第284話、わたくし、【ジェット機初飛行80周年】の今こそ、プロペラ機を再評価いたしますの。(その3)

 ──読者の皆さん、こんにちは、いつでもどこでもあなたのスマホにお邪魔する気満々の、あたしメリーさんなの!


 今回は前回に引き続いて、旧ソビエト空軍が開発した、『史上最速のプロペラ機』Tu95が──つまりは、『プロペラの付いたジェット機』である、ターボプロップ機が、どんなに素晴らしく、第二次世界大戦から朝鮮戦争にかけての、ジェット機黎明期において、まさしく真に理想的な軍用機であったかを、詳しく述べていきたいと思うの。




 ぶっちゃけて言うとね、今回のこのコーナーの最大の趣旨としては、第二次世界大戦中において、ドイツを始めとする各国空軍は、純然たるジェット機よりも、ターボプロップ機の開発こそに全力を尽くすべきだったと、声を大にして言いたいわけなのよ。




 もちろんドイツ空軍の誇るMe262は、黎明期のジェット機にあって唯一と言っていいほど、時代を超えた超傑作機であったことは否定できないけど、その比類無き高速性能や高高度性能とは裏腹に、航続性能や加速性能には看過できない難があり、それらの弱点につけ込まれることによって、レシプロ機に対して劣勢を強いられる場面が多々あったことも、偽らざる事実だったの。


 このうち航続性能の不足に関しては、全般的な戦略や戦術において、Me262を十分に活用することを妨げてしまい、速度面においては敵国のあらゆる戦闘機を大幅に凌駕していたというのに、戦局の推移にそれほど貢献することができなかったという、『史実』にてきめんに現れているわ。


 具体的に言うと、作戦行動時間が十分にとれないので、一定以上の時間を要する戦略偵察や戦略爆撃の任を果たせず、実行可能な用途は必然的に極地防衛任務に限られて、しかもこれまた初期のジェットエンジンの性質上、急速上昇能力が低いので、到達するだけでも少なからぬ時間を要する高高度空域においては、戦闘時間がほんの30分程に限られるといった体たらくで、自国本土の空域での迎撃任務という、航続性能をそれほど求められないはずのケースにおいても、十分に役立たないほどだったの。




 しかも何よりも、個々の機体にとってネックとなったのが、前回も言及したけれど、初期のジェット機ならではの『加速性の悪さ』だったの。




 この当時のジェットエンジンというのは、ドイツを始めとする各国共、耐熱性の高いレアメタルをふんだんに使用することなぞ、とても無理な話で、必然的に代用金属を多用することとなり、その結果エンジンそのものの耐用限界時間が極端に短い脆弱なものとなり、頻繁にエンスト等を起こしやすいので、スロットルレバーの操作には慎重を要し、急加速や急減速はもちろん細かな機動制御がしにくく、対戦闘機の格闘戦においては大きなハンデともなってしまったの。


 更にはこれまた初期のジェットエンジンにありがちなことだけど、機体の総重量に対して出力が非常に少なかったので、急発進や急上昇などはとても不可能で、先ほど言ったように加速性も悪かったから、特に離陸時や着陸時のような低速時に敵機に襲われた場合は、急激に加速して敵機を振り切ることなぞできず、本来高速性に勝るはずのジェット機が、格下のレシプロ機にまったく手も足も出せずに撃墜されるケースが多々見られ、Me262の最大の無きどころとさえも言われたわ。




 それに対して、同じタービン駆動型のエンジンでありながら、これらのジェット機ならではの欠点を解消したのが、ターボプロップエンジンなの。




 基本的にジェットエンジンなのに、あえてプロペラを後付けした最大の理由、それは言うまでも無く、初期のジェットエンジンの最大の欠点である、航続性能を向上させるためなの。


 そもそもジェットエンジンとは、レシプロエンジンよりも『効率が優れている』からこそ開発されたはずで、どうして『航続性能』という効率性の代名詞のような分野で、ジェット機がプロペラ機に劣ってしまうのかについて、簡単に説明すると、純然たる(プロペラ無しの)ジェットエンジンは、高速時や高高度航行時において効率が良くて、プロペラ付きのエンジンは、低速時や中低高度航行時において効率がいいからなの。


 飛行機というものは、常に全力を振り絞って最高速度で飛行しているわけではなく、燃費の効率化やエンジンへ過度の負担等を考慮して、飛行時の大半は『巡航速度』と呼ばれる、比較的低速な状態で飛行しているの。


 これは軍用機においても同様で、そもそも最新鋭のジェット戦闘機における巡航速度はなので、どうせほとんどの行程で(比較的)低速で飛行するのなら、燃料を湯水のように馬鹿食いするジェット機よりも、プロペラ機のほうが格段に効率的だから、航続性能的にも非常に有利になるの。


 また、プロペラ機であれば旧来のレシプロ機と同様に、加速性能も急上昇性能もジェット機よりも優れているから、離発着時において、一方的に敵機の攻撃に晒されるようなこともなくなるわ。


 もちろん純然たるプロペラ機であれば、最高速度や高高度性能が、ジェット機よりも格段に下回るという欠点があるけれど、これもプロペラ機でありながら基本的にはジェット機であるターボプロップ機であれば、問題では無くなるの。


 実はターボプロップ機には、基本的に『最高速度』という概念が無く、『巡航速度』こそが重要視されているんだけど、だからといって低速度しか出せないわけではなく、そこはやはり基本的にはジェットエンジンと言うことで、現在現役の大型の旅客機でも、時速740キロメートル程度の巡航速度を誇っていて、実はこれって第二次世界大戦中における、各国の主力戦闘機の最高速度とほぼ同じだったりするわ。


 更には、純然たるジェット機よりも高高度性能が劣るといえど、それでも高高度では大幅に性能が落ちるレシプロ機よりは優位性を誇るので、もしもドイツ空軍が大戦中にターボプロップ機の開発に全力を注いでいたら、速度性や高高度性のみならず、航続性や加速性についても申し分の無い、真の最高傑作機を実現できて、ドイツ本国を含む欧州全体の空域を支配していた連合軍機を圧倒して、制空権を奪い返せたかも知れないわね。




 実はそれを戦後になって実現したのが、何を隠そう、前々回から話題の焦点となっている、旧ソビエトが開発に成功した、ターボプロップ機における最高傑作である、Tu95なわけなの。

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