第241話、わたくし、魔法令嬢としての愛機である、He162については、一家言ありますの。(前編)

メリーさん太「──そういえば、大事なことを忘れていたの」




ちょい悪令嬢「はあ?…………ていうか、メリーさん、まだいたの⁉」




メリーさん太「それというのも、昨日本作の作者が、久方ぶりに本屋に行ったんだけど」


ちょい悪令嬢「──おい、人の話を聞けよ⁉」


メリーさん太「いいから聞くの、これはあなたにも、関係のある話なんだから」


ちょい悪令嬢「わたくしに?」


メリーさん太「実はドイツ第三帝国が誇る、先の大戦最後の決戦兵器たる、世界最初の単発ジェット戦闘機である、『He162』俗称『ザラマンダー』についての、最新の解説書が発売されていたの」


ちょい悪令嬢「He162って、現在の私たち『ワレキューレ隊』の、乗機じゃないの⁉」


メリーさん太「偶然とはいえ、むちゃくちゃタイムリーだったから、今回はその話をしようと思うの」


ちょい悪令嬢「……ああ、そういうこと」


メリーさん太「ちなみに、今回のメイン執筆者は、あの名解説本の『Ar234』を書かれた、くにたか先生なの」


ちょい悪令嬢「おお、それは、期待できますな!」


メリーさん太「……う〜ん、それがねえ」


ちょい悪令嬢「えっ、何その、奥歯に物がはさまったような言い方?」


メリーさん太「いや、別に期待外れとかじゃ、無かったんだけどお〜」


ちょい悪令嬢「だけど?」




メリーさん太「ううん、こんな言い方は、やはりダメなの! これはあくまでも、この作品の作者の期待が大きすぎたための、勝手な個人的な感想でしかないから、こんなネットという公共の場で、批判めいたことを一方的に記述するのは、『フェア』ではないの! ──というわけで、国江先生、その他の執筆者の方、そして『世界の傑作機』シリーズの関係者の皆様、これからここで記すことは、あくまでも本作の作者が、他の書物やウィキペディア等によって得た知識によって、いわゆる『補完』を行うだけのことですので、差し出がましいかとは思いますが、けして貴書に対して批判したり不満を述べたりする意図はございませんので、どうぞご了承ください。もちろんちゃんと、貴書の記述の素晴らしさについても、しっかりと言及するつもりですので、貴書の記述を参考にすることを、どうかご容認いただきたく存じます」




ちょい悪令嬢「……うわあ、これはまた盛大な、『予防線』を張ったものよねえ」


メリーさん太「そりゃあそうでしょう、本作の作者だって、国江先生の『Ar234』にいちゃもんをつけられたりしたら、とても容認できないだろうし、まあ、まさにこれぞ、『人のふり見て我がふり直せ』といったところよね」


ちょい悪令嬢「国江版『Ar234』に対する心酔っぷりって、すごいものね」


メリーさん太「……あれはほんとに、名解説書だったの」


ちょい悪令嬢「それではそろそろ、本論に入っていただきましょう」


メリーさん太「そもそもHe162は、正式に量産化されたといっても、事実上実戦に投入されたわけではないので、同じドイツの実用ジェット機であるAr234やMe262に比べると、どうしてもこういった解説書の中身が薄っぺらになるのは、仕方ないことだったりするの」


ちょい悪令嬢「あ、そうなんだ」


メリーさん太「しかも、戦争末期の物資が欠乏している時期に、量産性のみを最優先にして、ごく短期間のうちに設計から部隊配備までを強行したから、必然的に性能的に無理のあるものとなってしまったの」


ちょい悪令嬢「しかもいわゆる『国民戦闘機フォルクイェーガー』として、年端もいかない『ヒトラーユーゲント』の少年兵たちを搭乗させるといった、無茶な計画もあったしね」


メリーさん太「よって当然、He162はAr234やMe262よりも、大幅にスペックが劣ることになり、前線に配置されたのが終戦間際だということもあって、活躍の機会がまったく無かったの」


ちょい悪令嬢「うんうん、それで?」


メリーさん太「……これで、終わりなの」


ちょい悪令嬢「はあ⁉」


メリーさん太「だって、史実がそうなっているのだから、仕方ないの! ──そう、わかっちゃいるんだけど……」


ちょい悪令嬢「メリーさんとしては、何か不満があるとか?」


メリーさん太「……もしかしたら国江先生だったら、史実さえも覆してくれるのではないかと、期待していたの」


ちょい悪令嬢「ほんとに、期待が重すぎたな⁉ いくら国江先生でも、史実は変えられないだろう?」


メリーさん太「史実そのものは変えられないとしても、新たなる発見があったりとか、これまでとは違った角度から史実を再検証したりとか、いろいろな手法があると思うの!」


ちょい悪令嬢「ああ、まあねえ。──それで、そう言うところは、全然無かったの?」




メリーさん太「もちろん、そこは国江先生、まったく無いわけがなく、先ほどあなたが触れた『ヒトラーユーゲント』についても、結局『国民突撃隊』なる地上部隊に配属されて、旧ソ連軍のベルリン侵攻の際に犬死に的な犠牲になるくらいなら、最新ジェット機のパイロットになっていたほうが、結果的には幸運だったかも知れないことや、撃墜記録はただの一つも公式に認められていないし、国江先生ご自身も『未確認の撃墜は数に入れるべきではない』との立場だけど、敵偵察機に対する哨戒任務に出動したり、デーニッツ『新大統領』が降伏締結に赴く際に、護衛機として出動したりといった、『新事実』を明らかにしてくれたの」




ちょい悪令嬢「ほう、それはそれは。某『エ○ァ』においても、『エヴ○の中が、一番安全なのよ』という有名な台詞があるくらいだから、地上で捨て駒的に使われるよりも、当時最高性能のジェット機に乗って空を飛んでいたほうが、よっぽど命拾いしたかもねえ。それにたとえ撃墜記録が無かろうとも、哨戒や護衛だって立派な軍務なのだから、ちゃんと『実戦出動』を経験しているわけだ。まさにこれぞ、『新事実』の発覚ね。さすがは国江先生。──でも、デーニッツ海軍提督が、『大統領』というのは、どうしてなの? 彼は自殺したヒトラーの後を継いで、ドイツ第三帝国の最後の『総統』になったんじゃなかったっけ?」


メリーさん太「そこが素人の浅はかさなの。別に『総統』というのは、悪の組織の総元締めを指す、一個の独立した名称なんか、当時のドイツにおいては、『理大臣兼大領』を意味していたの。そして総理の就任には原則的に議会の承認が必要なので、いかな独裁者であるヒトラーといえども、他人に自由に任命することができたのは、『大統領』のほうだけなので、当然デーニッツは『総統』ではなく、『大統領』と呼ばれることになるの」


ちょい悪令嬢「なるほど! まさしくこれぞ、理路整然!」


メリーさん太「むしろここでこそ、『さすがは、国江先生!』を、使うべきなの」


ちょい悪令嬢「……それで、そんな『さすがの国江先生』の御著作というのに、一体何が不満なの?」


メリーさん太「だから不満とかではなく、何と言ってもHe162について言及する、最新の書物なのだから、ここ最近になって明らかになった『諸々の事実』についても、ちゃんと触れて詳細に解説していただきたかったの!」


ちょい悪令嬢「諸々の事実って?」


メリーさん太「例えば、本作の第239話で登場した、He162のE型についてとかなの」


ちょい悪令嬢「ああ、ジェットエンジンであるBMW003に、ロケットエンジンであるBMW718が付加されているやつか」


メリーさん太「これについては、ウィキペディアに記述が見られるんだけど、同じエンジンを使用したMe262のC型2号機については、方々の文献において詳しく述べられているのに対して、He162のE型については、試作機に関する詳細な実験データが無く、試験飛行が成功したのか失敗したのかすら不明なの」


ちょい悪令嬢「つまりそこのところを、是非とも国江先生に、更に突っ込んで記述してもらいたかったのに、まったく触れられなかったというわけね」


メリーさん太「こういった件はまだ細かいのがいっぱいあるけど、そんな重箱の隅をつつくような真似は、国江先生や関係者の皆様に失礼なので、これ以上は慎むけど、どうしても言及していただきたかったのが、これまでほぼすべての文献において、まったく触れられることが無かったと言っても過言では無い、He162の機体そのもののデザインのセンスの素晴らしさについてなの」


ちょい悪令嬢「えっ、He162ってむしろ、ドイツの初期のジェット機においては、機体デザインに見るところが無かったというのが、定説ではなかったっけ?」




メリーさん太「それは戦後、ドイツの軍用機の解説本において、世界的にネガティブキャンペーンを展開していた、欧米戦勝国の御用研究者や、それをそのまま翻訳した、日本の能なし研究者どもの、赦し難き愚行に過ぎないの!」




ちょい悪令嬢「──うわっ、またしても『危険球』的発言を⁉ ほんとに大丈夫か、これ? ……てところで、【後編】に続きます♡」

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