第574話、わたくし、悪役令嬢は量子コンピュータのバグだと思いますの⁉(前編)
「……まさかこの世界が、乙女ゲーム『デバ・ザンス』として、『つくられたもの』だったとは」
──艱難辛苦の末に、ようやくたどり着いた、『この世の果て』とも呼ばれている、世界の中心地、『量子魔導領域』。
まさにここで、大陸きっての『悪役令嬢』である
「……あなたが、この世界を裏側から支配している、『シナリオの守護者』ですわね」
そのように、コンピュータの基部に設置されているモニターの一つに語りかけると、あたかもそれに応えるようにして、一人の黒髪黒瞳の幼女の顔を映し出した。
『うふふふふ、確かに私は、この「デバ・ザンス」全体が常に「シナリオ」通りになるように、様々な「微調整」を行っておりますが、あたかも「神様」か何かのように、世界の裏側とか外側なんかに存在しているわけでは無く、この中央コンピュータにおいてプログラムされた、「AI」のようなものに過ぎないのです』
「……その『単なるAI』が、
『スポイルかどうかはともかく、何かと言えば現代日本からの転生者が憑依してきて、突然豹変して、下手すれば世界そのものを改変しかねない「危険人物」を、放っておくわけにはいかないでしょう? 文字通りに「別人格」となって、これまでの人生を悔い改めて真人間になるというのは、十分理解できるけれど、無駄に現代日本の最先端の知識を活用して、実家の領地経営を大幅に改良したり、その延長として国家レベルのNAISEIに手を出したり、マヨネーズ等の現代日本の特産物を再現したり、農耕技術を大改良したり、経済改革を大胆に行ったり、現代兵器を生産するとともに斬新な軍事戦略を企図したりといったふうに、世界や歴史そのものをねじ曲げかねないほどの大変革をもたらす怖れがありますからね』
「だから、『現代日本人としての前世』に目覚めた悪役令嬢は、見つけ次第ことごとく『処分』してしまうと?」
『うふふふふ、そんなまさか。あなたたちは私にとっては、「お仲間」みたいなものですからね』
「はあ?
『つまり、「量子コンピュータ」同然だと、申しているのですよ』
「なっ、量子コンピュータって⁉ まさか、そんな!
『……何の話をしているのです? はあ〜、競馬の着順を当てるですって? 小学生かよ⁉ 「僕ちん、過去にタイムトラベルして、競馬や宝くじを当てて、大金持ちになるんだ!」と、同レベルだろうが? もう、プロの脚本家を名乗るなよ?』
「──すげえ辛辣なAIだな⁉ もうその辺でやめてくれ!」
『そもそも量子コンピュータは、未来予測どころか、「唯一絶対の解答」を
あ。
「──いやだったら、量子コンピュータは、どんなことができるんですの⁉」
『そりゃあ、様々なデータに基づいて、「計算」をすることですよ』
「そんなんじゃ、今までのコンピュータと、まったく同じじゃないですか⁉」
『いいえ、全然違いますよ。これまでのコンピュータはただ単純に計算して、一定の範囲内で適切と思われる解答をはじき出すだけでしたが、量子コンピュータにおいては、原理的に無限の計算処理能力を誇る『量子ビット演算』によって、「すべての可能性」を
「すべての可能性、って……」
『いいですか、どんなに科学技術が進歩しようとも、奇跡的に魔法が使えるようになろうとも、下手したら神様そのものになってしまおうとも、「未来予測」なぞけして不可能なのであり、例えば天気予報で言えば、明日の降水確率の予測精度を、どれだけ上げることができるどうかの違いでしか無いのですよ』
「なっ⁉ 今まさにコミー人民共和国や某有名ゲーム脚本家アニメにおいて、いかにも『できないことなぞ何も無い』ように
……あれ? 確か『ヒ○ちゃん』てば、ほんの数分後に雨が降り出すことを、予言していなかったっけ?
「なぜ、一体、なぜなのです⁉ なぜ量子コンピュータであろうとも、未来を予測できないと断言できるのです! ここでいい加減な回答を寄越したりしたら、熱烈なる『だー○え』ファンたちから、袋だたきに遭ってしまいますよ⁉」
『簡単なことです、何せ小学生でもようくご存じのように、「未来には無限の可能性があり得る」のですから、たった数分後の天気ですら、たとえ「(自称)神様になった人」であろうとも、予言することなぞ原理的に不可能なのですよ。──ていうか、現代物理学の根本を為す量子論が、古典物理学を否定できた最大の理由こそが、まさにこの「未来には無限の可能性があり得る」ことを論理的に明言したからなので、量子論に立脚している量子コンピュータが、未来予測を実行できるわけが無いのです』
「──言われてみれば、まったくその通りじゃん⁉」
あ〜あ、これで『ヒ○ちゃん』も、おしまいかあ。
今期のアニメの『ブービー賞』争いは、『シグ○リ』の勝利で終わったな。
「で、でも、解答を一つに絞りきることができずに、未来予測どころか『唯一絶対の正解』すら求めることができないとなると、量子コンピュータなんて、存在価値が無いのではありませんの?」
『そんなことはございませんわ、むしろ「すべての可能性」を把握できることのほうが、有意義な場合も多いのです』
「……こちらから与えた設問に対して、『適切と思われる解答』がたくさん返ってきた場合、選ぶのが大変になるだけでは?」
『「適切な解答」、ならね』
「え?」
『「適切
──ッ。
「そ、そうか、『リスク管理』か⁉」
『そういうこと♫』
「……確かに、政治や経済や軍事や医療や学術研究等々のあらゆる分野において、むしろ『失敗する
『ただし、それは主に現代日本等のいわゆる「現実的な世界」の話なのであって、この「乙女ゲーム由来の異世界」においては、少々意味が異なってくるのです』
「え、どうして?」
『なぜなら異世界には、現代日本からの「転生者」が付き物でしょう? ──特に、あなた方「悪役令嬢」キャラのようにね』
「──‼」
(※後編に続きます)
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