第287話、【連載287回記念】わたくし、He280を駆って、Ju287を撃墜しますの。(前編)
魔導大陸東方海域上空、高度一万メートル。
先日惜しくも取り逃がしてしまった、所属不明のTu95が、今回は
──この日のためにあつらえられた、『He280改』なる新鋭機を駆って。
「……しかし、本当に大丈夫なのかしら、He162改でも敵わなかった相手に対して、その前期モデルに当たる、He280で応戦しようだなんて」
とにかくまずは、敵方の
『──大丈夫ですよ、「He280」と言っても
するとなぜか、一人乗りであるはずの機内より、
「……『フタバちゃん』、いたんだ?」
『当然です、私はこの機の、「妖精」的存在ですもの!』
「それで、『改ヴァージョン』というのは、一体何のことなのよ?」
『──ふふ〜ん、ご覧の通り、現在の私は、これまでのダサい時代遅れの双尾翼の直線翼機なんかじゃ無くて、最先端のV字型尾翼に、30度の後退角を有する主翼と、視界良好のバルブキャノピー及び、とどめには胴体と一体型のエンジンナセルといった、何よりも高速性こそを追求した、空力的に優れたボディデザインへと進化したのですよ!』
いかにも、自信満々の声音。
とてもあのおどおどとしていた、ほんのつい先ほどの初対面時の『自虐娘』とは、あたかも別人のようであった。
……これもまた、『改ヴァージョン』になった、効果の一つであろうか?
──ていうか、後退翼化とかバブルキャノピー化とかって、もはや『別の機体』だろうが、それって⁉
『……うふふ、もう私は、「いらない子」なんかではないのです。この戦闘によって、私の「真の価値」というものを、世界中に知らしめてやるのです……ッ』
しかも何か、つぶやき始めたよ、この子………………………………怖っ。
『……ただの「改」でも、この有り様なのだから、「改二」に至れば、もっともっとすごくなれるはずなのです!』
──おいっ、何が『改二』だ? おまえは戦闘機ではなくて、どこぞの軍艦の擬人化キャラの仲間だったのかよ⁉
そのように、姿も見せずに言いたい放題の飛行機の妖精的な存在と、ああだこうだと馬鹿げた会話を繰り広げていた、まさにその時。
「──っ。こちらワルキューレ3、『
低く垂れ込めていた雲海を抜け出すとともに、いきなり視界に広がったのは、その数優に三桁に届くほどの、大型戦略爆撃機を中心にした大編隊であった。
そしてその先頭にはもちろん、唯一プロペラを付けた四発重爆撃型の、文字通り『羊の皮を被った狼』そのものの、超高速ターボプロップ機の姿が。
「──おのれ、Tu95! この前の雪辱を、晴らさずにおくべきか…………って、うわっ⁉」
にっくき
「あれは、Yak15⁉」
──そうそれは、第二次世界大戦末期に旧ソビエトが、ドイツ第三帝国の実用ジェットエンジンJumo004の最終C型と、同じくドイツのフォッケウルフ社の計画機の設計資料を基にして、自国のレシプロ機Yak3を改造して造り上げた、ソビエト初の量産型ジェット機、Yak15のお出ましであったのだ。
「しかもよく見たら、編隊の大部分を占める大型機って、世界唯一の前翼型爆撃機、Ju287のB型六発タイプじゃないの⁉」
一体何なのよ? Yak15といい、Ju287といい、Tu95といい、ドイツ生まれのソビエト育ちの、初期型ジェット機の見本市でも、おっ始めるつもりなの⁉
「駄目だ、Yak15は最初期型のジェット機とはいえ、ドイツ屈指のJumo004C型ジェットエンジンを搭載しているので、当時唯一と言っていい『アフターバーナー』機能を実装しているから、瞬間的最高速度では、He280ごときでは太刀打ちできないわ!」
『──大丈夫です! あんなレシプロ機に毛が生えたような時代遅れの直線翼機とは違って、こっちの主翼は後退翼で、尾翼に至ってはV字型なのですから! Jumo004C型装備と言っても単発機なんて、恐れるに足らずなのです!』
「……くっ、どうせ今からじゃ、撤退は無理だろうし、こうなりゃヤケだ、こっちから突っ込んでやる!」
そう意を決し、スロットルを全開にするや、みるみるうちにスピードが増していって、こちらへと殺到するYak15の大群を振り切って、アッと言う間にTu95の目と鼻の先へと迫っていった。
──あ、あれ? このHe280って、異様にスピードが、出ているんですけど⁉
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