第422話、わたくし、『ゼロの魔法少女』ですの。(その15)

「……他の世界から転生してきた勇者ばかりを優遇するのは、為政者としてはもちろん、間違っているですって?」




 ちょっと、まずいんじゃないの、それって?




 ──文字通り、『なろう系』Web小説の、全否定じゃん⁉




 いくら現役の魔王陛下(しかもアダルトな美女)とは言え、あまりの暴言に完全にビビってしまう、勇者(一応美少女JC女子中学生)の私であった。


 しかしそんなことには少しも忖度せずに、ますますボルテージを上げていくばかりの、ラスボス殿であった。




「だって、そうだろう? 例えば地方貴族の末っ子に生まれ変わった日本人が、前世の知識による最先端の経営術や科学技術等を駆使して、父親の領地経営に少々役に立ったくらいで、十人近くもいた兄たちを押しのけて後継者に祭り上げられたり、国の中央の学舎に進学した際においても、前世のチート知識のみならず、転生者ならではのチート魔法スキルを駆使することによって、家柄の差を度外視して中心人物として祭り上げられたり、ハイクラスの王侯貴族の美少女たちからモテモテになったり、王国そのものからも、いまだ学生の身分であるというのに、政治や経済や軍事の面で助言を許されるほど重く用いられたり、しまいには国政を直接任されて政治や経済や軍事のすべての面で大活躍して、多大なる実績を上げて、もはや王様同然の扱いを受けるようになるという、まるで異世界のすべてが、主人公の非常識極まる大出世物語の、単なる舞台装置に成り果ててしまっているといった、体たらくではないか⁉」




 ……ああ、うん、まさにその通りなんだけど、具体的に例示するのはやめろや。今の長文だけで、いくつも『作品』が該当ヒットしてしまうからさ。


「いやでも、現代日本の進んだ知識やチートな魔法スキルを持っている転生者は、当然大抵の異世界人よりも優れているんだから、国家の利益を考えると、重用したり、場合によってはリーダーとして持ち上げたりするのは、道理に適っているんじゃないの?」


「全然適っていないな。そんなの、社会経験のまったく無い引きこもりWeb作家の、三流『なろう系』作品の中だけの、世迷い言に過ぎんわ」


 ──おまえ、いい加減にしろよ⁉


 たとえ本当のことであろうが、言っていいことと悪いことがあるんだぞ!


 せめて『言い方』くらい、少しはオブラートに包めよな⁉




「いいか? 実社会と言うものは、『個人の力』よりも、『集団の結束』によって成り立っているんだ。中でも最もわかりやすいのは、『軍隊』であろう。軍隊はいつなんどき戦争が起ころうとも、即時に対応できるように、すべての面で常に鍛え上げられていなければならない。そこで重要になるのは、個々の兵士の練度以上に、巨大ながらも一つの組織として、ちゃんとまとまっているかどうかなのだ。軍隊と言う多数の人員と膨大な物資からなる、一大組織を完璧に回して行くには、何よりも軍隊ならではの厳格なる上下関係と意思伝達経路が、シンプルかつ効率的に成立していなくてはならず、たとえ経験の浅い新兵であろうとも、上官の命令にさえ従っていれば戦力になるようにシステマナイズされていないと、話にならないのだ。そのような絶妙なバランスを保っている組織に、たとえ少々人並み外れた戦略センスや物理的戦闘能力や魔法スキルを持っているからと言って、よそ者を引き入れて、組織の意向をガン無視して自由気ままな行動をとらせたり、下手するとリーダーを任せたりするなんてことは、絶対にあり得ず、もしも現実に行えば、軍としての組織的行動がまったくできなくなってしまうであろう。これは政治でも経済でも同様で、どんな世界であろうとも、すべては『人脈』──いわゆる『コネ』によって動いているのであり、『異世界転生』のパターンとして、主人公を持ち上げるためとはいえ、人脈を度外視してしまえば、国家的各分野の権力者たちの利権を損ねてしまい、もはや国政や企業運営に協力してもらえなくなり、結果的に国家そのものは、政治的かつ経済的に大損失を被ってしまうことになるのだ」




 ──うわっ、えげつな!


 つまりすべては、『利権』こそが最優先で、『実力』は二の次ってことじゃないの⁉


「何か不服そうだが、それは貴様が世間知らずなだけで、現代日本か異世界かにかかわらず、現実世界はWeb小説では無いのだから、人と言うものは個人だろうが集団だろうが、『利益』がなければ動こうとはしないんだよ。──貴様もこの世界に転生する前に、例の『ウィルス騒動』で痛感したのではないか? あんな世界規模な危機的状況にあっても、保健を司る国際機関に始まり、それぞれの国政も、その癒着団体も、単なる庶民も、自分の『利権』ばかりを重要視していたではないか?」


 ──うっ。


 た、確かに。


 信じられないことにも、国際機関のトップからして、露骨に『利権絡み』だったし、我が国においても、政治家や企業はもちろん、庶民に至るまで、「¥¥¥給付金¥¥¥くれくれ¥¥¥」と叫ぶばかりで、何よりもまずは、自分の利益こそを、優先していたよな。




 ……まあ、人間と言うものは、いかなる場合も『食べていかなければならない』のだから、『利権第一』になるのは、致し方ないんだけどね。




「ようやくわかってきたようだな、すなわちそれこそWeb小説みたいに、何でもかんでも転生者を優先させたんじゃ、社会や国家──ひいては世界そのものが、立ち行かなくなってしまうのだよ」




「……うん、確かにおかしいよね? これって現代日本に置き換えれば、日本人ではあり得ない正体不明の人間が突然現れて、ちょっと人よりも奇抜な才能を見せびらかしただけで、国民全員が自分の利権を放り出して、たとえば『ウィルス騒動』の解決を、すべてそいつに委ねるようなものだから、もしもそいつがただのペテン師の類いだったら、完全に『愚かな民族による集団自殺』以外の何物でも無いよね」




「それを極当たり前のように異世界人にやらせているのが、『あちらの世界』のWeb小説であり、ほんのちょっと前までの、この世界の実態だったのだよ」


 ……うん? 何ですって。


「Web小説に関しては、いい加減うんざりしているので、ここでは不問にしておくけど、何か今の言い方だと、もはやこの世界においては、転生勇者のことを、盲目的に支持していないように聞こえたけど、そんなこと無いじゃん? ちゃんと私たち勇者パーティは、王国の全面的なバックアップのもとで、あなたを退治しに出向いてきたんだし」


「だから、それ自体が、『フェイク』なんだよ」


「フェイクって、王国のバックアップが?」




「違うよ、バックアップどころか、王国そのものが、フェイクなんだよ」




 ──っ。


「な、何よ、王国そのものがフェイク──すなわち、『偽物』と言うのは⁉」




「言葉通りさ、貴様たちを勇者パーティとして送り出した王国そのものが、すべて暗黒不定形生物『ショゴス』によって創られた、『勇者による魔王退治』というイベントを開催するための、『舞台装置』に過ぎないのだよ」

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