第281話、わたくし、He280のことを、一応リスペクトしておりますの(?)【後編】

 ──読者の皆さん、こんにちは、いつでもどこでもあなたのスマホにお邪魔する気満々の、あたしメリーさんなの!




 ……さて、前回において、本作の作者がけして軍国主義者でも過度のナショナリストでも無く、偏向的なイデオロギーなんてまったく有さない、真の自由主義かつ平和主義者であることが、ようくおわかりになられたと思うので、今回こそは作者本来のドイツ軍用機マニアとしての本分に立ち戻って、本題である、『世界初のジェット戦闘機』であったはずの、悲劇の(?)軍用機『Heハインケル280』について、存分に語っていこうと思うの。




 まあ、第二次世界大戦中の軍用機マニア──特にドイツ空軍機愛好者の方にとっては、結構有名な機体なんだけど、一般的な読者様はもちろん、軍オタの方もあまりお知りでは無いかも知れませんので、まずは当機に関する『有名な逸話』について、ざっと説明しておきましょう。




 本機の開発元である、ハインケル社主のエルンスト=ハインケル自身や、一昔前の我が国における軍事関係のプロの著作業者の言うところでは、He280とは、人類史上最初に飛行したジェット実験機として知られるHe178に続く、同じハインケル社が開発したこれまた世界初の本格的ジェット戦闘機であり、エンジンすらも自社開発のHeS8であって、後続のMe262よりも一年半以上も先に初飛行をしたというのに、エルンストが反ナチ主義者なのに対して、メッサーシュミット社主のヴィリー=メッサーシュミットが熱心なナチ党員であったことにより、政治的判断としてMe262のほうが実用化されて、He280は闇から闇に葬られたのだと、いかにも『公然の事実』であるかのように言われていたの。


 ……ホント、ほんの十数年ほど前までは、こんな『事実無根の嘘八百』がまかり通っていたんだから、商業誌という公的媒体メディアといえども、信じられたものじゃないわね。


 今ではそれこそ『公然の事実』と知られていることなんだけど、エルンスト自身だってれっきとしたナチ党の党員だったのであり、下手するとヴィリーよりも熱烈なる支持者であったという話があるほどなの。




 それでは、何ゆえ一年半以上も先行していたHe280が不採用になったかと言うと、当然のごとく、あくまでもジェット機として、Me262よりもからに他ならないの。




 まず何と言っても、機体デザインからしてダメダメで、何よりも高速性を追求したMe262のほうが、時代を超越した洗練されたボディラインだったの対して、レザーバックのコクピットとか双尾翼とか後退も前進もしていない楕円形の主翼とか、何から何まで時代遅れなありふれたデザインとなっており、とても当時最先端の科学技術の結晶である、ジェットエンジンにふさわしい機体とは思えなかったの。


 とはいえ、もちろん長所と言えるものもちゃんと存在しており、現在においてはもはやジェット機の標準仕様である、前輪式の降着装置を採用していたのは先見の明があり、旧来の尾輪式の降着装置にこだわり、特に離陸時に不具合を多発したMe262とは大違いだったの。


 更には何と言っても、世界初の『射出式コクピット』を採用したのは、大快挙と言っても差し支えないでしょう。


 黎明期におけるジェット機とはいえ、プロペラ機よりも時速で200キロ近くの高速性を誇り、非常時に脱出するのが大変困難で、事実射出式コクピットを有さないMe262においては、パイロットが脱出時に機体と接触して死傷してしまうという事故が多発したほどなの。


 このように、確かにジェット機として見るべきところも少なからずあったHe280だけど、それ以上に『致命的な欠点』が存在するために、すべてが帳消しなってしまったの。




 それこそがまさしく、自社開発のジェットエンジン、HeS8の脆弱性だったの。




 確かにハインケル社は、人類初のジェット機を実際に飛行させたくらいだから、ジェットエンジンの開発競争においても、当時イギリスのホイットルとともに、先頭を突っ走っていたわ。


 だけど、『開発が早い』ことと、その製品の『出来』とが、必ず比例するとは限らないの。


 事実HeS8についても、ドイツにおけるジェットエンジン開発競争のトップを走って、当局から認められたジェットエンジンに与えられる最初の公式番号として、『109−001』という記念すべき一番目のナンバーを与えられたものの、『実用ジェットエンジン』と呼ぶにはお粗末すぎて、まず何と言っても肝心の推力が、目標値から700キログラムと低めだったのに、最終的には600キログラムまでしか到達できず、900キログラムのJumo004や800キログラムのBMW003に比べれば、とても当時の第一線の戦闘機に採用できるレベルでは無く、しかも耐用時間がわずか1時間に過ぎないとなると、当局から正式に採用されるとかの話ではなく、もはや『工業製品として失格』と言わざるを得なかったの。


 だって、当のHe280を含む、当時のドイツ製のジェット機のほとんどすべてが、1時間30分程度の航続時間をマークしていたんだから、HeS8を装備して飛行していたら、途中で止まってしまうじゃないの?


 そのように実用品としてはとても使用に耐えられないと、何と開発メーカーであるハインケル社自体から見切りをつけられることになり、He280には先行量産化がなされたばかりのJumo004のA型を装備することになり、その結果当時のプロペラ機に対して時速100キロ以上の高速性を発揮できたの。


 だったらこのまま実用化されるかと言えば、残念ながら、そうは問屋が卸さなかったわけ。


 それというのも、元々Jumo004は空軍省RLMにとっての本命である、Me262のために開発されたエンジンであって、空力的に有利なMe262に装備したほうが、機体デザインにそこまで高速性を追求していないHe280に対して、何と優に時速100キロ近くも差を付けることができて、当然のごとくMe262のほうが正式に採用されて、He280のほうは開発中止の憂き目に遭ったの。




 それでも自社開発のジェット機の実用化を諦めきれないエルンストは、最後のチャンスである、主力ジェット機のMe262の補助的新型軽量ジェット戦闘機、『国民戦闘機フォルクスイエーガー』のコンペに、すでに開発中だったHe162を応募して、見事に採用されたんだけど、すぐさま大量生産に入り、どうにか数十機ほど正式に実戦部隊に配備したところで、戦争そのものが終わってしまい、今から丁度80年前に、人類史上初めてジェット機を実際に飛行させたハインケル社は、結局のところ自社開発のジェット機本体もジェットエンジンも、一つも実戦に投入できないままで終わってしまったの。

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