第373話、わたくし、ソビエト空軍の偉大なるSS大佐ですの。(その4)
『──こちら、ワルキューレ1、全機とも油断するな! そろそろ警戒空域に入るぞ!』
『『『「──らじゃ!」』』』
魔導大陸、北方某国上空。
例の、『戦後「某北の紅い国」で継続開発された、「ナ○スは嫌いなのです!」第三帝国発祥のジェット機の悪役令嬢──略して、
『……おかしいなあ、それならそろそろ、レーダーで捕捉してもええやろうに』
すぐさま至極ごもっともなご意見をつぶやかれるのは、
『確かにそうねえ。まさかステルス機能でも、使っているのかしら?』
『でも、あの年代の機体には、そのようなものは、装備されていなかったのでは?』
すぐさま同じく妥当なコメントを述べる、ワルキューレ4のメアちゃんに、ワルキューレ5のタチコちゃんであったが、ここで初めて
「油断してはなりませんわ。確かに機体自体は今となっては、『骨董品』の類いかも知れませんが、『後付け』でいくらでも機能は追加できるのですから」
『──アルテミスの言う通りだ、相手が元第三帝国きっての、辣腕ジェットエンジン技術者であることを忘れるな!』
『『『「──らじゃ!」』』』
最後にリーダーのワルキューレ1のヨウコちゃんが締めることによって、気を引き締め直して、警戒空域へと飛び込んでいく、
すると、すぐさま、
『──っ。な、何だ、これは』
パイロット用ヘルメットに内蔵されているスピーカーから響き渡る、ヨウコちゃんの驚愕の声。
レーダーを確認するまでも、無かった。
いつの間にか前方の空域が、まるでいきなり夜が来たかのように、真っ黒に塗りつぶされてしまっていたのだ。
「……一体何? 雨雲?」
『──高度一万メートルに、雨雲があるかい!』
『それにしっかりとレーダーにも、映っているじゃないの⁉』
『で、でも、ほんのついさっきまで、レーダーには一切反応は無かったというのに、急にどうして』
ヨウコちゃんに続いて、
『──くっ。まさか、「悪役令嬢結界」か⁉』
「えっ、こんな高高度空域に⁉」
『わからんでえ、何と言っても相手は、ジェット機を自由自在に操れるんや』
『だけど「
『
──おお、
『……確かに、あり得るな。とにかくアレには、いやな予感しかしない。全機急速反転して、離脱するぞ!』
『『『「──らじゃ!」』』』
ヨウコちゃんの号令一下、五機一斉にタイミングを合わせて、大きく真後ろへと旋回しようとしたところ、
『『『『「──なっ⁉」』』』』
何と、まるで我々が反転するのを待ち構えていたように、あたかも水面に墨汁を垂らすがごとく、青空にポツポツと黒い部分が生じたかと思えば、みるみるうちに視界いっぱいが漆黒に染め上げられたのだ。
『……何なんだ、一体?』
『──み、みんな、見てみい、前や後ろだけじゃないで⁉』
「本当ですわ、右も左も更に上空すらも、どんどんと黒い部分が広がって行っていますわ⁉」
『いけない、完全に取り囲まれてしまったじゃないの⁉』
『もう何が何やら、わけがわかりませんわ!』
……一番あり得るのは、原因不明の、急激な『日食』であろう。
しかし、全天を覆い尽くしている『暗闇』は、ちゃんとレーダーで捉えることが可能なのだ。
──つまり、『質量を持った何か』で、あるわけなのである。
『──全機、気をつけろ、後方上空から来るぞ⁉』
『うわっ』
「きゃっ」
『ええっ⁉』
『──ちょっと、これって⁉』
『『『『「……もしかして、
斜め上空から、ラムジェット機である我々のHe162改よりも、なおも高速で迫り来たかと思ったら、いったん下方に潜り込み再び上昇することによって勢いを削ぐという、『あちらの世界』の史上初の実用ジェット戦闘機である、Me262が得意とした『ローラーコースター戦法』をとることによって、こちらと完全に同じ速度となって横合いを飛行し続ける、多数のあまりにも見慣れた漆黒の鳥類の姿を見て、少女たちはいかにも思わずといった感じにつぶやいた。
『『『『「──いやいやいやいや、そんな馬鹿な⁉」』』』』
そして極当然の結果として、全員同時に突っ込んだ。
『烏? どうして、烏なのだ⁉』
『この烏、時速何千キロで、飛んでいるんや⁉』
「……音速を超えた、烏って」
『いやいや、そもそもこんな超上空を、鳥が飛んでいること自体がおかしいでしょう⁉』
『それでは、この全天を覆い尽くしている漆黒が、すべて烏だと言うことなのですの⁉』
もはや、ただ口々にわめき立てることしかできなくなる、
──それも、当然であろう。
いくら、悪役令嬢の超常の力が凝縮されて生み出されたものだから、少々常識外れの生態をしていてもおかしくはないからと言って、たった一人の悪役令嬢がこのように、大空そのものを埋め尽くすような、無数の烏を生み出すことなぞあり得ないのだ。
──と、なると、
「……これってやっぱり、
『『『『──は?』』』』
「……こんな、ほとんど世界そのものを改変するようなことを、たった一人の悪役令嬢だけで、なし得るとは思われないのですが?」
『むう、確かにな……』
『いやでも、これってあんまり結界のようには、思えんのやけどなあ?』
『何せ異常なのは、烏だけだしね』
『これが結界内なら、
──た、確かに!
ここがすでに悪役令嬢の
「……だとすると、どれだけ強大な
『──! みんな、気をつけろ! 魔導力が一気に「負のレベル」へと、反転したぞ!』
『何やて⁉』
『……いよいよ、これからが、本番だということね?』
『──あっ、皆さん、ご覧になって!』
最後に響き渡ったタチコちゃんの声に、改めて注意を喚起されれば、この期に及んでまたしても、劇的な変化が訪れようとしていた。
──そう、突然烏たちが、数十羽単位で密集して一塊になるや、みるみるうちに、異形の姿へと変貌していったのだ。
そして現れたのは、どことなく見覚えのある、無数のジェット機であった。
「……Ta183、またの名を『フッケバイン』──すなわち、ドイツの伝説において知られる、災厄をもたらす凶兆の
まさしくそれは、これまで悪役令嬢に操られていた機体同様に、戦後ソビエトのジェット機開発に大きく貢献した、ドイツ第三帝国生まれの秘密兵器であったのだ。
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