第301話、【連載300回記念】わたくし、悪令(アクレイ)ーン・クロスオーバーですの!(後編)
「……一体何なのよ、あれって?」
その時
それも、当然であろう。
倒しても倒してもエイ型
その自称『
『──こちら、ワルキューレ2! もう燃料が保たないでえ、撤収指示はまだかいな⁉』
『──ええー⁉ こちらワルキューレ4! もう少し様子を見ましょうよ⁉』
『──こちら、ワルキューレ5! ……そうは申しましても、もはや基地への片道分の、燃料しかございませんわよ?』
『──こちら、ワルキューレ1! ……ううむ、確かにそうだが、本部に的確な情報を報告するためにも、せめて「彼ら」の正体を掴む必要があるのだが』
そのように無線を飛ばし合う仲間たちの言葉を聞きながらも、あくまでも油断なく周囲を見回していれば、更に思わぬものを目にしてしまう、
「──みんな、下見て、下を!」
『『『『──なっ⁉』』』』
思わず、言葉を失ってしまう、ワルキューレ隊の五人。
何とその時、海面を割るようにして、小さな島ほどの大きさのある甲羅を背負った巨大な海亀が、ゆっくりと浮上してきたのだ。
しかも、それだけでは無かった。
大海亀の背中全体が浮き上がり、海面が沈静化するとともに、甲羅の部分が変化し始めて、瞬く間に航空母艦の滑走路そのものと成り果てたのだ。
そしてその上へと、何の躊躇も無く次々に着陸していき、人間の女性の姿へと
「……ねえ、あれって、
『そうやろな、みんなして、こっちを見上げているし』
『半分海蛇のようだった女の人なんか、いつの間にかちゃっかりと、自分の鱗を変化させた文字通りの鱗文様の振り袖なんか着て、盛んに手を振ってるしね』
『それに下手に後ろを見せたんじゃ、思わぬ追撃を受けるかも知れませんしね』
『……仕方ない、ワルキューレ隊全機、巨大亀の甲板──もとい、甲羅に着陸!』
『「──らじゃあ!!!!」』
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「……は? あなたたち全員、『別の
「ええ、ごめんなさいねえ、どうやらこの世界は、異常に『魔導力』が強いみたいで、私の鱗が知らない間にひとりでに、『
「「「「「──はああああああああああああ? 何だよ、それって⁉」」」」」
謎の大海亀の背中へと降り立つや否や、まず何はさておきこの騒ぎの事情を説明してもらおうと、ワルキューレ隊五人全員で一斉に食ってかかるようにして問い詰めれば、まさしくすべての元凶と
「おそらくは、これも『実験』の一つなのでしょう、文句があるのなら、そちら
「じ、実験って?」
「それに、
「何をわけのわからないことばかり、おっしゃってますの⁉」
「いい加減な妄言で、私たちを煙に巻くつもりか⁉」
当然のごとくいきり立つ、
なぜか一人だけさも忌々しげに、謎の集団のほうを睨みつけているのは、ワルキューレ4のメアちゃんであった。
「……ちょっと、悪いけど、もうそれ以上、不用意なことを言わないでくれる?」
「ああ、そちらの
「──っ。だから余計なことを、言うんじゃないと、言っているでしょうが⁉」
「おお、怖い怖い、いくら『すべての黒幕』である『セイレーン』とはいえ、ありとあらゆる世界を『夢ということ』にしてしまえる、『ナイトメア』様の御勘気触れてしまえば、指先一つで存在そのものを、完全に消滅させられるかも知れぬ。何卒ご容赦のほどを」
「くっ、あ、あんた、わざとやっているでしょう⁉」
……え、どういうこと?
いくらお互いに『
そのように、メアちゃん以外のワルキューレ隊の面々が大混乱に陥っていると、おそらくはこの集団の代表者的存在と思われる、かの黒一点の幼い少年が、おもむろに口を開いた。
「……とにかく、お聞きの通り、僕たちはあくまでもこの世界の存在ではないし、これ以上ご迷惑をおかけすることなく、即刻立ち去りますので、どうぞご勘弁のほどを。重ね重ね、このたびは大変申し訳ございませんでした」
そう言って
「──ちょ、ちょっと、待ってくれ!」
その背中に向かって、慌てふためいて制止の声をかけたのは、我らがリーダーのヨウコちゃんであった。
「……まだ、何か?」
「いや、『何か』も無いだろう? そもそも君らは、一体何者なんだ⁉ 特にそちらの女性方なんて、ドラゴンやケルベロスや九尾の狐に変身したり、突然羽を生やして空を飛んだり、はたまた
「おや、『魔法令嬢』であるあなたたちだったら、先刻ご承知かと思ったけど? ──隠すまでもないことだから明かすけど、彼女たちはあなたたちも良くご存じの、『悪役令嬢』だよ」
「「「「なっ⁉」」」」
とても同じ年頃の少年のものとは思えない、いかにも落ち着き払った口調での、あまりに衝撃的な言葉に、呆気にとられる
『悪役令嬢』──それは、『ワルキューレ隊』である
「悪役令嬢と聞いては、たとえ他の世界の存在とはいえ、このまま逃がすわけには行かぬ。──みんな、バトルコスチュームにモードチェンジとともに、アタックフォーメーションを展開!」
「「「らじゃあ!!!」」」
「……無駄よ」
まさにその時、あたかも水を差すかのように言葉を挟み込んだのは、すぐ目の前にいる悪役令嬢の一派──
「……メア、ちゃん?」
「ここは、私やミルクがテリトリィとしている、夢の世界じゃ無いんだし、魔法令嬢としての力を行使することはできないわ。──それに、『実験』はすでにすべて完了しているのだから、これ以上何をしても、無駄ななだけよ」
な、何を、
──メアちゃんってば、一体何を言っているの⁉
「さすがは、臨時とはいえ、『境界線の守護者』たる『ナイトメア』さん、ここぞの時には、頼りになりますこと」
そのようにいかにも皮肉げに言いはやすのは、あたかもWeb小説あたりの『悪役令嬢』キャラが、そのまま現実世界へと飛び出してきたような、
「何が、実験よ! 境界線の何たらよ! ナイトメアよ! わけのわからない与太話で、ごまかそうとしても無駄だわ! 『すべての悪役令嬢は、問答無用に無力化する』──これぞ
「……はあああ〜、一体何をおっしゃっているの? ご自分だってれっきとした、悪役令嬢であるくせに」
………………………………は?
「な、何よ、
「それでは、お聞きしますけど? 『正義の魔法令嬢』を気取るお嬢さん、『悪』とか『正義』とかって、一体どうやって区別することができるのかしら?」
「──‼」
悪と正義とが、どう違うかですって?
「そ、それは、もちろん、悪とは悪いことであり、正義とは正しいことであって、だからこそ正義の味方は、悪をすべて倒して、この世を完璧に、正しく創り直さなければならないのよ!」
「はっ! それってただ単に、悪と正義の『言葉の説明』をしているだけじゃないの? 悪と正義って、具体的にはどう違うわけ? ──と申しますか、そもそもあなたのおっしゃる『悪なるもの』をすべて倒すことによって、『完璧に正しい世界』なんてものを、本当に実現できるのでしょうかねえ?」
──うぐっ。
「あなたたちは、騙されているだけなのよ、現在実験を行っている、どこぞの世界的宗教団体とか、『
そう吐き捨てるように言い終えるや、他の人々とともに立ち去っていく、自他共に認める『悪役令嬢』。
しかしそれに対して、
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