第294話、わたくし、『綾波』としては『3人目』ですの。【前編】

「──こちらワルキューレ3、所属不明機アンノウンを、肉眼で確認! 旧ほん陸軍所属、百式司令部偵察機と思われる!」




『──こちら、ワルキューレ1、了解! そのまま接近及び威嚇射撃を許可する、領空から排除されたし!』


「──更なる侵入、あるいは反撃をされた場合の、処置は?」


『──その場合は、やむを得ん、撃墜を許可する!』


「──ワルキューレ3、了解!」




 すでにこちらの乗機He162搭載の20ミリ口径機関砲MG152/20の、射程内に捉えながら速度を落とし、『目標ターゲット』──百式司令部偵察機、通称『しんてい』の、斜め後ろ上方の位置をキープする。




「……う〜ん、いつ見てもとても日本軍機とは思えないほど、機能的かつ優美なボディデザインですこと♡」




 下手したらこれからすぐにでも、空戦を行う相手かも知れないというのに、眼下の『目標ターゲット』を見つめながら、わたくしこと、魔導大陸特設空軍ジェット機部隊『ワルキューレ』所属のJS女子小学生、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナは、うっとりとつぶやいた。


 第二次世界大戦における双発軍用機の最高傑作である、イギリス空軍の『モスキート』ともけして引けをとらない、余分な突起物のまったく無い流線型のボディに、空気抵抗を極限まで抑え込むようにデザインされたカウルとナセルからなる、双発エンジンを擁する主翼──といったふうに、高速性と航続性こそを最重要視した設計思想。


 そして極めつけは、当時最高レベルの性能を誇る、二段二速の過給器を備えた最新型空冷エンジン、『ハ102』により実現される、時速600キロメートル以上の最高速度と、高度一万メートル以上の高高度性能。


 基本的に非武装で偵察任務に特化された新司偵は、高高度かつ高速度にて作戦行動中であれば、まず敵機に捕捉されることは無く、敵陣奥深くに侵入しながらも、常に無事に悠々と帰還することが可能で、貴重な情報を陸軍司令部にもたらし続けたのだ。


「……とはいえ、それもたいへいよう戦線のほんの初期の頃の話。大戦半ばに投入された米英の高性能レシプロ機はもちろん、終戦間際に開発に成功した、このドイツ第三帝国が誇る最新鋭ジェット戦闘機であるHe162を前にしては、速度性能も高高度性能も、太刀打ちできないんだけどね」


 そう独り言つや、そろそろこの空域からお引き取りいただこうと、更に『目標ターゲット』に接近しようとするや、




 ──突然、新司偵のコクピットを覆うキャノピーの上に、小柄な人影が現れた。




「──っ。あ、あれは⁉」


 髪の毛も肌も全身真っ白ながらも、端整なる小顔の中の両の瞳だけが鮮血のごとく深紅に煌めいている、まだほんの年若い少女が、いかにも古風なセーラー服を華奢な肢体にまとい、何とこの高高度の薄い大気の中で、平然とたたずんでいたのだ。




 ──あたかも白旗であるかのように、右手に握られてはためいている、純白のハンカチーフ。




「……って、まさか見ての通りの、『昭和初期の女学生さん』というわけでも無かろうし、あれってもしかしなくても、新司偵の『妖精さん』か何かかな?」


 万が一、普通の人間だったとしても、ここは『見逃す』以外には選択肢は無かった。


 元々『スクランブル』任務中であるわたくしには、『目標ターゲット』が自機や自国の領土に対して攻撃行動をとらない限りは、こちらから攻撃することは無く、領空から追い払うのみなのである。


 特に相手が基本的に非武装の偵察機であり、しかも自ら戦意がないことを表明しているとなると、相手が立ち去っていくのをただ何もせず見逃す以外は無かったのだ。


 もちろん現代の戦争においては、ますます『情報戦』の重要性が増すばかりだが、我が魔導大陸は基本的に他国との武力による衝突を想定しておらず、陸海空の正規軍代わりの『特設部隊』三軍も『専守防衛』を旨としていて、これまでのように自爆機や大型爆撃機による侵攻等であれば、やむを得ず攻撃することもあるが、非武装の偵察機等の場合は、スクランブルをかけて追い払うのが常であった。


「……まあ、そもそも第一次世界大戦において、最初に航空機が戦場に投入された時も、武装は無く偵察任務専門に用いられて、空中で敵味方の飛行機が出会った際には、お互いにハンカチを振り合ったという逸話があるくらいだしね」


 何と驚いたことに、あの激戦の第二次世界大戦においても、偵察機同士においては(お互いに非武装ということもあるが)、作戦中に遭遇しても何らアクションを起こすことなく、そのままお互いを見逃したという例もあったそうだ。




「──こちらワルキューレ3、『目標ターゲット』の領空外離脱を確認、このまま帰投する」




 そのように、管制へと報告するや、基地へと向かって大きく回頭した。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




ちょい悪令嬢「……というわけで、無事に任務をこなしたことですし、ここで恒例の、『反省会』の名を借りた『座談会』を行いたいかと思います! 司会は毎度お馴染み、『ちょい悪令嬢』ことわたくしアルテミス=ツクヨミ=セレルーナと、聖レーン転生教団直営『魔法令嬢育成学園』保健医にして、魔導大陸特設空軍次官、エアハルト=ミルク先生です!」




ミルクの時間「──ちょっと、待ってちょうだい!」




ちょい悪令嬢「おおっと、いきなりどうしたんですか? 元帥殿」


ミルクの時間「プライベートの時は、軍の階級名で、呼ばないでくれる⁉」


ちょい悪令嬢「……失礼、『ミルクの時間』殿」


ミルクの時間「一体どうしちゃったのよ? ここ最近何かと言えば、『座談会』ばかりで、本編を全然進めていないじゃないの⁉」


ちょい悪令嬢「──ギクッ」


ミルクの時間「今回は冒頭で空戦シーンを行ったから、ようやく話を進めるかと思いきや、またしても座談会を差し込むなんて」


ちょい悪令嬢「い、いや、これにはちゃんと、理由があるんですよ!」


ミルクの時間「理由、ですってえ⁉」


ちょい悪令嬢「ほら、昨日例の、軍艦擬人化ゲームのアニメの第一回目が、地上波で放送されたでしょう?」


ミルクの時間「……ああ、『艦○れ』の、やつね」


ちょい悪令嬢「なんか、語弊のある言い方ですなあ⁉」


ミルクの時間「『PCR』とか、『猿MM』とか、言うよりはましでしょう?」


ちょい悪令嬢「『PCR』って、そこは穏便に、『リスペクト』くらいにしておきましょうよ⁉」


ミルクの時間「それで、『アズ○ン』がどうしたって?」


ちょい悪令嬢「結局、タイトル出したし!」


ミルクの時間「先に『艦○れ』と言っているんだから、今更でしょうが?」


ちょい悪令嬢「ああもう、いいですよ! あんまりしつこく言っていると、『対立煽り』みたいになってしまいますからね!」


ミルクの時間「一応本作の作者は、両方共に好意的ですものね」


ちょい悪令嬢「それでですねえ、『アズ○ン』のアニメを実際に視聴して、実は本作に絡んで、少々問題があることが判明したんですよ」


ミルクの時間「はあ? 何を


ちょい悪令嬢「……確かに、ゲームとしての『アズ○ン』との関連は、これまでもたびたび問題提起して参りましたが、アニメ版において、更にゆゆしき関連性があることに気づいたのです」


ミルクの時間「えっ、アニメ版にあって、原作ゲームに無いものって………あっ、もしかして、ユニコーンとさんの──」


ちょい悪令嬢「──わー! ストップ! ストップ! それは言っちゃ駄目! ネタバレ禁止です!」


ミルクの時間「あれはほんと、びっくりしたわよね」


ちょい悪令嬢「確かに、びっくり仰天でしたけどねっ!」


ミルクの時間「ユーち○んのほうは、まあ一応のところアリかとは思うけど、加賀さんのほうは──」


ちょい悪令嬢「だから、言っちゃ駄目だって!」


ミルクの時間「でも、アニメ版独自のトピックスって、あれくらいだと思うけど?」


ちょい悪令嬢「確かにまったく無関係では無いんですけど、これについては後回しにすることにして、もっと顕著な点があるのですよ」


ミルクの時間「えっ、何かあったっけ?」




ちょい悪令嬢「だから、加賀さんやあかさん──つまり、だいにっぽん帝国海軍が、主人公側にとっては、明確な敵だったことですよ!」




ミルクの時間「………………………………へ?」


ちょい悪令嬢「な、何ですか、そのいかにも『肩すかし』でも食らったかの表情は?」


ミルクの時間「いや、帝国海軍──いわゆる『じゅうオー』が敵陣営なのは、原作ゲーム版も同様だったでしょうが?」


ちょい悪令嬢「それがですねえ、確かに基本的に、国レベルとしての日本軍やドイツ軍は敵陣営扱いになっているものの、このゲームは軍事シミュレーションであると同時に、ヒロイン育成ゲームでもあるからして、基本的にどの『KANーS○N』(『艦これ』で言うところの『艦む○』みたいなもの)でも選択することができるわけなんですよ」


ミルクの時間「──ちょっ、まさか、それって」




ちょい悪令嬢「そうです、プレイヤーである『指揮官』は、自軍の『KANーS○N』として、本来敵陣営であるところの、重オーや鉄○(ドイツ陣営のこと)のキャラたちを使って、海戦を行うことができるのです」




ミルクの時間「……えー、何、それえ? だったら、場合によっては、味方陣営と敵陣営の両方に、加賀さんや赤城さんがいたりもするわけ?」


ちょい悪令嬢「もしかしたら、そこら辺は制限があるかも知れませんが、本来『アズール○ーン』と呼ばれる米英連合軍側であるはずの『指揮官』においても、『レッドア○シズ』と呼ばれる日独枢軸軍側のKANーS○Nが使用できることに相違は無く、これによってこそ、日本軍が明確に敵であることを避け得ているとも申せましょう」


ミルクの時間「つまりアニメ版では、あえてその辺のところを、明確にしたって言うわけなのね?」


ちょい悪令嬢「ええ、だから『問題』だと、言っているのですよ」


ミルクの時間「問題って──ああ、そうか!」




ちょい悪令嬢「そうです、今回の冒頭シーンにあったように、この【魔法令嬢編】においては、わたくしたち魔導大陸特設空軍『ワルキューレ隊』は、明確に旧日本軍の軍用機と敵対して、時には撃墜さえもしてきたのですよ」

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