第446話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その4)

「──一体どういうことなんだ! どうして沖縄駐留のアメリカ軍の黒人兵が、いきなり異世界転生系Web小説等でお馴染みの、二足歩行の巨体の猪豚のモンスターである、『オーク』なんかになってしまうんだよ⁉」




 何この、唐突なる『世界観のぶち壊し』展開は?


 ……さては作者のやつ、ここに来て『日和った』な?




 ──などと、少々メタなことを考え始めていた、僕こと沖縄在住の男子小学生の、イクであったが、


 引き続いてオークの口から飛び出した、更なる驚愕の台詞に、戦慄せざるを得なかったのだ。


「……え、おまえひょっとして、今までの沖縄における凶悪事件の数々を、本物の黒人の皆さんが行っていたと思っていたのか?」


「え? それって、どういう……」


「実は、こうして俺たちが黒人になりすましていたのは、別に昨日今日始まったばかりの話じゃ無いんだよ」


「──ッ。ま、まさか⁉」




「そうだ、黒人を始めとして、とても人を人とも思わないような残虐な犯罪を犯す外国人や、見かけ上は日本人そのままなのに頭が狂ったような『利敵工作』ばかり行う、政治家や知識人やマスコミ関係者や芸能人や創作家やスポーツ選手や市民活動家等々は、終戦直後からずっと、我々のような異世界人に身も心も乗っ取られていた、『アンチ日本人』ばかりだったのだ!」




 ……何、だと?


「最近SNSで胡散臭いことばっかり言っている、知識人や芸能人やスポーツ選手等については、何となく『日本人の皮を被った何者か』であることは、薄々勘づいていたけど、まさか見た目からして完全な『アンチ日本人』である、黒色系の外国人までが、その正体が人間ですら無い異世界の猪豚オークだったなんて⁉」


「……いや、普通に考えればわかるだろう? アメリカ合衆国はあくまでも、日本の同盟国なんだぞ? そこの軍隊に属する兵士が、日本人に危害を加えるわけが無いじゃないか」


「それに、現在のアメリカにおける大多数の見解では、『黒人とは清らかなる天使そのままな存在なのであって、彼らが犯罪を犯してしまうのは、あくまでも社会のほうが悪いのだ!』、と言うことらしいぞ?」


「もちろん、日本人が日本を貶めるような言動をするはずは無く、政治家やプロ市民やマスコミ関係者の類いは皆、最初から日本人では無く、文字通りの『異世界人』だったに決まっているだろうが?」


 ……そうか、そうだったのか。


 この日本国内で──特に沖縄で、様々な残忍なる事件を起こしていたのは、本物の黒人の皆様では無かったんだ!


 すべて、異世界人が、憑依していただけなんだ!


 そりゃそうだよな、これまで沖縄で行われてきた、ここで改めて語るもおぞましい非道極まる事件なんて、『異世界人』でも無い限り、血の通った人間にできるわけがあるもんか。


 もしそんなことをしでかしておいて、逮捕されたあとまず最初に、被害者に謝りもせずに、「これは人種差別による、不当な行為だ!」などとほざこうものなら、その文句は言えないだろうしな。


 ……すまん、黒人さん、本当にすまん。


 これまで沖縄で無数の極悪事件を起こしてきた黒人さんのことを、クソカス野郎と思っていたんだけど、本当は異世界人に乗っ取られていたんだね? そうとも知らずに、ボロクソに罵ってしまって、心からお詫び申し上げます。




「──いやいや、ちょっと待った! ということは、異世界人であるおまえらオーク野郎こそが、すべての元凶であるわけじゃないか⁉」




 波音一つしない、宵闇に包み込まれた広大なる浜辺にて響き渡る、僕の魂からの叫び声。


 ──こいつら、何を他人事みたいに言ってやがるんだ、クソ豚獣人が⁉


「それにそもそも戦後すぐから、異世界人が在日米軍や日本人を乗っ取っていたって、どういうことなんだ? そんな昔から、『異世界転生』なんかが行われていたのか?」


 日本で異世界転生や転移がブームになったのは、『今日から マのつく自○業!』や『十○国記』等が注目を集めた、2001年前後からだし、今みたいに『なろう系』がもてはやされるようになったのも、ここ数年くらいなものだしな。


「……はあ、この素人が」


「おまえまさか、異世界とこの世界の時間が、同時進行しているとでも思っているのか?」


「そんな浅い考え方では、まともなWeb小説を書くことはできないぞ?」


 ──む、ムカつくう〜。


 何で異世界人から、『なろう系』小説のことで、マウント取られなければならないんだよ?


「……だったら、日本と異世界とでは、時間の進み方が違うとでも言うのかよ?」


 異世界で一年以上過ごしていて、日本に帰ってきてみたら、一日しか経ってなかった──とかいったパターンの作品も、結構目にするよな。


「──うわっ、出た! 自分勝手な『俺様ルール』!」


「それって、どうにか作品のつじつまを合わせようと、適当な感じにでっち上げておいて、連載を続けているうちに、どんどんと齟齬が出てくるってパターンだよな」


「まさしく、『下手の考え休むに似たり』を、地で行ってますなあw」


「僕を非難するフリして、ほとんどすべての異世界系Web作家をディスるのはよせ! ──だったら、異世界とこの世界との時間の流れは、一体どういった関係にあるんだよ⁉」




「「「──決まっているではないか、異世界とこの世界との時間の流れは、それぞれ独立しており、まったく関連性は無いんだよ!」」」




 ………………は?


「複数の世界間で、時間の流れに関連性が無いって、どういうことなんだ?」


「最も簡単な具体例を挙げると、おまえが二回同じ異世界に転移する場合において、二回目のほうが一回目よりも、『過去の異世界』に転移することもあり得るというわけさ」


「つまり、日本人が自分の力で自由に異世界に転移する場合は、異世界のどの時点にでも転移できるし、異世界側が高度な召喚術を行使する場合は、極端に言えば、別々の時代から年齢の異なる同一人物の日本人を、複数同時に召喚することだってできるのさ」


「実はこれは量子論に則った、れっきとした論理的な話なんだが、このように異世界と日本の時間の流れにはまったく関連が無いと考えたほうが、どうせいつかは何らかのボロが出てしまう『独自の俺様ルール』なんかよりも、非常に考え方がシンプルで使い勝手が良く、ありとあらゆるタイプの『なろう系』作品において、存分に活用できるだろうが?」


 ──た、確かに。


 そもそも異世界なんて、本当にあるかどうかもわからない、現在のところは少々頭がさわやかな、『なろう系』Web小説家の妄想の賜物に過ぎないんだから、『時間の流れ方』を屁理屈こねて決めつけるよりも、『オールフリー』にしておくほうが無難だよな。


 つうか、そもそも異世界なんかが存在する『何でもアリ』の世界観なら、その時間の流れ方だって、『何でもアリ』の考え方を適用すべきだし、そこに厳格なルールを設けようとするほうがおかしいよね。


 そのように、僕が納得しきりに頷いていれば、


 あたかも引導を渡すかのようにして突きつけられる、弾劾の言葉。




「──何せすべては、『勇者ミハエル』である、おまえを仕留めるための下拵えなんだ。そりゃあ数十年もかけようというものさ」




 なっ⁉


「だから、何なんだよその、『勇者』とか『ミハエル』とか言うやつは⁉」


「ふん、都合の悪いことは、忘れたってわけか?」


「まあいい、どうせおまえをぶち殺すことには、変わりは無いからな」


「せいぜい地獄で閻魔様の前で、すべてを思い出して悔やむんだな」


 閻魔様って、おまえ異世界人じゃないのかよ⁉


 ──などと、心の中で突っ込んだところで、現在絶体絶命の大ピンチであることには、変わりはしなかった。


 完全に焦りまくる僕の様子を見ながら、余裕綽々の表情で、ゆっくりと迫り来るオークたち。


 まさに、その刹那であった。




「──集合的無意識とアクセス、25ミリ3連装機銃の、形態情報データをダウンロード!」




 突然聞こえてきた、涼やかなる少女の声。




「うぎゃあっ⁉」


「ぐおっ!」


「げへえっ!」




 次の瞬間、


 何と三匹のオークたちの巨体に、派手な爆音とともに多数の銃弾がぶち込まれて、ズタズタに引き裂かれたのであった。


 上半身を失い盛大に血しぶきを上げながら、そのまま砂浜へと崩れ落ちつつあった、モンスターたちの下半身であったが、


「──うわっ⁉」




 何と、一瞬にして細かな肉片に分解したかと思えば、無数のイナゴへと変化メタモルフォーゼしたのであった。




「……あれは、まさか、『大陸風タイリク・フーウイルス』⁉」


 そうそれは、現在世界中を汚染し尽くしている、いまだ発祥地不明の病原体が、巧妙に『擬態』したものであったのだ。


「うわっ、こっちに来る!」


 漆黒の馬鹿でかい昆虫たちの来襲に、僕が為す術も無く身をすくめるや、


「──うひぃっ⁉」


 なぜだかほんのすぐ手前で、そのすべてが青白い炎に包み込まれる、異形の蟲たち。


 あたかも地獄の劫火に焼かれるようにして、たちまちのうちに燃え尽くされてしまう。




「……状況、終了。これより帰投する」




 再び聞こえてくる、謎の少女の声。


「──誰、誰なんだ⁉」


 大声で呼ばわってみたものの、波音以外は応じる者はいなかった。




「……一体、何がどうなっているんだよ」




 次から次へと怒濤のように押し寄せてきた、思わぬ事態の展開に、まったくついていけず、かすれたつぶやき声をこぼしながら、周囲を見回してみたものの、すでに夜のとばりが降り立った浜辺には、人影一つ見当たらなかったのである。

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