第456話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その14)

『……いや、琉球国王の正式な後継者の方は、ちゃんと他におられるだろうが?』




「──異世界のオークが、いきなり誰よりも常識的なツッコミをしてきた、だと⁉」




 かつての大日本帝国海軍を代表する、人類史上最大級の戦艦『大和』の擬人化少女による、長々と続いた身の上話が終わるや否や、情け容赦無しのド正論ですべてをぶち壊しにする、異世界『中つ国』の沖縄侵攻先遣部隊の隊長のオークに対して、思わず苦言を呈する、那覇市在住のDS男子小学生である僕こと、イクであった。




「……提督、この御時世にそんなおっしゃりようは、どうかと思いますよ? いくら異世界のオークだって、ちゃんと『人権』というものがあるのですから、意見くらい言わせてあげてもいいのでは?」


「──この大詰めに来て、今更『差別反対!』的なことを言っても、手遅れじゃないのか⁉」


 しかも、よりによって、軍艦擬人化少女である君自身が、何で敵であるオークの人(?)権を守るようなことを言い出すの?


 僕のことを自分の『提督あるじ』と見なしているんだったら、むしろこっちのフォローをしてくれよな?




「……おや、提督、どうしました、そのようなご不満そうなお顔をなされて? ──ああ、大丈夫ですよ! 私たち軍艦擬人化少女には、当然『人権』なんかございませんので、提督の欲望の赴くままに好きなようになされても、何ら問題ありませんよ♡」




「──ちょっ、いきなり何を言い出しているの、君イ⁉ ……あ、オーク隊長さん、そんな蔑むような目で、僕のことを見ないでください⁉」


『……そうかやはり、日本人が「艦隊をコレクション」しているのは、それが目的だったのか。しかし、いくら何でも、見かけ10歳ほどにしか見えない、女の子を──』


「ぼ、僕も、10歳だから、セ────フ!!! じゃなくて! そんなことよりも、今オーク隊長が言ったことは、本当なのか? 今に至るまで王家の高貴なる血が流れているなんて、自分自身これっぽっちも知らなかった僕なんかよりも、名実共に後継者と認められているお方のほうを、『提督』として認定すべきじゃないのか?」


 そんな僕の至極当然なる主張に対して、事もあろうに自称『忠実なるしもべ』であるはずの軍艦擬人化少女のほうは、いかにもあきれ果てたかのように、大きくため息をついた。




「……提督、私の話を聞いておられました? これじゃ何か、二回にもわたって『一人語り』していた私が、馬鹿みたいではありませんか。私があなたを己の『提督』と定めたのは、あの日の『特攻出撃』の際に、力足らず沖縄にたどり着くことができず、沖縄の皆様を見殺しにしてしまったことを悔いているからなのですよ? ──つまり、私が罪悪感を感じているのは、1945年の6月22日の時点において沖縄におられた方限定なのであって、あるじと見なす『琉球王家』の方も、当然その場におられた方か、その直系のお血筋の方に限られるのです」




 ──ッ。


「そ、それって……」




「ええ、先ほど『私が「提督」と認めるのは、琉球王家の方のみ』と申した際に、何だかファンタジー小説あたりの『高貴なる血統ロイヤル・ブラッド主義』とでも思われたでしょうが、別にそう言うわけではなくて、私はあくまでも本来自分が救うべきだったのに救えなかった、『沖縄決戦において亡くなられた、当時実際に沖縄におられた方』に対する悔恨の念に囚われているのだからして、一応その代表者として『琉球王家のお血筋の方』を重視しておりますけど、当然のごとく当時沖縄におられなかった方は除外されてしまうのです」




 ……なるほど。


 いわゆる、『異世界系ファンタジー作品のお約束』的に、王家の血筋を求めているんじゃなくて、あくまでも彼女の前世である『戦艦大和』が助けることができなかった、沖縄の住人の代表者を、便あるじと見なしているってわけなのか。


 ……だから、それが何で、僕なんだよ?


 ──いや、待てよ。


 父親がアメリカ人である僕が、琉球王家の血を引いていると言うことは、それってつまりは母さんのほうの血筋ということじゃないか?


 実の息子の僕が言うのも何だけど、あの何かにつけて自虐的な現実逃避癖陰キャの、共依存系母親失格女が、世が世なら『お姫様』だったわけ⁉


 ──などと、僕が仮にも自分をお腹を痛めて産んでくださった、この世で一番感謝すべき女性に向かって、心の中で言いたい放題言っていた、まさにその時、




『……そうか、やはりおまえは「勇者ミハエル」として、我らが「中つ国」を蹂躙する運命にあるのだな? ──災いの芽を摘むためにも、何としても、殺しておかなければ!』




 そう言って、これまでのどこか真剣味の感じられなかった余裕の表情を完全に消し去り、異世界のモンスターにふさわしき『怒気』──否、『殺気』を膨れ上がらせる、オーク隊長。


 勇者とか提督とか言われても、実際上は単なる小学生男子でしかない身としては、盛大に戦慄しながらも、同時に根本的な疑問を覚えた。


「……『先んじて』? 『この段階』? それって一体、どういうことだ? まるでこの段階では、僕は異世界で勇者として『中つ国』とやらに、何ら害悪を及ぼしていないみたいじゃないか?」


 いやそもそも、異世界なんかに行った覚え自体が、無いんですけどね。




「……そうか、そういうことですか。いわゆる、『ターミ○ーター』方式ですね?」




 僕が何が何やらわからず盛大に首をひねっていたら、更に謎めく台詞を投下してくる、軍艦擬人化少女。


「な、何だよ、『ターミ○ーター』って?」


 ……あいつ、オーク『隊長』ではなく、オーク『知事』だったのか?


「ほら、あれですよ、未来の独裁国家だか機械帝国だかが、将来革命を成功させかねない、レジスタンスのリーダーを、ために、過去に刺客を送るってやつ」


 は?


「えっ、えっ、このオーク、てっきり異世界から来たものとばかり思っていたんだけど、実は未来から来たタイムトラベラーだったわけ?」


「うん? 元々異世界転生や転移においては、過去も未来もありませんよ? 何で世界そのものが違うのに、時間が同じように進んでいると思われたのですか? 『世界』や『時間』と言うものをちゃんと理解せずに作成されている、三流『なろう系』小説でもあるまいし」


 ……あー、作品上都合がいいからって、「異世界に何年いようが、現代日本に帰ってきたら、数日しか経っていないのだ!」とか、いい加減な『俺ルール』をでっち上げていたくせに、連載を続けているうちにどんどんつじつまが合わなくなって、泣きながら『ルール』を変更するってやつって、確かに多いよな! ──下手すると、『書籍化作家様』とかの作品にもw




「もしも世界が二つ以上あると仮定する場合においては、基本的にそれぞれの時間は、お互いにまったく無関係に流れていると考えるべきで、具体的に申しますと、同じ異世界に何度も転移するケースだったら、二度目の転移のほうが何と、一度目の転移よりも過去の時点であることも十分あり得て、その場合、主人公が異世界において成し遂げた数々の功績や名声も、すべて無かったものとされてしまうという、いわゆる『二周目』パターンや、前回関わった異世界の人々の『親世代』との、『新たなる物語』が開始されるパターン等々を、展開することが可能となり、作品の幅が大いに広がることになって、まさしく『下手の考え休むに似たり』に過ぎない『俺ルール』なんかよりも、よほど柔軟性が高くメリットが大きいかと思われます」




 ……うん、確かに、『激しく同意ハゲドウ』なんだけど、


 もうちょっと、オブラートに包んだ言い方をしても、いいんじゃないかな?


 それにそもそも、異世界人のオーク隊長はもちろん、今からおよそ70年前に轟沈して意識を絶って以来、ほんの数年前に復活したばかりであろうと思われる、軍艦擬人化少女である君が、前世紀末の超話題作である『ターミ○ーター』について、どうしてそんなに詳しいんだよ?


 ──などと、少々メタじみたことを考えていたら、くだんのオーク隊長殿がご親切にも、




 驚愕の解答を、もたらしてくれた。




『おっと、悪いが私は未来では無く、どちらかと言えば「過去の時点」から、転生してきているのだよ』




 ………………………は?

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