第452話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その10)

『──うは、うはは、うわはははははははははは!』




 唐突に現れた謎の少女が、衝撃的な事実を明かしたために、驚愕のあまり言葉を失ってしまった僕を尻目に、広大なる夜の浜辺にて響き渡る、非常に耳障りな笑い声。


 それは僕の担任教師にして『沖縄米軍基地闘争』のプロ市民に身をやつしていた、異世界のオーク軍の派兵部隊の隊長格の黄金オークの、耳まで裂けた醜き口から発せられていた。




『我ら異世界オーク軍の先遣隊による「沖縄奪取作戦」を、何かと邪魔立てしようとする目障りな鼠がちょろちょろしているかと思ったら、旧日本軍の軍艦擬人化少女だったのかよ? 敗戦国の、しかもかつてあっけなく撃沈された、時代遅れの負け犬擬人化娘が、一体何ができると言うのだ? がははははははは!』




 さすがは、剣と魔法の異世界人と言ったところか。


 僕なんかは、軍艦擬人化少女──しかも名実共に最強の『大和型』のご登場に、心底びっくり仰天したのだが、微塵も動ずるところが無いようだ。


 ……まあ確かに、下手すると不老不死レベルの強大なるモンスターが跋扈し、人間や魔族やオーク等も、普通に魔法を攻撃手段にしている、異世界陣営サイドからすれば、日本で大人気の軍艦擬人化少女だろうが、舐めてかかって当然であろう。


 ──それに対して、当の自称『大和』さんの、ご反応はと言うと、



「──ええ、『何でも』、できますけど?」




『「……はい?」』




 ──あ、いけね。


 驚きのあまり、ついうっかり、『中つ国』のオーク野郎なんかと、声がハモってしまったではないか。


 まあ、それだけ彼女の今の発言は、想像の埒外であったのだ。


 その自信満々の断言口調には、さすがのオーク隊長殿も衝撃を受けたようで、半信半疑の表情のまま、おずおずと問い返してくる。


『……「何でも」、とは?』




「『何でも』とはもちろん、『すべて』とか『あらゆる』とか『できないことは何も無い』と言う意味であり、具体例として、私自身がことでご説明すると、大和わたしにとっての最下位レベルの兵装である、25ミリ単装機銃であっても、ドラゴンでもワイバーンでも屠り放題だし、一度魔王やその配下の魔族軍を魔王城もろとも、大和型の主砲ならではの遠方からの超長距離艦砲射撃によって、殲滅したことすらもございます」




『「……はい?」』




 ──あ、いけね。


 驚きのあまり、ついうっかり、『中つ国』のオーク野郎なんかと(ry


『う、嘘だ! ドラゴンや魔王が、たかが軍艦の主砲や機銃なぞといった「物理兵器」で、あっけなくやられたりするものか⁉』


「……まったく、ファンタジー関係者ときたら、そうやって頭っから、『物理』を馬鹿にしてるんだから。いいですか、単に物理と言っても、私たち軍艦は、一回の海戦で国家の命運を左右しかねない、文字通りの『決戦』を常に行っているんですよ? 相手がドラゴンだろうが魔王だろうが、一対一の『対決』などと言ったレベルでは無く、下手したら海岸近くの広大なる市街地をほんの短時間で更地にもし得る、艦砲射撃を無数に撃ち合う『大規模艦隊戦』を行っているのであり、たかが魔法ごときで防げるものですか。嘘だと思ったら今すぐ魔法障壁を張って、私の主砲である45口径460ミリ3連装砲を食らってご覧遊ばせ。一瞬で塵と化すか、辛うじて耐えきったところで、障壁ごと吹っ飛ばされるだけでしょうよ」




 ──想像してみた。


 一応、大和の主砲に耐え得る、魔法障壁を張れたとする。


 容赦なく撃ち込まれる、ものすっごい艦砲射撃。


 障壁自体は破れはしないが、どんどん遠方へと吹っ飛ばされ続けるばかりとなる自分。


 ……きっと文字通りに、『生きた心地がしない』であろう。


 僕だったら、砲撃開始一分もすれば、泣きながら許しを請うものと思われた。


『……うぬううううううう! ──だ、だったら、そちらからの砲撃を浴びる前に、こちらから特大の魔法攻撃をすればっ!!!』




「少しでも効けばいいですね♡ ──ちなみに、このように外見は幼い少女の姿をしておりますが、いつでも本性である軍艦としての、全長263メートルに満載排水量72809トンにものぼる『質量』となり、物理的か魔法的かを問わず、ほとんどの攻撃に耐えることができます。何せ先ほど同様に、いかにあなた方ファンタジー世界の住人であろうと、全異次元的に最大最強クラスの戦艦を相手に戦うことなんて、念頭に置いてはいないでしょうからね。──更には、我々軍艦擬人化少女は、それこそ戦艦レベルの強大な力を有しながら、外見上は非常に小柄な女の子に過ぎませんので、逃げの一手に特化すれば、攻撃を当てるどころか、まず捕捉すること自体が非常に困難でしょう」




 ……え、つまりは、ほとんど無敵な防御力を誇りつつ、自分のほうは攻撃し放題というわけ?


 何と、軍艦擬人化少女って、剣と魔法の異世界においても、無双できたのか⁉


 一体どこの、『なろう系』主人公なんだよ⁉




「……むしろ、せっかく軍艦に少女の形を与えておきながら、馬鹿の一つ覚えみたいに、集団で艦隊戦をやらせるほうがおかしいのですよ。──想像してみてください、例えば休日の多数の人々で賑わう銀座のど真ん中で、それまでまったく目立たず普通にそこら辺をぶらついていた幼い少女が、いきなり自分の周囲に大砲や機関砲を展開して、360度全方向に向かって砲撃を開始したら。ほんの短時間で銀座どころか中央区全体を、潰滅させることすら可能でしょう。すなわち、軍艦擬人化少女は『ゲリラ戦』でこそ、その真価を十分に発揮することができるのです」




 ──やめろよ、物騒な例を挙げるのは⁉


 どこかの『なろう系』作品の自衛隊や異世界侵略軍でもあるまいし、何で『銀座』限定なんだよ!


 せめて、第二次世界大戦中のロサンゼルスか、あっちの世界のほうの『中つ国』あたりにしておけよ!


 そのように、胸中で盛大にツッコミ続ける僕であったが。


 当の『中つ国』のオーク隊長殿のほうは、他に気になる点がお有りのようだった。




『……ということは、貴様ら軍艦擬人化少女にも、「上位の集合的無意識とのアクセス権」が、与えられているとでも、言うつもりか?』




「ええ、おっしゃる通りです」




 へ?


 何その、集合的無意識との、のアクセス権て?




 更に困惑を深める僕を尻目に、血相を変えてわめき立てる黄金オーク。




『つ、つまり貴様は、我々が洗脳を施した、この沖縄の一般市民たちを、正気に戻すことができるというわけなのか⁉』




 ──‼

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