第229話、わたくし、Ho229は、名機だと思いますの。

「──いや、確かに歴史的傑作機だと思うけど、実際に量産化して戦場に投入していたら、間違いなく『失敗作』の烙印を押されていたんじゃないの? 何せ尾翼といった物がまったく存在しない全翼機は、『フライ・バイ・ワイヤ』等に代表されるコンピュータ制御無しでは、まっすぐ飛ぶことすらおぼつかないのですからね」




 広大な店内の四方を取り囲むガラス張りの壁面の向こうに広がる、深海ならではの絶景の中を、大型の魚が気ままにゆっくりと泳いでいる姿を眺めることのできる、瀟洒なレストランバーにおいて、気心の知れた女同士で酒を酌み交わしながら、あれこれと込み入った話に興じていたなかに、相方の唇から飛び出したあまりにも脈絡の無い言葉に、私こと、聖レーン転生教団直営の『魔法令嬢育成学園』の保健医にして、実はいかなる世界でも自分の見ている夢ということにしてしまえる、まさしく反則チート級の存在たる夢魔サキュバスであるエアハルト=ミルクは、訝しげに首をかしげざるを得なかった。




「……何よ、ミサト、急に『全翼機』とか『フライ・バイ・ワイヤ』とか、わけのわからないことを言い出して? まさかその年で、ボケだしたとか?」


 割と本気で『悪友』の頭の具合を心配してみたところ、ほんのりと苦笑を浮かべながら、両手を上げて肩をすくめる、同じく育成学園の初等部教師にして、実は聖レーン転生教団異端審問第二部司教でもある、ミサト=アカギ嬢…………おまえはハリウッド女優か何かなのか?


「わけのわからないって、これってまさに、今回の第229話のタイトルの話じゃない?」


 ……また、メタかよ? この作品の作者、いい加減にしろよな。




「以前に、『小説家にな○う』様の活動報告というブログ的コーナーにおいて、この作品がPV34300アクセスを達成した際の記念に、『あなたは、He343という、第二次世界大戦当時に計画された、世界初の正式ジェット爆撃機を知っていますか?』とかいうタイトルで、記事をアップしたところ、最近になって『He343』についてネットで検索してみたら、(ほとんどは英語やドイツ語のページばかりだったけど)日本語のページ限定だと、これがトップに来てしまったんだけど、実はこの活動報告って、タイトル以外の本文のほうでは、『He343』についてまったく言及していないという、ドイツ空軍機マニアの皆様大激怒の有り様だったので、今回はそんなことが無いように、こうして本編においてまず最初に、『Ho229』について、しっかりと言及しておこうと思ったのよ」




「──説明文、長っ! それに、本末転倒! 確かに内容に関連性の無いタイトルを、むやみやたらと付けるのは慎むべきだけど、本編にまったく関係の無いことを、冒頭から唐突に語り始めて、読者様を混乱させることこそ、よほど厳格に慎むべきでしょうが⁉」




「ちなみに全翼機と言うのは、飛行機の形状がすべて翼だけで構成されているやつのことで、『シン・ゴ○ラ』に登場したアメリカ空軍のB2ステルス爆撃機のように、『エイ』や『洋凧カイト』のような平べったい形をしていて、浮遊性が高く水平方向に対しては空気抵抗が少ないから、一般的な形状の飛行機に比べて、同じエンジンでもより高速に、同じ燃料量でもより遠くに、飛行することが可能となるとともに、正面面積が著しく少ないから、レーダーに映りにくいという、軍用機としては多大なる長所を有しているの。──ただしその反面、飛行中の縦横方向の安定性や操縦性に絶対的に必要な尾翼に関しては、水平尾翼と垂直尾翼の両方共を持たないから、当然のごとく安定性と操縦性に非常に難があり、下手すると普通にまっすぐ飛んでいるだけで操縦不能となる場合さえもあって、第二次世界大戦終戦直後のアメリカにおいて、全翼型の大型爆撃機の試験飛行中に、パイロットのエドワードさんが墜落死してしまって、それを悼んで試験に使用された空港が『エドワード空軍基地』と改名されたという、超有名なエピソードがあるくらいなの。よって全翼機が本格的に実用化されるためには、コンピュータが十分に発達して、『フライ・バイ・ワイヤ』という飛行機の姿勢制御を自動にやってくれる『魔法の道具』が発明された、1980年代まで待たなくてはならなかったのであり、仮に第二次世界大戦中において試作段階にあった、『Ho229』の量産化が間に合ったとしても、実戦投入は無理だったのではないかと指摘する意見も多いの」




「──だから、本編に関係無いことを、長々と語るなと、言っているでしょう⁉」




 ついに堪りかねて怒鳴り声を上げれば、むしろこちらに向かって、さもあきれ果てたかのような溜息をつく、ある意味『すべての黒幕』の一角を占める、要注意人物。


「はいはい、わかりましたよ。まったく、そんなに目くじらを立てなくてもいいでしょう? これも読者サービスの一環としての、お遊びみたいなものなんだから」


「だから、『読者サービス』とかいった、メタ的発言を慎めと、言っているのよ!」


「……ああ、ごめんなさあい、ちょっと紛らわしかったわね」


「は?」




「読者と言っても、別にメタ的な話をしているわけではなく、今回の『実験』の一部始終を小説化して、現代日本の小説創作サイトに上げている、うえゆうの手によるWeb作品の、『読者』様のことよ」




 ──っ。


 今更ながらに『世界のからくり』を突き付けられて、思わず息を呑む私を見て、さも満足そうに唇を笑み歪ませる、間違いなく『仕組んだ側』の女。


「そもそもねえ、この世界自体が『つくりもの』みたいなものなんだから、今更『メタ』も何も無いのよ。さすがに『小説』そのものとは言わないけど、『実験物』であることは確かだしね。何せ『実験のための実験のための実験』が行われているのであり、この世界のどこまでが現実で、どこからが虚構なのかを考えたところで、無駄なんじゃないのお?」


「……それで、時系列も、むちゃくちゃなわけなのね?」


「ほう、時系列って?」




「この前までやっていた、『タチコちゃんとユネコちゃんのなれそめ』の話って、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』全体としては、かなり初期のエピソードのはずなんだけど、アルちゃんとメイちゃんの仲のほうも、すでにギクシャクしていたよね? こっちのほうはむしろ、割と最近のトピックスじゃなかったっけ?」




「……あー、そこを突っ込むわけかあ」


「あら、何かまずいことでも、あるの?」


「まずいと言うかねえ、実はこれって、メタとか実験とか言う以前に、この世界の根幹に関わる話になってしまうのよお」


「は? この世界の、根幹って……」




「まあ、『世界というものを、多元的な夢のようなもの』との、代表格である夢魔サキュバスのあなたは、たとえそれが現実であろうが実験であろうが小説であろうが文字通りの夢であろうが、仮にも『世界』である限りは、必ず『あなた』が存在していて、そのすべてのあなたが意識を同期シンクロしていることにより、気づかなかったでしょうけど、今回のこの『実験のための実験のための実験』の世界って、実はのよ」




「へ? 世界が一つでは無いって………………………ちょっと、まさか⁉」


 台詞の途中で、『真実』に気づき、血相を変える私を見て、さも満足そうに頷きながら、その『世界の管理者』である転生教団の異端審問官は、この上も無く決定的な台詞を宣った。




「そう、例えばあなたがさっき指摘した、『タチコちゃんとユネコちゃんのなれそめ』の世界と、『アルちゃんとメイちゃんの仲がギクシャクしている』世界とは、まったく別の世界だったの」

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