第454話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その12)

「かつて大日本帝国海軍に所属していた軍艦を基にして、擬人化して創られた存在である私たちは、当然第一義的に、日本国全体そのもののために尽くすことこそを、本分としております」




「もちろんそれは、帝国海軍の象徴とも言える、戦艦『大和』の擬人化少女である、私自身も同様でございます」




「──ただし、私にとっては、沖縄もまた、格別に大切なる存在なのです」




「それと言うのも、かの大戦末期の絶望的状況の中で始まった、太平洋戦争においては唯一とも言える、日本国内での本格的な地上戦である『沖縄決戦』が、大方の予想通りに日本軍のほうが一方的に劣勢を極めて、一般市民に至るまで甚大なる被害を被ってしまい、私たち帝国海軍も、それまで存在自体を完全に秘匿されていた『切り札中の切り札』である大和わたしを始めとして、矢矧、浜風、初霜、雪風等々と、稼働可能な軍艦をかき集めて、沖縄へと向けて文字通りの『特攻出撃』を敢行したのです」




「……しかし残念ながら、帝国海軍の文字通りの『秘蔵っ子』たる、『大艦巨砲』の代名詞にして、名実共に『最後の大戦艦』である私は、当然のごとく敵軍にマークされていて、沖縄手前の坊ノ岬において、米軍航空部隊の集中攻撃を浴びて、道半ばにして轟沈してしまいました」




「──これは結果的に、沖縄の人々を見殺しにしたことになってしまったのです」




「なぜならアメリカ軍は何と、膨大なる物量による総攻撃において、沖縄側の軍人と一般市民とを分け隔てすることなく、『無差別殺戮』に打って出たのですから」




「……それはもう、むごたらしい、有り様でした」




「最初は楽勝気分だったくせに、油断大敵にも、日本軍の劣勢でありながらも巧妙なるゲリラ戦法に完全惑わされて、挙げ句の果てには現場における最高指揮官を狙撃されるという、大失態の有り様」




「海上においても、帝国海軍航空隊の残存部隊による、文字通り捨て身の『カミカゼアタック』の大規模集中攻撃により、米軍機動部隊の大小様々な艦艇が少なからぬ損害を被り、進退窮まったミニッツ提督に至っては、『敵を舐めた陸軍が悪い! 早く陸戦にケリをつけないと、海軍は即時撤退するぞ!』と、味方に向かって脅しをかける始末」




「海軍に見放されてしまえば当然のごとく、兵士や弾薬や食料その他の物資の補給がままならなくなり、文字通りの死活問題であると同時に、陸軍自体の誇りの問題でもあるので、それまでとは一転して、アメリカ陸軍及び海兵隊においても、死に物狂いとなりました」




「──そうなるともはや、敵の正規軍人と一般市民とを区別する余裕なぞ、完全に無くなってしまったのです」




「……もちろん、劣勢極まる日本軍が、最後の手段として『ゲリラ戦法』を採っていたことも、絶対的な『数の差』を補うために、沖縄在住の民間人をも徴兵していたことも、原因の一つだったと申せましょう」




「しかし、たとえそうであったとしても、米軍による『無差別殺戮』は、正当化なぞ絶対不可能な、残虐極まるものだったのです」




「難を逃れて洞窟に閉じこもっていた、一般市民や負傷兵たちや、何と何とまでをも、問答無用に火炎放射器で丸焼きバーベキューにしたのを始めとして」




「たとえ一般市民が投降の意思を示そうが、『スパイ』だと決めつけて、その場で殺害しましたし」




「挙げ句の果てには、現在数々の文献や証拠写真が示しているように、事もあろうにアメリカ兵たちは、日本兵や市民のご遺体を熱湯で溶かして、その頭蓋骨を『コレクション』として本国に持ち帰り、家族を始め周囲の者たちに自慢したと言われています」




「果たしてこれが、人間が人間に対する、所業でありましょうか?」




「いいえ、違います」




「──彼らは、日本人のことを、『自分たちと同じ人間』とは、思っていなかったのです」




「……それで今頃になって、沖縄において、『黒人擁護デモ』を強行しようとするなんて、片腹痛いですよね」




「ちなみに、当時の自他共に認める、『人種差別大国』であったアメリカ軍においては、最前線に送られるのは決まって、黒人兵を始めとする有色人種たちでした」




「つまり、第二次世界大戦において、沖縄の日本兵や一般市民を虐殺したのは、主に黒人だったのですよ」




「ふふふ、それなのに滑稽なことにも、沖縄において21世紀にもなって、『黒人差別を許すなー!』とか、ほざくだなんて……………………………あのデモを扇動した、どこぞのイデオロギー勢力から派遣された工作員やプロ市民は、沖縄の皆様に56されたって、文句は言えませんよね♫」




「──そしてこのことは、戦後において、平和憲法が施行されて、沖縄が日本に返還されてからも、同様だったのです」




「『日米安保条約』に基づいて、日本国内にそのまま残された米軍基地は、当然のように米軍最大の占領地である、沖縄に集中することになりました」




「これによって、沖縄の皆様の苦難は、21世紀の現在に至るまで、続いていったのです」




「それと言うのも、日本本土の他の地域とは比べ物にならない頻度で、黒人兵を中心とする米軍の皆様が、数々の凶悪なる事件を起こしていってくれたのですもの」




「──なぜなら、黒人をも含むアメリカ人は、黄色人種の日本人など、同じ人間とは見なしていないのですから」

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