第552話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(最終回)

 ……たとえ僕が、本当に琉球王国の後継者であり、軍艦擬人化少女である大和たちの『提督』として認められて、琉球王国の復活──すなわち、沖縄独立運動の旗頭となったところで、結局は日本政府が仕組んだシナリオの、『駒』でしかないだと?




「どうだ、これが大人の世界の『政治』というものだ。『お子ちゃま』には、勉強になったかな?」




 あまりに埒外の言葉に、僕がつい黙りこくってしまったら、いかにも勝ち誇ったかのように言い放ってくる、異世界『中つ国』からの侵略軍先遣部隊の、オーク隊長殿。


 ──だから僕は、言ってやったのだ。




「……え、別に僕、日本政府とか、米軍とか、特ア諸国とか、あんたのような異世界『中つ国』からの侵略者とかが、何をしようが、知ったこっちゃ無いけど? だって僕って、あんたの言う通りに、ただの『お子ちゃま』だもの」




「「「………………………………は?」」」




 僕の発言がよっぽど予想外だったのか、あんぐりと大口を開けて馬鹿面を晒す、異世界人や軍艦擬人化少女たち。


「──じ、自分から『お子ちゃま』であることを認めて、現実逃避かよ⁉ そんなんだから、政府からいいようにコケにされるんだぞ⁉ この、典型的な『平和ボケ』が! 一生懸命『米軍基地闘争』を行っている、同じ沖縄の大人たちの姿を見て、何も思わないのか⁉」


「うん、『平和ボケ』だよ? それって、いいことじゃないの。子供が生まれた時からどっぷりと、平和に浸かっていられることができるなんて」


「なっ⁉」




「一体世界中に、子供が政治のことなぞ一切考えずに、大人になるまでずっと平和に過ごせる国が、いくつあるんだろうね? ほんと、最高だよ、日本て。なぜかあんたらのような反日国外勢力が分離独立させようとしている、沖縄に生まれた『少年』として、断言するよ、『平和万歳!』 『日本最高!』、とね」




「──うぬうっ⁉」




なんかどこかの国では、子供たちに対して、『おまえたちの御先祖様は、日本による併合時代には、男は奴隷労働者で、女は性奴隷だったのだ!』と、生まれた時からずっと教え込むといった、狂った反日洗脳教育をしているそうじゃん? 嫌だよねえ、自分が『他の民族の奴隷の子供』であると、事あるごとに言われ続けるなんて。ほんと、シモ半島なんかに生まれなくて、本当に良かったよ!」




「──お、おい、ちょっと⁉」




「これは、『中つ国』においても、おんなじだよね!」




「ぬなっ⁉」




「一見、『改革開放政策』によって、国が豊かになったように見えるけど、甘い汁を吸っているのは、党の高級幹部と一部の都市部在住の特権階級だけであり、それ以外の十億以上の奴隷労働者階級においては、今や時代遅れの歪んだコミー主義を掲げる党の方針には背くことは絶対に許されず、厳格なる情報管理と言論統制や少数民族の弾圧等々の劣悪なる状況下において、何の自由も認められず、特に『子供たち』に至っては、歪んだイデオロギーに染まった洗脳教育により、党や軍のためだけの『ロボット奴隷人民』に仕立て上げられて、何ら自分の意思を持たぬまま、一生を国家のためだけに費やして死ぬのみという、虚しい人生。──いやあ、ほんと、中つ国やそれに類するコミー国家なんかに生まれなくて、良かったよお〜」




「て、てめえ、異世界とはいえ同じ中つ国の民として、断固として言わせてもらうが、コミー思想を馬鹿にするんじゃねえ! コミー思想こそは、人類の理想の具現なんだぞ⁉(※世迷い言です)」




「それに比べて日本は、子供が本当に、平和かつ自由かつ豊かに暮らすことのできる、世界で最も素晴らしい国と、胸を張って言えるよね! 歪んだ思想の大人たちだけが、『可哀想な沖縄』とか、『日本から独立すべき沖縄』とかと、必死に喧伝しているけど、単なる大嘘であり言いがかりでしか無いよね。だって、僕たちが日本のどこに行こうが、『沖縄県人』だからって、差別されることなんて無いし、自分さえやる気だったら、どんな高度な教育であろうが、どんな富や地位であろうが、手に入れるチャンスは与えられているんだし! そもそも何で、『沖縄だけが独立』しなければならないんだよ? 元は『琉球王国』だったから? ほんと、馬鹿じゃないの? おまえら本気で侵略する気なら、日本の歴史くらいちゃんと調べろよ? 頭『江戸時代』かよ? そもそも沖縄が日本に編入された明治時代までは、日本は多数の大名に統治された、多数の『藩』の集合体だったのであり、けして統一国家なんかでは無く、それぞれが独立国家みたいなものだったのであって、別に沖縄だけが、主権を否定されて無理やりに隷属させられたわけでは無いんだ。つまり、明治維新以前においては、『琉球王国』と『薩摩藩』という別々の国同士だったかも知れないけど、明治以降においては、『沖縄県』と『鹿児島県』というでもって、同じく日本国を構成することになったのであり、更には琉球国王であった尚氏は、各藩の大名たちとまったく同等に華族に列されるという平等ぶりで、『琉球王国は強制的に日本に隷属させられた』なんて事実はどこにも無く、令和の今頃になって、『沖縄はかつて琉球という一個の王国だったのだから、独立すべきだ!』とかほざくのは、ただの言いがかりであり、沖縄を占領して沖縄の人たちの臓器を商売道具に使用としている某大陸国家の、謀略工作以外の何物でも無いのさ!」




「──うおっ、言われてみれば、まさにその通りじゃん⁉ 確かに明治以前にも、江戸幕府が存在していたけど、別に薩摩や琉球を完全に統治していたわけでは無く、明治以降において、東京や鹿児島や沖縄等、日本を構成する府や県として、対等に日本を構成することになっただけだしな⁉」




「鹿児島県が、『かつては薩摩藩という独立国家だったから、日本から切り離すべきだ!』なんて言うやつが、一人でもいるか? それはかつては琉球王国だった、沖縄県も同じなのであって、『沖縄は琉球王国だったから独立すべきなのだ!』なんて言っているのは、何の根拠も無しに沖縄だけを別物扱いしようとしている、まさしく恥知らずの『差別主義者』ってことになるんだよ!」




「な、何と、沖縄独立及び大陸編入を目論んでいる、沖縄県内の活動家や、県外からのプロ市民や、大陸からの平等主義を騙るコミー主義工作員こそが、実は沖縄を貶めようとしている『差別主義者』だってえ⁉」




「──とにかく、その国が本当に理想的な政治体制で、人々が心豊かに暮らせるかどうかの判定ジャッジは、僕のような『少年』が、真に自由に幸せに生きることができているかどうかで決まるんだよ! そういう意味じゃ、日本国に属している現在の沖縄こそ、胸を張って『最高!』と言うことのできる、理想郷であり、歪んだコミー思想の楽園の実現を目指している、頭の狂った県内活動家や県外プロ市民や外国工作員どもは、とっとと宗主国である『紅い熊猫人民公社』にでも行って、『国家的臓器売買事業』にでも、身をもって貢献しろってんだよ!」




「……うぬぬぬぬぬぬ、言いたい放題言いやがって! この、退廃的資本主義にどっぷりと染まりきった、真に理想的なコミー思想を受け容れようとしない、敗北主義者めが! おまえのような危険思想を持った者を、琉球王国の後継者として、どこぞの反大陸勢力の旗頭にさせるわけにはいかん! ここで息の根を止めてくれるわ!」




 完全に子供である僕に論破されて、怒り心頭に発し破れかぶれとなって、大きな巨体を揺らしながら突っ込んでくる、異世界中つ国のオーク隊長。


「……大和」


「はい、何でしょうか?」




「君が本当は、日本政府に命じられたからこそ、僕に従うことになったのかどうかは知らないけれど、少なくとも今この時点においては、僕のことを『提督』だと見なしてくれているのは、間違い無いんだよな?」




「ええ、あなた様こそが、私の唯一絶対の『司令官』で、あらせられます」




「では、やれ」


「はっ」




 そして、何の躊躇無くぶっ放される、大和ご自慢の、45口径46サンチ3連装主砲。




「──ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」




 明け方の海岸中に響き渡る絶叫とともに、跡形も無く吹っ飛ばされる、紅いオークポルコ・ロッソ




「……これで、一件落着って、ところか」


 本当に、長い連載たたかいだったぜ。


「あ、あの……」


「うん、何だい、大和?」


「本当に、よろしいのですか?」


「よろしいって、何がだよ?」




「あのオークの言ったことは、ほとんど的を射ており、私があなたを『提督』に選んだのは、日本政府が仕組んだことなのです。それがわかっておられながら、私をあなたのしもべとして、お認めになってくだされるのでしょうか?」




「うん、認めるよ?」


「な、なぜですか⁉ 日本政府は──否、私は、あなたを騙そうとしたのですよ⁉」


「別に騙されていないじゃん? だって僕は元々、君たちや日本政府が、何を考えていようが、別に構わないんだし」


「──ッ」




「言っただろう? 僕たちのような『少年』が、何の気兼ねもなく自由に暮らせる国こそが、真に理想的な国なのであって、日本は今のところ『及第点』なんだから、僕に対してどんな思惑があろうが、何も心配いらないさ。だって僕もれっきとした日本国である、『オキナワの少年』なんだからね♡」




「……てい、とく」




「と言うわけで、これからもよろしくね」


「「「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします!」」」


 そう言って、こちらへと深々とこうべを垂れる、大和を始めとする、三名の軍艦擬人化少女たち。




 ……そんなに、畏まることなんて、無いのに。




 そもそも思春期まっただ中の身としては、こんな美少女たちが常に身近にいてくれるなんて、願ったり叶ったりだもんね♫




 ──そう、僕は、沖縄だとか日本だとか米軍基地だとか大陸だとか異世界からの侵略者だとか言った、難しいことなんかには一切関わりなく、どこまでも単純明快に、ただの『少年』であったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る