第387話、わたくし、ソビエト空軍の偉大なるSS大佐ですの。(その15)
──もしも魔法少女になる代わりに、何でも願いを叶えてもらえるとしたら、あなたは何を望むかしら?
あの時、私が息を引き取る寸前に現れた、黒衣の少女は、そうささやきかけてきた。
──『なろうの女神』。
何でも、あらゆる世界における『異世界転生』を司っている、神様だと言うのだ。
わかりやすく言うと、最近流行りのWeb小説の冒頭あたりに登場してくる、なぜか決まって主人公に異世界へ転生することを(問答無用に)勧めてくる、いわゆる『女神様的キャラクター』の、集合体みたいなものだそうだ。
つまり彼女は、『なろうの女神』という名前の『個』としての存在では無く、言わば『女神』という概念の集合体のようなものに過ぎず、まさにこの時私が目にしている、年の頃十三、四歳ほどの小柄な肢体に漆黒のネオゴシックのワンピースドレスをまとった、
……いや、姿形なぞ、どうでもいい。問題は、彼女の話の『内容』のほうだ。
「ちょっと待ってくれ、どうして
そのように突っ込むと同時に、現在私が手にしているスマートフォンの画面の中で、笑顔のままで凍りついてしまう、『自称女神様』の女の子。
……つうか、そもそも私は、八十年以上の
私の猜疑心たっぷりのうろんな目つきに、さすがにいたたまれなくなったのか、慌てて言い訳を始める、黒ずくめの少女。
『い、いい質問ね、でもあなたは、何よりも大切なことを、忘れているんじゃなの?』
「……大切なこと、だと?」
『「魔法」なぞ存在し得ない、この「現実」世界において、
……あ。
そういえば、そうじゃないか⁉
『
「おいっ、しれっと人の心を、読むんじゃないよ⁉」
『これでも一応は、女神様だからね♫』
──くっ、いかにもひるんだように見せかけておいて、結局はこっちを手玉に取っていたわけかよ⁉
しかしこれで、彼女が本物の『神様』だか、『死神』だか知らないが、ちゃんとこちらの願いを叶えてくれる力を有していることについては、信憑性が跳ね上がったな。
「……つまりは、私はこれから異世界で転生することで、魔法を自由自在に使える女の子に生まれ変わって、その超常の力によって思うがままに、己の願望を叶えられるというわけなんだな?」
『ああ、そこはちょっと違うのよ。そんな異世界転生を行う際の付加価値として、チートスキルを与えられただけで、何でもかんでも思い通りなるなんて、三流「なろう系」展開は、ネット上で袋だたきになる未来しかあり得ないしね』
「あんた、今この瞬間に、ものすんごい数の敵を作ったぞ⁉ ──それはともかくとして、そうなると、望みを確実に実現するためには、それなりに修行なんかが必要になるというわけか?」
『う〜ん、と言うか、ステータス・アップかなあ?』
「ステータス・アップって……」
おいおい、Web小説に引き続いて、今度はゲームかよ? 安易なメタはやめろよ。
そのように、こちらが『女神様』のいい加減さに、ほとほとあきれ果てていると、
──不意討ち気味に、とんでもない言葉を、突きつけられてしまった。
『言うなれば、魔法なんていう小手先レベルでは無く、己自身が「魔」そのものとなり、世界そのものを変え得る、「負の魔導力」を使えるようにならなければならないのよ』
──‼
「何だその、『魔そのもの』とか、『負の魔導力』とか言う、物騒極まりないフレーズは⁉」
ひょっとして、『魔女っ子』から『っ子』が抜けてしまうとか、言い出すつもりじゃないだろうな⁉
一応現在は、1980年代と言うことになっているから、まだ極東の某国で某『鬱系魔法少女アニメ』は、放映されていないんだぞ?
『ああ、安心して、いくら何でも臆面もなく、「魔女になってしまう」とか言わないから』
うん、それを聞いて、安心したよ。まだ最低限の、常識は残っていたんだな。…………『誰』とは、言わないけど。
『ズバリ言うとね、魔法少女というものは、魔法をどんどんと使っているうちに、「消費量」に対して「供給量」が追いつかなくなって、身の内の魔導力のマイナス化現象を引き起こして、Web小説きっての
………………は?
「な、何だその、『悪役令嬢』ってのは?」
……『魔そのもの』の魔女に類するものだから、『悪役』というのはわかるけど、『令嬢』ってのはどういう意味だよ?
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