ」




メリーさん太「……あー、確かにそれは、あるかもねえ」




ちょい悪令嬢「そういうわけで、むしろ『Vi○y』には、これまでのSFの概念をぶち壊すような、劇的なる展開を期待したいかと思いますので、脚本の『リゼ○』の作者の方を始めとして、スタッフの皆様に対しては、心より応援いたしていく所存であります♡」













メリーさん太「……こ、こいつ、いかにも綺麗に締めやがったけど、そう言うからには、これからもちゃんと視聴を継続していくんだよな?」




ちょい悪令嬢「ぎくっ⁉」




メリーさん太「『ぎくっ⁉』、じゃねえよ! こんだけ小説のネタにさせていただいたんだから、ちゃんと最終回までフォローしやがれ!」

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