第283話、わたくし、【ジェット機初飛行80周年】の今こそ、プロペラ機を再評価いたしますの。(その2)

メリーさん太「──読者の皆さん、こんにちは、いつでもどこでもあなたのスマホにお邪魔する気満々の、あたしメリーさんなの!」




ちょい悪令嬢「……ええと、一応この【魔法令嬢編】においても、主役をやらせていただいております、ちょい悪令嬢です」




メリーさん太「前回はいきなり、Tu−95なんかが登場して、戸惑われた読者の方も少なくないかと思いますので、今回は少々補足説明を行いたいかと思います」


ちょい悪令嬢「確かに、『ドイツ機大好き♡』なこの作者が、よりによってその天敵とも言える、旧ソビエト機を登場させるなんて珍しいですよね」


メリーさん太「それだけ当機が、旧ソビエトや現行のロシアにおいては言うに及ばず、全世界的に見ても、まれに見る超傑作機だからなの」


ちょい悪令嬢「……へえ、驚いた、作者がドイツ機以外で、そんなにべた褒めするなんて。もしや天変地異の前触れかしら?」


メリーさん太「つまりこのTu−95こそが、ドイツ機以外において唯一、作者の『理想』を体現していると言っても、過言では無いの」


ちょい悪令嬢「作者の理想ですって?」


メリーさん太「いやむしろ、当時のすべての、ジェット機開発技術者の理想、そのものと言ってもいいかもね」


ちょい悪令嬢「はあ⁉」


メリーさん太「ちなみに、第二次世界大戦から朝鮮戦争頃までの、いわゆる黎明期における、ジェット機の短所なきどころと言えば、何を思い浮かべる?」


ちょい悪令嬢「え? そ、そりゃあ、エンジンの寿命が短いとか、現在と比べて出力が低いとか、燃料を異常に食う割には、航続距離が短いとかかなあ……」


メリーさん太「まあ、大体その辺のところだけど、寿命や出力については、技術の進歩とともにだんだんと解決されていったから、それほど問題では無くなったの」


ちょい悪令嬢「そりゃあ、技術が進歩すれば、何だって解決するでしょうよ」


メリーさん太「そう? だったら現在において、燃費の悪さや航続性能の不足は、きっちり解消されたのかしら?」


ちょい悪令嬢「うん、最新鋭のジェット戦闘機なんか、かなり長期の作戦行動にだって、耐えられるそうよ?」


メリーさん太「確かに、ね」


ちょい悪令嬢「な、何よ、表面的って?」


メリーさん太「あなたは、『空中給油機』って、見たことは無いのかしら?」


ちょい悪令嬢「……そりゃあ、写真や動画なんかで、一度くらい見たことはあるけど。あれでしょう? 飛行しながらジェット戦闘機なんかに燃料を補給する、『空中タンカー』と呼ばれるやつのことでしょう?」




メリーさん太「それはおかしいわね? もしも現在のジェット戦闘機が、作戦行動に必要なだけの燃料を搭載できるのなら、空中給油なんて必要無いのでは?」




ちょい悪令嬢「ああっ、言われてみれば、その通りじゃん⁉ どうして? まさかジェット機って、省エネ技術に関してのみ、全然進歩していないとか⁉」


メリーさん太「一応技術はそれなりに進歩しているけど、ジェット戦闘機というものは宿命的に、どうしても航続距離というものを、犠牲にせざるを得ないの」


ちょい悪令嬢「ジェット戦闘機の、宿命って?」


メリーさん太「古来から戦闘機というものは、航続性能よりも何よりも、まずは『高速性能』こそを優先すべきなのであり、そしてでき得る限り高速性を追求するためには、でき得る限り機体重量は抑えるべきなの」


ちょい悪令嬢「ああ、なるほど、速度重視の戦闘機においては、どうしても燃料搭載量が、必要最小限になってしまうわけか」


メリーさん太「しかもジェット機って、離陸時に最も燃料を消費するものだから、むしろいったん離陸させた後で空中給油したほうが、効率が良かったりするの」


ちょい悪令嬢「つまりいったん飛び立った後では、離陸時みたいに馬鹿みたいに燃料を消費することは基本的にあり得ないから、離陸した後で改めて満タンにした燃料については、当然のごとく効率的に運用されるので、作戦行動に必要な航続力をしっかり発揮できるってわけね?」


メリーさん太「そうなの、とにかくジェット機というものは、現在においても、非常に燃費が悪いエンジンの代表格だから、の」


ちょい悪令嬢「いろいろな工夫って?」




メリーさん太「例えば、プロペラを復活させるとかね♡」




ちょい悪令嬢「はあ? 何を馬鹿なことを言っているのよ⁉ プロペラ機において、特に速度性に関して限界を迎えたからこそ、ジェット機が開発されたわけじゃない! それなのにプロペラ機を復活させるなんて、本末転倒でしょうが⁉」


メリーさん太「それだけプロペラ機は、ジェット機の弱点を補って余りあったの」


ちょい悪令嬢「うん、確かに最初期のジェット機なんかよりも、レシプロ機のほうが、燃費が良かったでしょうね」


メリーさん太「それだけではないの、特に加速性においては、初期のジェット機はダメダメで、離陸時や着陸時を狙い撃ちにされたら、手も足も出なかったの」


ちょい悪令嬢「……ああ、大戦中のMe262は、離陸時や着陸時を狙われて、相当な数の機体が撃墜されたそうね」


メリーさん太「よって、ジェット機にプロペラさえ付ければ、そういった弱点がすべて解消されて、速度性と航続性と加速性とがすべて並び立って、いいことずくめになるの♡」


ちょい悪令嬢「だから、ジェット機にプロペラを付けるとか、そんな『いかにも子供が考えつくような漫画的な発想』が、現実においてうまく行くわけがないでしょう⁉」




メリーさん太「それが残念ながら、うまく行ってしまったの。プロペラを持つジェットエンジン──その名も、『ターボプロップエンジン』の開発によってね」




ちょい悪令嬢「え、ターボプロップ、って……」


メリーさん太「読んで字のごとく、『タービン駆動によるジェットエンジンに、プロペラを付けたエンジン』なの」


ちょい悪令嬢「え、そんなエンジンが、本当にあったんだ⁉」


メリーさん太「というよりも、現在の日本で目にできるプロペラ機は、ほとんどすべてターボプロップ機──つまり、プロペラは付いているものの、れっきとしたジェット機の一種なの」


ちょい悪令嬢「……はあ〜、わたくしってば、現在においてもプロペラなんか付けている飛行機って、すべて昔ながらのレシプロエンジン仕様かと思っていたんだけど」


メリーさん太「まあさすがに、セスナ機を始めとする小型のプロペラ機は、いまだにレシプロ形式だったりするけどね」


ちょい悪令嬢「と言うことは、ジェット機とプロペラ機のいいとこ取りというのは、あながち間違いじゃ無いんだ?」


メリーさん太「ジェット機の弱点である航続性や加速性は確かに解決しているけど、プロペラ機ならではの弱点も、しっかりと復活してしまっているの」


ちょい悪令嬢「プロペラ機ならではの弱点って?」


メリーさん太「プロペラの回転駆動による、振動や騒音はもちろん、何よりも最高速度が、原則的に時速800キロメートルあたりが限界となってしまったの」


ちょい悪令嬢「──駄目じゃん! それじゃ、ジェット機の意味がなくなるじゃん! 特に戦闘機においては、致命的な欠点とも言えるじゃん!」




メリーさん太「大丈夫、何せそのターボプロップ機ならではの弱点を克服することによって、歴史的傑作機となったのが、他ならぬTu−95なのだから」

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