第498話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その23)

『人が奴隷なんかでは無く、ちゃんと「己の意思を持った存在」として生きていくために、狡猾なる「奴隷制度」である資本主義社会を打倒するために、「革命」を起こすことこそは、極当然のことに過ぎないのだ! ──さあ、沖縄の諸君、今こそ米軍基地完全撤廃及び、永年の悲願の「琉球王国」の独立を達成するために、我が異世界「中つ国」と共に、「全世界同時コミー革命」闘争に立ち上がろうではないか!』




 ここぞとばかりに、熱い口調で高らかとアジり始める、異世界コミー勢力の尖兵工作員の、オーク隊長殿。


 だがそんなふざけた『騙り』なぞ、いまだ小学生に過ぎない僕の冷ややかな声音が、一刀両断に切り捨てた。




「嘘つけ、この真の『奴隷体制』の権化の、全体主義野郎が!」




『ぬなっ⁉』


 そう言って、思いっきり侮蔑の視線で見下せば、目の前の猪豚顔が、羞恥と怒りとで真っ赤に染め上がった。


『な、何が、嘘だ! 我らの「異世界コミー思想」こそ、この世界の虐げられている人民たちにとっての、唯一の希望であり、資本主義や民主主義の皮を被った、暴虐なる奴隷制打破闘争のための、「旗印」なんだぞ⁉』




「……おいおい、ソビエト連邦が崩壊して、マルクス&レーニンによる、何千万人の罪も無い市民たちを犬死にさせた、人類史上最悪の『コミー実験』が失敗に終わって、何十年経っていると思っているんだ? もう世界の知識階級は、絶対に騙されないぞ?」




『い、いや、だからこそ、この世界の「中つ国」を始めとして、ソ連の失敗への反省のもとに、「改革開放路線」に大きく舵を切り、基本的には一党独裁のコミー国家体制でありながらも、まさしく奇跡的な経済成長を果たして、人民一人一人の生活を大幅に向上させることを、見事に成し遂げたんじゃないか⁉』


「確かに表面上は、経済力の急成長を始めとして、実績を上げているかも知れないけど、人間にとってもっと大切なことを、ないがしろにし過ぎなんだよ⁉」


『……経済発展よりも、大切なもの、だと?』




「『自由』、だよ」




『──ッ』




なんか最近、『中つ国』資本の会社の超有名ゲームにおいて、事もあろうに、『自由』という文字を入力できなくなったそうじゃないか?」


『──うぐっ⁉』


「一体どこの、暗黒中世ヨーロッパ世界だよ⁉ これぞまさしく、『コミーこそは、ナ○スそのもの』の、いい証拠じゃん⁉」


『……ぬうっ』




「これは何も『中つ国』だけじゃ無くて、この日本に巣くっている『アンチ政権派』のコミーどもときたら、SNSにおいて大病のために辞任することになられた首相に対して、単に個人として同情的意見を述べただけで、日本人なら誰でも知っている超人気女性ポップシンガーに向かって、まるで『親の敵』であるかのように罵詈雑言を浴びせた挙げ句の果てに、『もう、あなたの音楽は聴きません』ときたもんだ。──つまり、これがおまえら薄汚いコミーの本性なのだ。少しでもコミーの国家的方針に添わぬ者がいれば、『国家の敵』と認定して完全に排除されて、例えばそれが『音楽』であれば、演奏する『自由』も聴いて楽しむ『自由』も、完全に奪い去られるって寸法さ。……いやあ、怖いねえ。もしもこの国が、『中つ国』に占領されたり、国内においてコミー革命が成功したりした暁には、『魔女の宅○便』の主題歌を聞く自由すらも、未来永劫奪われるという、とんでもない暗黒社会になってしまうわけだ」




『……「ジ○リアニメ」を、全否定だと? そんな人道にもとることなぞ、絶対に許されるわけがないだろうが⁉』


「──ふざけるな! そういうことを平気でやるのが、てめらコミーだろうが! 言っておくが、例の1989年の『中つ国自国民大量殺戮事件』の際、日本人で最初に抗議の声を上げたのは、他ならぬ宮○監督だからな? おそらく中つ国が日本を占領するような事態になれば、ジ○リ作品は永久に排除されてしまうだろうよ」


『……ぐっ、確かに、この世界の中つ国が、「党の方針に反逆すれば、自国民でも戦車で轢き殺しちゃうぞ★事件」に対して、批判的な人物を、ただで済ませるはずは無いよな』




「それが、コミーの正体だ。いかにも『理想の社会』とか『この世の天国』とか『万民平等』とか、歯の浮くような綺麗事ばかり並べ立てて、自分のことを『お利口さん』だと勘違いしている、我が国の浅はかな知識層をたらし込んでいるけど、いったんコミーどもが権力を握れば、この国にもはや『自由』など無い。すべては『党』が決定して、『党』の方針に反する者は容赦なく排除されて、すべての人民はただひたすら『党』の奴隷として、生きていく他は無くなるんだ!」




『く、くそう、異世界から持ち込まれた「コミー思想」とは、まさしく「なろう系Web小説」そのものであり、本当はどう考えても誰も幸せになれない、「狂った思想」のはずなんだが、「なんか革命って、カッコいいし、反政府運動する俺って、イケてるじゃん?」と思い込ませるように扇動するという、まさしく「虐げられてきた、社会的落伍者」たちのための自慰行為の「オカズ」そのままに、資本階級闘争から「追放」された負け犬どもに、現体制側の政府や金持ちに対する「ざまぁ」を目標に、あくまでもコミー的「NAISEI」の担い手や、人民革命軍のための「軍師」として「成り上がらせて」、この世界において革命を達成させて、日本を完全にコミー化させようとしたと言うのに!』




「……だから、いくらこの世界の『中つ国』ごときが、経済的発展をことさら強調しようが、おまえらの正体は、すでに完全に暴かれているんだってば。──一体どこの誰が、コミーの狂った思想によって歪曲されたゲームそのままに、『自由』という言葉を未来永劫使うことのできない世界なんかを、欲すると言うんだよ?」




『……むぐぐぐぐ、ガキのくせに小賢しくも、そこまでちゃんと把握しておるとは。──だが、もう遅い! この世界の人間どもの、奴隷化……否、「コミー分子」化は、とっくに済んでおるわ!』


「コミー分子化、だと?」


『驚くがいい、これぞ「この世界の真実」だ!』


 そんなどこかの『超傑作魔法少女アニメ』のようなことを言い放つや、先程から手にしていた、己自身の部下たちの『魂』そのものとも言える、集合的無意識とのインターフェースである『魔女の魂ヘクセンジーレ』を、口元へと引き寄せる。




『──集合的無意識に緊急要請、対象全員のアクセス経路を、全面カットされたし!』




 ………………………はあ?


 集合的無意識とのアクセスを、全面カットだと?


 ──ば、馬鹿な⁉


 そんなことをしてしまえば、オーク隊長の部下である、異世界工作員や県外プロ市民の全員において、ありとあらゆる情報の供給が遮断されてしまって、『コミー』とか『異世界人』とか『生体兵器』とか言う以前に、生物としての形態と精神そのものが、維持できなくなってしまうぞ⁉




『『『──うぎゃああああああああああっっっ!!!』』』




 案の定、すぐさま己の肉体を物理的に維持できなくなって、その場に崩れ落ちてしまう、オーク隊長のしもべたち。


「──なっ⁉」


 思わず、我が目を疑った。


 それも、無理は無かろう。




 何せ工作員やプロ市民たちが、これまでの異世界人としての各種変化メタモルフォーゼ形態である、『イナゴ』や『オーク』や『大陸風タイリク・フーウイルス』なぞ、まったく比較にならぬほど、かつてなく禍々しい姿になり果てたのだから。




 いきなり真っ赤に染め上がるとともに、まるで多数の肉団子が寄り集まったかのように、でこぼこに膨れ上がっていく肉体。


 そしてその肉塊一つ一つに生じていく、無数のいかにも無機質な青の瞳。




 その文字通りに『名状しがたき』奇怪な有り様は、それこそ『クトゥルフ神話』あたりに登場しそうに思われた。




「……まさか、これって」


『そうさ、「ショゴス」だよ。かの「クトゥルフ神話」にて高名なる不定形暗黒生物にして、すべての生き物にとっての「原初デフォルトの姿」だ』




 ──これが、こんなものが、僕たちの、『本当デフォルトの姿』、だって?




 そのように完全に呆気にとられる僕をによそに、更に予想外の奇行に走る、異世界からの先遣部隊の隊長殿。




『……さて、それでは、「仕上げ」と参りますか』




 そう言って、耳まで裂けた口を、大きく開け広げて、




 ──何と、部下たちの『魔女の魂ヘクセンジーレ』を一気に呑み込むや、そのままボリボリと喰らい始めたのである。

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