第242話、わたくし、魔法令嬢としての愛機である、He162については、一家言ありますの。(後編)

メリーさん太「……ほんと、あきれ果てたものなの、どっかの馬鹿な研究者が、『He162の機体デザインには見るべきところはない』と記述した途端、後続の能なし研究者どもは、自分の頭で考えることを放棄して、その『オウム返し』を繰り返すばかりで、いつしか誤った見識が定着してしまっただけなの! 一体どこに目の玉を付けているのやら。ちょっと機首の部分を見るだけで、その先進性がわかろうというものでしょうが⁉」




ちょい悪令嬢「う、うん、確かに、この機首の部分て、SF映画に登場してもおかしくないくらい、第二次世界大戦当時にしては、十分に革新的だわ。あくまでも機首に関してなら、あのMe262にも勝っているかも」


メリーさん太「そして機首よりも重要な、要注目点であるのが、何と言っても主翼なの!」


ちょい悪令嬢「あ、ほんとだ、なんか左右の主翼を一緒にすると、まるで『逆三角形』みたいな変わった形に見えるわね」


メリーさん太「──ここで質問です! 三角形の『逆』と言えば?」


ちょい悪令嬢「逆三角形の逆と言えば、当然『ただの三角形』…………って、つまり、『デルタ翼』か⁉」




メリーさん太「その通り! 現在においても各国の主力戦闘機の主翼として採用されている、高速性の具現である、『デルタ翼』を真逆に配置デザインするという、もはやMe262の後退翼なぞ足元にも及ばない、オーバーテクノロジィを実現していたの!」




ちょい悪令嬢「嘘っ、第二次世界大戦中に、デルタ翼機が存在していたというの⁉」


メリーさん太「厳密に言うと、デルタ翼そのものでは無いけれど、ある意味それを上回っているとも言えるの」


ちょい悪令嬢「デルタ翼を上回っているって、そんな馬鹿な!」


メリーさん太「だからこその、逆三角形なの」


ちょい悪令嬢「……それって、逆三角形のほうが、正三角形のデルタ翼よりも、高性能というわけ?」


メリーさん太「あくまでも、『第二次世界大戦当時』かつ『弱点を克服する』という、意味においてだけどね」


ちょい悪令嬢「弱点って、デルタ翼の?」


メリーさん太「デルタ翼って、本作において何度も登場した、『全翼機』の仲間であり、機体デザイン的には、そのほとんどが主翼のみにできているようなものなので、高速性や航続性は抜群だけど、反対に言えばスピードが速すぎるゆえに着陸しにくく、また三角形であるから普通の四角形の後退翼よりも、当然のように後退角が大きくなるので、後退翼の最大の欠点である翼端失速が起こりやすく、着陸はもちろん離陸においても、何かと操縦が困難で、墜落事故等が起こりやすくなっているの」


ちょい悪令嬢「それについては、この【魔法令嬢編】では無く、【本編】のほうでアイカさんたちが乗っている、全翼ジェット戦闘機『Ho229』についての解説の折に、散々述べてきたものね」


メリーさん太「その致命的な弱点を補うのが、まさしくこの『逆三角形』型の主翼なの」


ちょい悪令嬢「何で同じ三角形なのに、弱点を補うことができるの?」


メリーさん太「見ててわからない? 逆三角形とはすなわち、『後縁前進翼』じゃないの」


ちょい悪令嬢「前進翼って…………あ、そうか! 第287話で登場した、『Ju287』か!」




メリーさん太「そう、まさにそのJu287の時に述べたけど、前進翼は高速性を実現しながらも、後退翼やデルタ翼における、低速時の翼端失速を抑制する効果があり、しかもこのHe162や旧日本軍のなかじま飛行機製陸軍戦闘機シリーズのように、主翼の前縁のほうが前進も後退もしていない、あくまでも直線状であるがゆえに、前進翼ならではの欠点である、翼失速性をも緩和でき、高速性と運動性とを両立した、真の高性能戦闘機を実現できるの」




ちょい悪令嬢「何と、すごいな逆三角形翼、欠点無しのいいとこ取りじゃないか⁉ 何でこれまでの文献においては、まったく言及されなかったんだろう? まさにこれぞHe162における、最大の長所と言っても過言でも無かろうに」


メリーさん太「結局、プロの軍事研究者と言ったところで、自分の脳みそで考えている者などほとんどおらず、他人の受け入ればかりしているだけなの」


ちょい悪令嬢「……うわあ、これまた『危険球』的発言を」


メリーさん太「断っておくけど、別にこれは国江先生のことでは無いの。彼自身も、今回の解説書において、ちゃんと『V字尾翼』について言及されていることが、いい証拠なの」


ちょい悪令嬢「何その、V字尾翼って?」




メリーさん太「そもそも尾翼とは、飛行中に縦横両方向への『抵抗』を生み出すことによって、機体そのものを安定化させるものだから、究極の高速飛行のためには邪魔者でしかなく、それを取っ払ったのがいわゆる全翼機なの。しかしそうなると当然のごとく、縦横の安定性が完全に損なわれて、まっすぐに飛ぶことすらも不可能となり、普通に操縦不能となって墜落するしかなくなるんだけど、現在では尾翼の役割を『フライ・バイ・ワイヤ』等のコンピュータシステムで代用することで、高速性と安定性を両立させているの。ただしこれって、同じ全翼機でも『B2』のような大型戦略爆撃機等ならともかく、複雑な空中機動を必要とする戦闘機においては、コンピュータのようなソフトウェア的対応では、どうしてもレスポンスが悪くなり、やはり昔ながらのハードウェア的な工夫のほうが望ましく、それを実現したのがV字尾翼なの」




ちょい悪令嬢「あー、そういや、現在のジェット戦闘機って、デルタ翼機にしろ、普通の後退翼機にしろ、ほとんどこのV字尾翼だわ」


メリーさん太「それというのも、機体に対して『斜め』に設置されているV字尾翼って、言ってみれば垂直尾翼と水平尾翼を、一つで兼用しているようなものだから、その分飛行中の抵抗が少なく、しかも主翼同様に結構大きな角度で後退しているから、必要十分な安定性を保ちつつ、高速性をも持ち得るという、超優れ物なの」


ちょい悪令嬢「それがHe162に、実際に採用されていたわけなの?」


メリーさん太「量産機では無く、試作機のみだけどね。しかも単に『そんな改造計画があったかも知れない』などといった眉唾物ではなく、何と今回の解説書において、その試作機が実在していたことを、ちゃんと明記してくださったの!」


ちょい悪令嬢「おお、ようやく国江先生らしくなってきましたな」




メリーさん太「それでなくっちゃ、新刊を出した意味なんて無いの! 他にも、戦後ソビエトがつくらせた、『赤い星のマーク入り』の独特な機体を、本邦初のイラスト入りで紹介したり、これまであまり触れられることの無かった、『緊急軽量戦闘機計画』に応募された他のメーカーの機体を、画像付きで紹介したり、何とHe162の最初期案においては、ジェットエンジンが機体の胴体の上だけでは無く、機首の下にもあると言う、一種独特の『双発機』であったという新事実を記したりといった、ちゃんと『国江先生ならでは』の、期待通りの箇所もたくさんあるので、本作の【魔法令嬢編】をご覧になって、He162に興味を持たれた方は、どうぞ御一読のほど、よろしくお願いいたします♡」




ちょい悪令嬢「本作の作者のような、うるさ型の超マニアでも無い限り、十分ご納得いく内容となっておりますので、安心してお手にとられてくださいませ」

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