第438話、わたくし、『ゼロの魔法少女』ですの。(その20)

「──『カニバリア王国』が、消滅したですって⁉」




 久方振りに顔を見せた、聖レーン転生教団直営の『魔法令嬢育成学園』初等部教師にして、その素顔は教団特務司教でもある我が悪友、ミサト=アカギが、出会い頭に開口一番ぶっ放した爆弾発言に、同学園の保健医にして、実は魔導大陸特設空軍次官(元帥)でもある、私ことエアハルト=ミルクは、思わず問い返さずにはおられなかった。




「そう、すでに機械帝国の『デモナ=マキーナ』に併呑されて、はや数ヶ月ってところよ」


「──しかもよりによって、機械帝国の仕業なの⁉」




 機械帝国、デモナ=マキーナ。


 大陸各地の騒乱の影には、必ず彼らの姿があるという、『死の商人』の国。




 剣と魔法のファンタジーワールドであるこの世界では珍しく、機械文明が高度に発達した国家である


 ……なぜ「らしい」などといったあやふやな言い方をしたかと言うと、実はデモナ=マキーナは、鎖国とまでは行かないものの基本的に他国とは没交渉で、最先端の機械化兵団を始めとして強大な軍事力を有しながらも、周辺諸国に対して紛争等を起こしたことが無いのはもちろん、いかなる政治的かつ経済的交流を行っていなかったのだ。


 ──ただし、『裏』に関しては、その限りでは無いが。




 そうなのである、これぞまさに彼らが『死の商人』と呼ばれるゆえんで、あくまでも自国の高品質な兵器を他国との『交戦権』のためには使用せずに、むしろ他国との『経済活動』において、最大限に活用していたのだ。




 つまり、すでに戦争中の交戦国に対しては、敵味方双方に兵器を売りつけるのはもちろんのこと、平和時においても、国家どころか各種武装勢力に対してまで、大量の武器をばらまいて、『兵器の需要が高まる状況』を自ら創出しているといった、あきれ果てるほどの『外道』ぶりなのであった。


 そのため、当然のごとく世界中から嫌悪されてはいるものの、それこそ戦争の趨勢を変え得るほどの高性能の兵器を開発し得る技術力については、否定しようが無く、下手に敵に回すことなぞはできず、まさしく『必要悪』として一定の距離を置きながらも、互いにビジネスライクに利用し合う関係を、個々の国家間で密かに築いていたのだ。




 ……そのような、あまり表立って他国に干渉することが滅多にない機械帝国が、他の国に対して正面切って戦争をふっかけて、しかも完全に併呑したと聞いて、首をひねらずにはいられなかったのである。




「──しかもあの、エルフ族の国をねえ。いかな機械帝国でも、人間よりも遙かに高度な知性や魔法力を有するエルフを相手にして、一筋縄でいくわけがないはずなんだけど」


「……まあ、機械帝国ならね。いくら最先端技術が使われていようが、物理的兵器のみじゃ、エルフ軍の魔導兵機には敵わなかったでしょう」


「何よ、そのいかにも含みのある言い方は? つまり、機械帝国だけでは無く、後ろバックに別の国がついていたとでも言うの?」




「そりゃあ、あんた、『高度な機械文明』と言えば、『現代日本からの転生者』のお家芸に、決まっているじゃないの?」




 ………………………。


 あー。


 そういや、そうだった。


 それこそ、『近代兵器の異世界への流出』なんて、『なろう系』のお約束のようなものじゃん。


「あ、でも、『カニバリア王国』って、あれでしょう? 魔導大陸極東半島部に所在する国ぐるみで、お隣さんの弓状列島を丸ごと舞台にして、自分たちで召喚した現代日本からの転生者に、あえて『なろう系』Web小説そのままの『お芝居』を本人無自覚でやらせて、先端技術だけを盗み取って、後はお払い箱にしているという。──つまり、すでに国家レベルで、すべての転生者をコントロールしているわけなんだから、例の『ブロッケンの魔法少女』連中がやっている『反乱ごっこ』程度レベルならともかく、大規模な武装蜂起を起こすことなんて、根本的に不可能なのでは?」




「ああ、日本からの転生者と言っても、現代日本人では無くて、『大日本帝国』の軍人さんたちなの」




 ………………………は?




「いやいやちょっと待って! 大日本帝国の軍人と言えば、あれでしょ? Web小説でお馴染みの自衛隊員とかじゃ無くて、第二次世界大戦において世界中を相手に戦った、日本軍のことじゃないの⁉」


「あら? 軍隊に、本物とか偽物とか、有るのかしら?」


「ここぞとばかりに、宮○作品の登場人物の決め台詞そのままなことを、ぶっ込んでくるなよ⁉ あと、本作の作者を含めて、『なろう』関係者には自衛隊のファンが多いんだから、自衛隊が軍隊として本物じゃ無いような言い方はするな!」


「おやおや、自衛隊は憲法上、軍隊では無かったんじゃございませんこと?」


「──うぐっ⁉ ……そ、それはともかくとして、どうして機械帝国とはいえ、れっきとした異世界の国家の裏に、大日本帝国なんかが存在しているのよ⁉」




「だから、機械帝国における兵器の開発が、ファンタジー異世界にあるまじき高度な技術性を誇っていたのは、大日本帝国からの転生者による指導の賜物だったのよ」




「……ええと、それって言うなれば、『世界の騒乱を影で操る、兵器大国。更にそれを裏から操っていたのは何と、かつての大日本帝国からの転生者だったのだ!』てな感じなわけなんでしょう? 普通そういうのって、壮大なる『本格ハイファンタジー物語』における、大どんでん返し的な『オチ』として使われるべきなのであって、こんなところで簡単に明かしてしまうレベルの話じゃないでしょうが⁉」




「……ああ、うん、主人公とヒロインが、苦労に苦労を重ねて、仲間たちと力を合わせて、ファンタジー的な強敵を倒して、大団円かと思ったら、真のラスボスが現れて、しかもそれが大日本帝国の戦闘機や戦車部隊だったら、むちゃくちゃ熱い展開だよね」


「だったら、どうして⁉」


「実はこれって、すでに使のネタなのよ」


「はあ?」




「作者の別作品で『本当は怖い異世界転生⁉【病院編】』と言う、すでに完結済みの奴の、『第8回ネット小説大賞』の一次予選通過を記念してのボーナストラックの、【ヴァルプルギスの魔女編】において、人類の敵である妖艶なる魔女たちが、実はその中身が大日本帝国軍人の生まれ変わりだったという、驚愕のオチになっているわけ」




「……え、魔女の中身が、大日本帝国軍人て、何ソレ?」


「ほんと、この作者って、何かにつけて、かっ飛んでるわよねえw」


「それで何で、その大日本帝国からの転生者が、エルフの国を滅ぼしたりするのよ⁉」




「ほら、エルフの支配下にあった、現代日本からの転生者たちが、徒党を組んで反旗を翻したでしょう? それに対して選民意識の強いエルフたちは相手にせずに放置していたんだけど、一部の不心得者たちがつい出来心的な『煽り行為』として、日本人の『全民族的な象徴シンボル』に対して、侮辱するようなデモンストレーションをやってしまったわけ。あなたもご存じの通り、愛国心の薄い現代日本のニート出身の転生者たちはほとんど反応を示さなかったんだけど、烈火のごとく怒り狂ったのが、大日本帝国からの転生者のほうで、本来『物語ストーリー』的にはまだまだ表に出てくるつもりはなかったんだけど、さすがに見過ごすことはできず、第二次世界大戦当時の物理的技術と、このファンタジー異世界特有の魔導技術とを掛け合わせて生み出した、『魔導零戦ゼロか☆マギカ』等を大挙出動させて、『カニバリア王国』を完全に焼け野原にしてしまったって次第なの」




「……うわあ、確かにエルフたちの人間に対する悪行のほどは、とても見過ごすことはできないとはいえ、一気に情け容赦なく滅亡させられるとは、あまりにも哀れよねえ」


「まあ、一応大日本帝国軍のほうも、無駄に目立つつもりは無かったらしくて、作戦行動は秘密裏に行われて、すべては機械帝国の仕業と言うことにして、自分たちは再び影に潜んでしまったものだから、結構な事情通であられる、あなたの耳にも届かなかったんじゃないの?」




「──ちょっと待って、ということは、今までエルフに支配コントロールされていた、弓状列島のほうの転生者たちは、一体どうなったのよ⁉」




「ええ、あなたもようくご存じの通り、これまで勇者や魔王だった者さえも含めて、全員が『魔法少女』を名乗り始めて、転生して以来自分たちを散々搾取し続けてきたこの世界そのものに対して、公然と『宣戦布告』を行った──というのが、現状であるわけなの」













「──というわけで、【魔王と勇者編】と【日本でこそこそエルフちゃん編】の両方共が、ちゃんと本編と繋がったということで、めでたしめでたし♡」




「……何か、むちゃくちゃ強引なように思えるんですけど? 実はエルフたちも『操り人形』に過ぎず、すべての黒幕は『聖レーン転生教団』のはずだよな?」

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