第423話、わたくし、『ゼロの魔法少女』ですの。(その16)
「──現代日本からの『転生者』どもときたら、図に乗りおって!」
大円卓の最も上座の席で、最高位の女神が怒声を上げるや、たちまち賛同の声が、次々と聞こえてくる。
「まったくですよ!」
「ちょっと強力なチートを与えた途端、気が大きくなって」
「元々は、単なるヒキニートの社会不適合者のくせに」
「あくまでも我々女神のお膳立ての元で、勇者として活躍し、魔王なんかを討伐できたというのに」
「使命を果たして、異世界の住人たちから英雄として祭り上げられた途端、調子に乗りおって」
「しまいには私たち女神の言うことも聞かなくなって、そのまま異世界に居座って、『ハーレム』だの『NAISEI』だの『スローライフ』だのと、やりたい放題」
「……ううむ、今になって思い返せば、確かにその世界のネイティブの人間には解決できない問題が多々あったとはいえ、別の世界の人間の手を借りたのは間違いであったか」
「とはいえ、元々その世界にいた人間に、突然チート能力を与えたりしたら、周囲にどのような悪影響を及ぼすか、わかったものではありませんからね」
「そこであえて、別の世界の人間にチート能力を与えて、問題が解決するとともに、元の世界にお帰りいただこうと思っていたところ、まさか居着いてしまうとは」
「ほとんどの異世界なんて、現代日本に比べて文化的に遅れているから、封建的だったり治安が悪かったり、何よりも衣食住の生活環境が不便だったりして、かなり暮らしにくいはずなんですけどねえ」
「いやいや、さっきもどなたかおっしゃっていたように、転生者なんて元の世界では、ほとんど社会不適合者なんですよ? 誰があえて帰りたいと思いますか」
「そうですよ、少々不便でもそのまま異世界にいて、英雄扱いされて、ハレームでモテモテになったり、NAISEIでちやほやされたり、スローライフでのんびりしたりしたいに、決まっているでしょうよ」
「しかも、今もなお、続々と現代日本から多くの異世界へと、異世界転生が行われているといった有り様ですしね」
「ということは、『転生者』たちはこれからもますますと増え続けるばかりで、けして減ることは無いってことですか?」
「何せたとえ問題が無事解決した後で、うまく『転生者』の厄介払いができたとしても、また何らかの理由で、『転生者』が必要にならぬとも限らないからな」
「──くっ、これではまさに、八方塞がりではないか?」
「我らはこれからも、勇者などの『転生者』の横暴に、耐え抜かねばならぬのか」
「これも、自分の世界の問題の解決に、よその世界の人間の力を借りようなぞとしたことへの、報いなのか……」
その、最上位の女神の言葉を最後に、しんと静まり返る、『大円卓の間』。
いずれの女神の顔も、隠しようもない悔恨の表情に歪んでいた。
──否。
ただ一人だけ、現在における絶望的状況をいくら語り聞かされようが、眉一つ動かさず、完全に沈黙を守っていた、最も下座の席の女神が、文字通り満を持したようにして、その真珠のごとき小ぶりの唇を開いた。
「──だったら、すべての『転生者』を、私の世界のほうで引き取りましょうか?」
その瞬間、すべての女神の視線が、りんと鳴り響いた涼やかな声音のほうへと集中する。
そこには、この全異世界選りすぐりの女神たちの集まりにあってもなお、尋常ならざる美貌の持ち主が微笑みをたたえて座していた。
簡素な薄着のみをまとったほっそりと均整の取れた柔肌の肢体に、滝のように腰元まで流れ落ちている銀白色の髪の毛と、端整なる小顔の中で神秘的に輝いている
そして顔の両側で、真横に伸びている、細長く尖った両の耳。
「……
他の女神を代表して恐る恐る問いかけたのは、上座の最上級の女神であった。
「ええ、私の世界でしたらむしろ喜んで、皆様の世界においてすでに役目を果たしておられる、『転生者』の方たちを受け容れることができますからね」
「そ、それは、助かるが、しかし、あなたの世界においては、
「──だからこそ、都合がいいのです」
言葉途中でぴしゃりと言い切られ、面食らい口をつぐむ、最上級の女神。
「確かに私の世界では、エルフこそが支配種族ですが、人間の皆さんだって、エルフたちにとっては無くてはならない貴重な方たち。たとえ異世界の方とはいえ、粗略に扱ったりしますものですか」
「そ、そうであるか。うん、余計な心配をしてしまい、すまなかった」
間違いなく女神としては遙かに格上であるはずなのに、それはまるでお追従でもしているかのような物腰であった。
──あたかも、女神とか超常的存在であることよりも以前に、生物としての、『絶対的強者』を、目の前にしているかのように。
それでも、これまで最も頭を悩ませていた問題が、思いの外あっさりと解決してしまったことに、さっきまで緊張と焦燥とに包み込まれていた会議の場が、ホッと安堵の雰囲気に包み込まれたのは、当然の仕儀であろう。
そんな自分以外の女神たちの歓喜の表情を見て取るや、満足げに頷き、己自身も輝くような笑みを浮かべながら、その絶世の美神は、心底嬉しそうに宣った。
「……ああ、ほんに、世界の司たる女神として、腕が鳴りますわね。──さあ、お集まりの皆様方、楽しい楽しい、『異世界転生物語』の始まりですわ♡」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……何これ」
突然これまでの流れをぶった切って始まった、大勢の女神たちによるわけのわからぬ『会話劇』に、至極当然のようにして困惑の声を上げる、私こと現役
しかしそれに対して、もはや当然のことのようにして、こちらの反応などつゆほども勘案すること無く、しれっと言ってのける、アダルティな美女の魔王様。
「何って、作者が『カクヨム』様オンリーで公開中の、『エルフの女神様』という作品の冒頭部分を、魔法のホログラム映像で見てもらっただけなのだが?」
「──そんなメタ的なことを、聞いているんじゃないよ! どうしていきなりそのようなものを見せたのか、理由のほうを聞いているんだよ⁉」
「それはもちろん、『転生勇者に対する異世界の復讐』について、まずはこうして具体例を挙げて、わかりやすく説明するために決まっているではないか?」
「……何ですって? 私たち勇者に対する、異世界の復讐って……」
「今の映像でご覧に入れた通りだよ。散々異世界において、『NAISEI』だの『ハーレム』だの『成り上がり』だの『ざまぁ』だの『スローライフ』だのと、好き勝手してきた転生者に対する、『とっておきの人形劇』による、『本当は怖い異世界転生物語』の、始まり始まりってことさ」
「『本当は怖い異世界転生物語』とか、また作者の別作品かよ⁉………って、何ですって、『人形劇』?」
「ついさっき、現在この世界で行われている『勇者による魔王退治』は、登場人物全員を不定形暗黒生物『ショゴス』で形成している、『
「つまりこのエルフの女神様も、ショゴスか何かは知らないけれど、登場人物全員に対して、『つくりもの』の身体を使って、『勇者による魔王退治物語』をやろうとしているわけなの?」
「いや、エルフの女神様が治めている世界なのだから、メインの住人は当然エルフなんだが、普通に人間も大勢いるので、そいつらに日本人の精神だけをインストールすることによって、『勇者による魔王退治物語』をやらせるつもりなのだ」
「……『
この場合『人形劇』と言うのは、「……くくく、人間どもの営みなど、女神である
そのように、のんき極まる予想を立てていた、私であったが、
──真相は、想像だにできないほど、おぞましいものであった。
「実は、エルフの世界においては、人間なぞ『食用の畜産動物』に過ぎず、本来は知性の無い文字通りの畜生でしかないのだが、そんな彼らに集合的無意識を介して、現代日本人の『記憶や知識』を仮初めに与えることによって、『勇者サイド』と『魔王サイド』とに分けて、自分たちが最後にはエルフたちの食卓に
……何……です……って……。
「何てえげつない作品を考え出すのよ、この作者って⁉ あいつ絶対、イカれているわ!」
「何を今更、あいつがまともな神経をしていないのは、その創作物である、我々が一番よく知っているだろうが?」
「……ちょっと待って、あなたさっき、この映像の中のエルフの女神が行っていることは、現在私たちがやっている『勇者による魔王退治』と、同じようなものだって言ったわよね? それって、まさか──」
あまりにも荒唐無稽な話を聞かされたので、完全に他人事としか思っていなかった。
しかしこの『最終対決』の場面において、魔王である彼女が勇者である私に、何の意味の無い話なぞ、するはずが無かったのだ。
「ああ、実はこの世界においても、食用の家畜の代わりにショゴスの肉体を使うことによって、我々のような日本からの転生者だけでは無く、一見生粋の異世界人のようにも思える『
──‼
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