第288話、【連載287回記念】わたくし、He280を駆って、Ju287を撃墜しますの。(後編)
──そんな
「なっ! まさかの、敵前逃亡⁉」
『……おそらく、非武装の偵察機型だったんでしょう。偵察機は軍用機の中で唯一、敵前逃亡を公に認められていますしね』
そんな現在の乗機He280改の妖精的存在である『フタバちゃん』の、至極納得できる解説を聞いて、思わずほぞをかむ、
「むう、巡航速度の速いターボプロップ機に、『逃げの一手』を打たれてしまっては、いかな純ジェット機とはいえ、追いつけやしないわ!」
『大丈夫、私を──このHe280を信じて、全速力で追いかけてください!』
「いや、こんな小型の戦闘機なんて、燃料搭載量がたかが知れているんだから、全速飛行を続けていたら、すぐにでも燃料が尽きてしまうのでは……」
あ、あれ?
これだけスピードを出しているのに、燃料の減りが、いつものHe162よりも、断然少ないぞ?
──とはいえ、いつまでも全速力を出し続けていると、エンジンに負担をかけ過ぎるので、一定程度時間がたてば、どうしても『巡航速度』に落とさざるを得なかった。
そうなると、巡航速度でこそ高速性を発揮する、ターボプロップ機の王者である、Tu95に追いつく可能性は、もはやまったく無くなったと言えよう。
──と思っていた時期が、
「ありゃりゃ? 巡航速度に切り替えたというのに、むしろどんどんと、Tu95に迫っていっているじゃないの?」
ちなみに当機を追尾していた、純ジェット機のYak15に関しては、同じく巡航速度に切り替えた途端、みるみるうちに置き去りになってしまい、今や見る影も無かった。
『うふふふふ、どうです、He280と言っても改ヴァージョンである、この私のすごさがわかりましたか?』
「うん、これってどうしてなの? おそらく巡航速度が時速800キロメートルはあると思われるTu95には、巡航速度が時速750キロメートルであるところの、同じドイツの純ジェット機のMe262ですら太刀打ちできないと言うのに、なぜにそれよりも低性能なはずのHe280が、互角以上の実力を発揮できているの?」
『それにはもちろん、後退翼化等の、ボディデザインの改良も役立っているのですが、何よりも貢献しているのは、エンジンそのものなのです』
「エンジンて、あの『失敗作』とも言われていた、HeS8こと?」
『いえいえ、実は本機に搭載されているのは、純然たるHeS8では無くて、その発展型であるHeS9とHeS10とを合体させた、HeS10の改良ヴァージョンなのです!』
「へ? HeS8の発展型ですって⁉」
『確かにHeS8自体は失敗作として終わりましたが、ハインケル社の技術陣はけして諦めずに、HeS8に改良を加え続けていったのです。基本的に時代遅れの遠心式ターボタイプだったHeS8に、より先進的かつ効率的な軸流式の機構を付け加えて、出力の大幅アップを実現したのが、HeS9であり、ターボプロップの発展型という、時代を数十年も超越したターボファン型に改良して、航続性能等を劇的に向上させたのが、HeS10であり、現在この機に装備しているのは、HeS10にHeS9の軸流式機構を取り入れた、文字通りに「いいとこ取り」の改良ヴァージョンであり、高出力と航続性とを高い次元で両立させた、究極のジェットエンジンなのです!』
「な、何ですって? ターボプロップの発展型の、ターボファン型ジェットエンジンって……」
『簡単に説明しちゃうと、ターボプロップのように、ジェットエンジンに後付けしたプロペラを、超小型化してエンジンナセル内に組み込むことによって、名実共に「ジェットエンジンの一部品」とすることで、その悪影響を極力抑えることに成功し、プロペラエンジンならではの、過剰な振動や騒音を排すとともに、プロペラ機ならではの「時速800キロメートルの壁」を無効化して、超音速飛行を可能としつつ、中低速時においてはターボプロップ同様に、低燃費で長大なる航続性を実現して、現在においては軍用機か民間機かを問わず、飛行機の動力のほとんどすべてを占めているのですよ!』
つ、つまり、ジェットエンジンがプロペラを内包することによって、ターボプロップの機能を得て、航続性能や低速時の加速性といった、ジェット機ならではの弱点を解消した、真に理想的な航空機用エンジンというわけか!
──そのように
そのうちの数弾が見事に命中し、空中で四散する、Tu95の巨大な機体。
「──こちらワルキューレ3、
『──こちらワルキューレ1、了解!』
『──こちらワルキューレ、2並び4及び5、Yak15全機、撃墜完了!』
『──こちらJV44、Ju287全機、撃墜完了!』
『──ワルキューレ1、了解! これにて、全作戦を終了する! 全機、帰投せよ!』
こうして、今回の作戦は、すべて成功裏に終了した。
この時の
──まさか、この後すぐに、今回の事件が他でもなく、自分たち『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』の運命に、大きく関わってくることになるとも知らずに。
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