第526話、わたくし、意志の最も強い者が主人公となり、真に願いを叶え得ると思いますの。(前編)

「──これは、魔法なんかじゃ無い! ま、まさか、ウイルス兵器? どうしてこんなものが、この剣と魔法のファンタジー異世界にあるんだ⁉」




 魔王城の薄暗く広大なる謁見の間にて響き渡る、現代日本からの転生者にして、この世界の女神様に与えられたチートスキルである『死に戻り』の使い手である、選ばれし勇者たるこの僕こと、すずみやけいいちの驚愕の声音。


 ──それも、当然であった。




 長らくこの世界の人間ヒューマン族の生活領域を浸食し続けており、てっきり邪悪なる魔法によるものと思われていた、治療不可能な必ず死に至る伝染病が、何と魔族どもの帝国である『中つ国』において密かに開発された、この世界にはけして存在するはずの無い、『ウイルス兵器』の仕業であったのだから。




「──ふはははははは! どうした、勇者殿、顔色が真っ青だが? もしや我が『中つ国』が総力を挙げて開発に成功した、この『大陸風タイリク・フーウイルス』に、何か心当たりでも?」




 そんな僕の茫然自失となった間抜け顔を嘲るように鳴り響く、けたたましい笑声。


 思わず振り返ると、小柄で華奢なれど出るところは出ている妖艶なる白磁の肢体を、漆黒のロングドレスで包み込み、緩やかにウエーブを描きながら腰元まで流れ落ちている長いブロンドヘアに縁取られた、端整なる小顔の中でトパーズの瞳を煌めかせている、十五、六歳ほどの少女が、重厚なる玉座に座していた。


 女王、ホークアイ。


 魔族国家『中つ国』を統べる、絶大なる魔力を誇る、我々人間ヒューマン族の最大の敵──いわゆる『ラスボス』であった。


「──そ、そうか、わかったぞ! ホークアイ、おまえも俺と同じように、『あちらの世界』からの転生者だったんだな⁉」


 前からおかしいと、思っていたのだ。


 チート中のチートである『死に戻り』のスキルを何度も駆使して、バッドエンドを回避しようと思っても、どうしてもホークアイを倒すことが不可能だったのだ。


「……つまり、おまえも転生に対する代償として与えられた、固有のチートスキルを使うことで、俺の『死に戻り』効果を打ち消していたんだな? 一体どんなチートスキルを持っているんだ⁉」


 そのように確信をもって問いただしてみたところ、返ってきたのは何と、いかにもあきれ果てたといった感じの、大きなため息であった。


「『あちらの世界』? 『転生者』? 『チートスキル』? 『死に戻り』? 何をわけのわからぬことを言っておるのだ? まさかウイルスに脳みそを冒されて、乗っ取られしまったわけでもあるまいにw」


「──とぼけるな! 現代日本等の『あちらの世界』の知識も無しに、ウイルス兵器を開発できるどころか、そもそも『ウイルス』自体の存在や名称を、知っているはずが無いだろうが⁉」




「……ああ、私が『集合的無意識』を通じて得ていたのは、『ゲンダイニッポン』とか言う世界の知識だったのか? もしかして、おまえはそこの世界の人間の生まれ変わりを、しているわけか? そうかそうか、それなら礼を言わねばならぬな。おまえらゲンダイニッポン人の先進的な知識によって、こうして憎き人間ヒューマンどもを、絶望の淵に追いやることができたのだからな」




 ………………………は?


「『集合的無意識』とか、意味不明なことを言って、ごまかそうとするんじゃない! この期に及んで転生者では無いなんて、往生際が悪いぞ!」




「何を言っているんだ? 『転生うまれかわり』はおろか、『他の世界』なんか、存在するものか。ここにこうして居る者はすべて、この世界の魔族や人間以外の何者でも無いのだ。この私はもちろん、自分を『ゲンダイニッポン』からの転生者だと信じ込んでいる、おまえ自身もな」




「『転生うまれかわり』も『他の世界』も存在しないなんて、何をいきなり『なろう系』Web小説そのものを、全否定してくれちゃっているの⁉ おまえはどうだか知らないが、俺にはちゃんと、現代日本のブラック企業のサラリーマンとしての記憶があるんだよ⁉ そんなもの、生粋のファンタジーワールドの人間にあるわけ無いだろうが⁉」




「だからそれはすべて、『集合的無意識』を介して与えられた、『偽りの記憶』のようなものでしか無いのだよ」




 ──なっ⁉


「……集合的無意識って、さっきも言っていたけど、それこそまさしく、『あちらの世界』における、心理学用語か何かじゃなかったっけ?」


「そうだ、それも『集合的無意識』にアクセスすることによって、得た知識だ」


「集合的無意識にアクセスすることによって、知識を得たって…………つまりおまえは、それによって別の世界の知識である、ウイルス兵器の製造法を知ったってことか⁉ 何でそんなことができるんだ? いわゆる魔族の女王ならではの、とんでもない魔法でも使ったのか?」




「魔法? そんなものは必要無い。これはあくまでも、『意志の力』によるものなのだ」




「意志の……力、だと?」




「おまえは先ほど、Web小説がどうしたとか言っていたが、私自身が誰よりも強い意志を持っていたからこそ、チートスキルを有する勇者であるおまえから、この現実という物語セカイにおける、『主人公』の座を奪うことができたのだよ」




「はあ?」


 何こいつ。


 何でいきなり、メタそのもののことを言い出しているんだ?


「……いや待てよ、おまえさっき、ここ以外に『他の世界なんて存在しない』とか言っていた癖に、どうして『集合的無意識』を介して、『あちらの世界』の知識を得ることができたんだ?」


「おや、私はこうも言ったつもりだがな。集合的無意識がもたらしてくれるのは、『偽りの記憶』だと」


「へ? 偽り、って……」




「確かにこの世界以外に、他の世界なぞ存在しやない。『ゲンダイニッポン』なぞと言ったものは、おまえ自身の単なる妄想や、夢幻や、それこそ『物語の中の架空の存在』のようなものに過ぎないのだ。──しかし、まさにその『ゲンダイニッポン』における、物理学の中核をなす論理である量子論に則れば、あくまでも可能性の上での話とはいえ、あらゆるパターンの世界がすべて存在し得ることになっているので、この世界から見れば『Web小説内の設定』でしかない、『ゲンダイニッポン』の存在可能性も、けして否定できないことになり、『ゲンダイニッポン』においてもオカルト的な理論として知られるユング心理学が提唱するところの、あらゆる可能性上の世界の存在の『記憶と知識』──すなわち、世界や時代を問わぬ全次元の『情報』がすべて集まってくるとされている、『集合的無意識』とアクセスさえすれば、本来夢幻の存在であるはずのゲンダイニッポンにおける、ウイルス学を始めとしてどのような情報であろうが、取得し放題となるのだよ」




「──架空の存在である現代日本における集合的無意識論を使って、現代日本の最先端知識の獲得を実現するって、理論的におかし過ぎるんじゃ無いのか⁉」


「そんなことは無い、先ほども言ったが、量子論に則れば、あくまでも可能性の上だが、あらゆるパターンの世界が存在することになるから、あらゆる情報が集まってくる集合的無意識には、たとえこの世界からすれば架空の存在に過ぎない、ゲンダイニッポンの情報もちゃんと存在していて、しかもそれは『情報としては本物』なのだ」


「元々架空の世界において生み出されたものなのに、情報だけは本物だって?」




「だったら、わかりやすく言い直そう。現在自分がいる世界のみを唯一の現実世界だと認識するのならば、他の世界はすべて、『小説の中に描かれた世界』と見なせばいいのだ。何せこの世界から見れば、科学が高度に発展しているゲンダイニッポンは、まさに物語の中の世界以外の何物でも無いが、己自身をゲンダイニッポン人の生まれ変わりと信じ込んでいるおまえからすれば、この剣と魔法のファンタジーワールドなんて、Web小説の中の架空の世界にしか見えないんじゃないのか?」




「──‼」







(※後編に続きます)







   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




メリーさん太「……何よ、これ。いきなりこれまでの流れをぶった切って、ドラマ仕立てのエピソードなんかを挿入したりして?」


ちょい悪令嬢「あ、いや、実はこれも『ひぐ○しのなく頃に』旧アニメ版第二期『解』の最終エピソードである、『祭囃○編』に対する感想みたいなものなのですが、これについては次回の【後編】の終了後に、改めて詳しくご説明したいかと思います。──それよりも、今回は至急、訂正しなければならないことがあるのです!」


メリーさん太「訂正って、一体何を?」




ちょい悪令嬢「──前回後書き部分でご紹介した、『魔法少女お○し☆ロリカ』についてですよお! ついうっかり、『ひぐ○し』と『ま○マギ』とのクロスオーバー的な二次創作であると述べましたが、実はれっきとした公式OVA作品である、『ひぐ○しのなく頃に煌』における、登場人物だったのですよおおお!」




メリーさん太「はあ? あれが『公式』だって? おいおいおい、本作が言うのも何だけど、著作権は大丈夫なのかよ⁉(特に名称的に)」


ちょい悪令嬢「もちろん、『ま○マギ』側に許可はとっていると思いますけど…………とってますよね?」


メリーさん太「知らんがな⁉ ……しかしそれにしても、やはり『ひぐ○し』と『ま○マギ』は、ファン層が重なっていて、更には公式においてさえも、『梨○ちゃま=クーほ○』&『おヤ○ロさま=な○さちゃん』というのは、共通認識だったんだな」




ちょい悪令嬢「う〜ん、作品自体を拝見したわけではございませんので、そこのところは何とも言えませんが、たとえ本編がどシリアスで、下手するとエロやグロすらもてんこ盛りな超問題作でも、軽いノリの『魔法少女モノ』の番外編を作成するのは、当時のお約束だったみたいですよ? ……………………ほら、『スクール何とか』みたいに」




メリーさん太「──『何とかデイズ』の話は、よせ!」




ちょい悪令嬢「どシリアスな超人気作品と言えば、そのうち『ま○マギ』あたりも、『魔法少女作品』化したりしてね♡」


メリーさん太「おまえは一体、何を言っているんだ⁉」


ちょい悪令嬢「ほら、『ま○マギ』って、魔法少女作品としてのセオリーを外し過ぎているじゃないですか? そこで、あえていかにも『正統派』な番外編を作成することによって、『ギャップ萌え』を狙うわけですよ♫」


メリーさん太「…………うん、それはひょっとして、ナイスアイディアかもしれんな」




ちょい悪令嬢「やっと『魔法少女作品』らしい微笑ましいエピソードを実現できて、キュ○べえが感極まってむせび泣いたりしてね☆」




メリーさん太「むしろそいつこそが、諸悪の根源だろうが⁉」




ちょい悪令嬢「──ていうか、『ひぐ○しのなく頃に煌』自体が、『マギ○コ』みたいだと思いません? 敵の名前が『東京マ○カ』って、『マギ○スの翼』かよ?」


メリーさん太「むうっ、敵のボスが灯○ちゃんみたいな美幼女だったら、更に受けるかも知れないな⁉」


ちょい悪令嬢「これは本格的に、コラボしてみるのも面白いかもよ?」




メリーさん太「来年の、『ま○マギ』放送開始10周年を記念して、『正統派魔法少女作品』か『ひぐ○しとのコラボ作品』が作成されたりしたら、大反響を呼ぶだろうな♡」

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