第238話、わたくし、『音速超え』や『空中空母』って、厨二心をくすぐられますの。

『──こちら、ワルキューレ1、目標との接触予想空域に到達! 各機、戦闘準備!』




『……そう言われてもなあ、いまだ敵さんの具体的な機種どころか、機数もわからんでは、対応の仕方が無いわな』


『仕方ないでしょ、何かすごいジャミングが、かかっているらしいし』


『そんなの、関係無いよ! わたくしたち『ワルキューレ』隊は無敵なんだから、出たとこ勝負で、一気にキメちゃいましょう!』


『……ワルキューレ3ったら、その慢心こそが、かつてのドイツや日本を、大敗に追い込んだという史実を、お忘れなのかしら?』


『ええ、今回は慎重に行きましょう! 引き続きリーダー機として全体的な状況の把握を担ってもらう、ワルキューレ1以外は、このまま四機編隊シュバルムを維持しておく──ってことで、OK?』




『『『『──らじゃっ!』』』』




 そのようにいつになく警戒態勢をとりながら、ほとんど肉眼での視界のきかない曇天の中、巡航飛行を続けるわたくしこと『ワルキューレ3』、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナを始めとする、『魔法令嬢育成学園』初等部5年F組のトップチーム『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』からなる、聖レーン転生教団空軍新設特殊部隊『ワルキューレ』の、かつてのドイツ第三帝国の超科学の粋を尽くした、最終決戦兵器たるジェット邀撃機である、He162A2『ザラマンダー』の五機編隊。




 ──そしてそれから一分もたたないうちに、『それ』は分厚い雲海から姿を現した。




『『『『『でけえっ⁉』』』』』




 ……第一線の戦闘機乗りとしては、少々状況判断能力を疑われかねない、第一声であった。


 しかし、それも無理からぬことである。


 その時初めて我々の肉眼に、己の全貌を現した『敵機』はと言うと、大型爆撃機や輸送機をも含む『航空機』の範疇に収まるものではなく、列強各国の主力並の、度外れた威容を誇っていたのである。


 一応基本的なシルエットとしては、『双胴型爆撃機』あたりが近いが、全体的にその寸法が桁違いであった。


 ガラス張りのコクピットからなる機首から双胴の尾部を繋ぐ水平尾翼までの全長が、およそ三、四十メートルほどで、ほとんどテーパーしていない逆ガル型の主翼の全幅が、およそ六十メートルほどという、既存の軍用機とは、スケールがまったく異なったのだ。


 ……ちなみに、かつての日本において『超空の要塞スーパーフォートレス』として恐れられた、米軍のB29重爆撃機は、全長がおよそ三十メートルほどで、全幅がおよそ四十メートルほどであった。


 それよりも一回り以上も大きい、異形の正体不明機を目の当たりにして、第二次世界大戦当時において、最も小型軽量のジェット機であったHe162を操る、わたくしたち『ワルキューレ』隊が、攻撃することすらも忘れて、ただ敵機の周囲を飛び回り続けていたのにも、ご理解いただけることであろう。


『……何やあれ、もしかして、「空中空母」か何か?』


 呆けたような声を出す、ワルキューレ2こと、我が『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のムードメーカーの、ユーちゃん。


 確かに、機体下部から伸びている巨大な二本の固定脚を挟んだ、胴体と左右の主翼の下面には、鋭い後退翼を持つ小型機が五機ほど吊り下げられていた。


『──っ。そうか、ベンツだ、ベンツの「プロイェクトFタイプ」だ!』


 そのように唐突に大声を上げたのは、ワルキューレ1こと、みんなの頼れるリーダーにして(少々度が過ぎた)ミリオタの、ヨウコちゃんであった。


『……ベンツって、もしかしてあれには、怖いお兄さんが、いっぱい乗っているとか?』


『一応企業としては同系列ですけど、それは乗用車部門のメルセデス=ベンツであって、あちらは第二次世界大戦中にドイツ第三帝国に多大なる貢献を果たした、航空機エンジン部門の、ダイムラー=ベンツが中心になって計画された、まさしく世界中の「小五男子の夢」の具現たる、「空中空母」ですわ』


 同じく、何だかピントの外れたことを言い出している、ワルキューレ4こと、実は夢魔サキュバスの血を引いているくせに身持ちの堅いメアちゃんと、それをやんわりとたしなめる、ワルキューレ5こと、某国の大公息女でありながら、魔法では無く『魔術』が得意な変わり種の、タチコちゃんであった。




『──いかん、阿呆なことを言っている場合ではないぞ! 「Fタイプ」と言えば、その搭載されている、後退翼型の飛行爆弾は、軽く音速を超えるはずだ!』




『『『『は?』』』』


 突然焦り始めたワルキューレ1の言葉に、わたくしたちは当然のように訝った。


『……第二次世界大戦中の軍用機で、音速超えって、ほんまか?』


『ああ、この「Fタイプ」の有人飛行爆弾の、コクピットの直後の背中の部分──まさに、我々のHe162とほとんど同じ部位に搭載されているジェットエンジンは、BMW018と言って、静止推力が3500kgという、第二次世界大戦当時においては、ほとんどのジェットエンジンの静止推力が1000kg前後だったのに比べて、時代を十年以上も飛び越えた、破格の大出力を誇っていて、有人飛行爆弾として3トンという規格外の爆薬搭載量を誇る、「Fタイプ」の全備重量が10270kgにものぼるというのに、余裕で音速を超えることを可能にしているんだ』


『静止推力が3500kgって、わたしたちのHe162が搭載しているBMW003Eの静止推力が、およそ800kgだから、優に4倍以上もあるじゃないの⁉』


『むしろそれって、ベトナム戦争当時の、最新鋭ジェット爆撃機用のエンジンレベルではなくって⁉』


『……ほんとに、時代を、間違っているよう。一体どうなっているの、当時のドイツって?』


『こっちもいつものラムジェット搭載型なら、音速超えもあり得たんやけど、今日は特殊タイプの「R型」とはいえ、ジェットエンジンとしてはあくまでも、静止推力800kgのBMW003やしなあ……』


『──どうやら、わかってくれたようだな。当然我々の戦法としては、飛行爆弾が空中発射される前に、空中空母ごと撃墜する以外はないだろう』


『でも、わたくしたちはあくまでも、新開発の「R型」エンジンの試験飛行を行っているところを、このデカブツを空軍本部のレーダーサイトで捉えたことによって、急遽邀撃を命じられて飛んできたという、想定外の状況なのだから、搭載兵器は標準仕様の20mm機関砲しか無く、いかにも防御装甲が厚そうな、あの航空空母には効き目が無さそうだよお』


『……だったら、飛行爆弾のほうを、直接狙ってみる?』


『──って、そんなこと言っているうちに、飛行爆弾のエンジンが、点火しおったでえ⁉』


『『『『なっ!』』』』


 ワルキューレ2の叫び声に促されるようにして、合計5機の有人飛行爆弾「Fタイプ」のほうを見やれば、確かにそのエンジンの後部ノズルからは、高温圧縮されたジェット気流が、勢いよく噴射され始めていた。


 そしておのおのの機体を吊り下げていたフックが外されるや、スロースターターなジェットエンジンならではに、ゆっくりと前進を始める飛行爆弾の群れ。


 しかしそれもほんのつかの間のことに過ぎず、ウォーミングアップを終えて、エンジンが十分に暖まるや、瞬く間に出力をレッドゾーンへと跳ね上げていく。




『……仕方ない、ぶっつけ本番になってしまうが、こちらも奥の手を使おう。──ワルキューレ2以下全機、試作補助エンジン、「BMW718」の点火用意!』




 ──っ。


 やはり、それしかないのか⁉


 ワルキューレ1の命令一下、わたくしたちは、BMW718の始動スイッチを入れた。




『『『『──BMW718、点火!』』』』




『──続けて、全力前進フルスロット!』




『『『『──全力前進フルスロット!』』』』




 その瞬間。


 メインエンジンであるBMW003の上部に設置されている、サブエンジンのBMW718のノズルから、ジェット気流どころか、文字通りの『ロケット噴射』が勢いよくほとばしって、本来追いつけるはずの無い、大出力エンジン搭載機に向かって、瞬く間に追いすがっていったのである。















ミルクの時間「……何よこれ、もはや『悪役令嬢』でも『魔法少女』でもなく、単なる『ミリタリーもの』じゃないの?」


どこかの作戦部長ミ○トさん「まあまあ、『夏のホラー2019』が本格的に始まって、作者のほうも相当テンパっているご様子だし、少々趣味に走るくらい、大目に見てあげましょうよ」


ミルクの時間「これが『少々』ですって⁉ 『ダイムラー=ベンツ=プロイェクトFタイプ』とか『BMW718』とかって、あまりにもマニアック過ぎるでしょうが! 相当な『ミリオタ』以外は、知らないんじゃないの⁉」

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