第228話、わたくし、異世界転生においては、同一人物を同時に召喚することも、可能だと思いますの。

 大海原のど真ん中に、ぽつんと存在している、どこか近未来的な雰囲気をかもし出している、半球状のガラスのドームに覆われた、こぢんまりとした海上都市。




 ──に見せかけた、巨大潜航艇『ルルイエ』。




 我が『海底艦隊』旗艦空母にして、上半分の半球部には、これまでの侵攻作戦で使用した、零式艦戦ジーク一式戦オスカーきっおう等の、格納庫兼発着場カタパルトとして使用されており、下半分の常時海中に隠されている半球部には、巨大な研究施設が設けられていた。


 その広大なる研究施設の床面のほとんどを埋め尽くすように設置されている、無数の培養槽。


 あたかもSF小説等に出てくる『コールドスリープ用のカプセルベット』あたりを彷彿とさせる、それらのうちの一つのガラス製の上蓋が自動的にせり上がっていき、その中に横たわっていた華奢な肢体がゆっくりと身を起こした。


 初雪のごとく白い髪の毛に白い肌という、全身真っ白のいまだ十代半ばの幼い少女であったが、まさしく人形そのままに端整ながらも、無機質で無表情な小顔の中の両の瞳だけが、あたかも鮮血のごとく深紅に煌めいていた。


 しかし意外にも、そのつややかな桃花の唇からは、儚げで可憐なる外見からは予想もできないほどの、いかにも粗野な男言葉が飛び出してくる。




「──おおっ、復活する時は、こうしてスタート地点に、戻ってこれるわけか? これまでの転生時における、昔の日本人や異世界人による『特攻隊員』とは違って、『人魚姫セイレーン』ってほんま便利だなあ。なんかゲームとかでよくある、『教会での復活』そのものだよな。さすがは聖レーン転生教団ってところかい? なあ、司教さんよお」




 それに対して、確かに『司教』と呼ばれるにふさわしい、漆黒の聖衣に身を包んだ私はといえば、縁なし眼鏡のブリッジをくいっと上げながら、しれっと言ってのける。


「……困りますねえ、HNハンドルネーム『カワセミ』さん。何度も言うように、魔導大陸を実質的に支配している聖レーン転生教団は、我々の不倶戴天の敵なのであって、私のことはちゃんと、『海底提督』とお呼びください」


「けっ、何が海底提督だ、『艦○れ』かよ? ……あ、いや、『セイレーン』と言うくらいだから、むしろ『アズ○ン』か?」


「はて、何のことやら? 『カワセミ』さんお得意の、現代日本のゲームの話ですかあ?」


「──めちゃくちゃごまかし方が下手くそだな、あんた⁉ 元々正真正銘、『ゲームの話』じゃん!」


「まあまあ、それよりも、今回の『特攻』の具合のほうは、どうでした? やはりこれまでとの差を、多少は感じられたのでは?」


「……う〜ん、知っての通り、俺はこれまで零戦にも桜花にも乗ったことがあるし、ジェット機に関しても現代日本の各種のゲームの中で、最新鋭機のシミュレーションを体験したことがあるし、橘花にもほとんど違和感が無かったから、第二次世界大戦中の日本軍機に関しては、別に今更感じるところは無いし、この『素体アバター』である人魚姫セイレーンとやらも、昔の日本人や異世界人をいたずらに『消費』する必要が無くなって、精神的に大変よろしいので、全般的に文句は無いんだが、そもそもこの異世界転生システムって、どういう仕組みになっているんだ? 異世界に召喚されたかと思ったら、末期戦の沖縄にばれたり、しかも今回なんかは同じ異世界でも、前回とはまったく状況が異なっていたりするしな。しかも時代の前後関係なんて、むちゃくちゃじゃないか? 一体全体この異世界って、第二次世界大戦よりも、過去なのかよ? それとも、未来なのかよ?」




「──何を今更、それについてはすでに何度も、我が教団……おっと失礼、『海底鎮守府(w)』において、何度も検証してきたではありませんか? あなた方の現代日本と、この『実験的世界』を含む他の世界は、すべてそれぞれに独立した時間の流れ方をしているのであって、これまでの『無駄なマイルールに縛られて、結局最後にはわけがわからなくなってしまう』ダメダメWeb小説みたいに、『現代日本と異世界とは、常にまったく同じ時間の流れ方をしているのだ!』とか、『いやいや、実は現代日本と異世界とは、時間の流れ方が何倍も異なっていて、何ヶ月も異世界にいようと、現代日本ではほとんど時間が過ぎておらず、いくらでも御都合主義的展開を行えるのだ!』とかいった、無駄なことを、時間の前後関係なぞ一切考慮せずに、いつでもいかなる時代にでも転生できるのであり、しかもその異世界自体が、量子論的に無限のパターンがあり得るのだから、前回は『乙女ゲーム転生』そのままに、悪役令嬢ばかりだったヒロインたちが、その次に転生した際は、魔法少女ばかりになっているということも、十分あり得るのですよ」




「な、何だそりゃ、悪役令嬢が魔法少女になってしまうなんて⁉ いくら量子論に則っているからって、あの悪名高き『何でもアリ』のWeb小説においても、そんなふざけた作品なんかはあり得ないだろうが⁉」


「まあたそんな、メタ的なツッコミなんかなさったりして、駄目ですよう、メタの多用は? ──あ、それから、何で前回だけ毛色が違って、『第二次世界大戦の沖縄戦』を舞台にしていたかと申しますと、あれって本作のエピソードでは無く、『カク○ム』様の公式企画用に作成した、単発の短編作品だったからなんですよ」


「──あんた、『メタは駄目』と言った舌の根も乾かぬうちに、何言ってくれちゃっているの⁉」


「あはははは、これはちょっと、おふざけが過ぎたようですな。──おっと、そうこうしているうちに、『もう一人のパイロット』さんのほうも、お目覚めになられたようですよ」


 私の言葉に促されて振り向くカワセミ氏の視線の先では、確かにカプセルベッドの上蓋が開かれていき、同じく全身真っ白な少女が身を起こした。


「……う〜ん、結局特攻つっこむ前に、撃墜されてしまったかあ。しかし卑怯だよなあ、同じ二次大戦機とはいえ、ドイツのジェット機なんか、持ち出してくるなんて」


「よう、随分と目覚めるのが遅かったな、『俺』?」


「そう言うなよ、『俺』。桜花に乗っていたおまえとは違って、俺のほうは今回初体験の、ジェット特攻機の橘花だったんだからな」


「そこは、こう、ガッツで補完すべきだろうが、マジキチ特攻ゲーマーの『俺』としては」


「──キヒヒ、その馬鹿の一つ覚えの精神論こそが、あの戦争で日本を滅ぼしたんじゃなかったっけ?」


「ガハハ、そういえばそうでした、悪い悪い」


「「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」」


 そのように、まったく同じ顔をして、まったく同じ口調で笑い合う、純白の少女たち。




 ──それはもはや『双子の姉妹』などといったレベルでは無く、複製された本人クローン同士であるか、元々両方共『つくりもの』であるか、はたまたとあるものであるかのようにも、見えたのであった。




「……いやあ、こうして同一人物を同時に転生させることができるのも、結局異世界転生なんてものは、異世界側の人間の脳みそに集合的無意識を介して、別の世界の人物の『記憶と知識』をインストールすることでしか無いことの賜物ですが、それにしても『カワセミ』さんの適応力ときたら、すごいものですねえ。このように自分が『複製精神体コピー』でしか無いことを知った場合、こういったパターンの元祖的作品である『SA○』なんかでは、被験者のアイデンティティが崩壊して、狂乱状態になったりしたくらいなのに」


 そのように私が感心半分冷やかし半分にそう言えば、途端にいかにも不快そうに表情を歪める、『カワセミ』ズ。




「──ケッ、そもそもそれこそ作品冒頭から、登場人物全員をゲームの世界の中に閉じ込めて、文字通り『デジタルデータのみの存在』にさせておいて、御都合主義にもたかがゲームオタク共のために、国家を挙げてゲーム中の衣食住のすべてを保証してやり、通勤や通学や買い物等の外出はもちろん、食事や風呂やトイレに行く必要も無くなって、思う存分念願の『リアルデスゲーム』を楽しむことができるという、すべてのゲームマニア垂涎の『夢のゲーム王国』をでっち上げたくせに、今更自分が『データだけの存在』であることを突き付けられたくらいで、うろたえるような、ゲームプレイヤーの風上にも置けない、ダサキャラを登場させるなって言うんだよ!」




「その通り! いいこと言うな、さすがは『俺』! 俺たちゲーマーにとっては、ゲームだけがすべてなんだよ! 他のことなんか、知ったことかよ! 真にリアルな『特攻』を体験できるなら、昔の日本の軍人や異世界人をいくらでも、『ゲームの駒』として犬死にさせようが構わないし、たとえ相手ターゲットの魔法少女が年端もいかないJSであろうが、容赦なく撃墜するし、もちろん自分自身が何度死んでしまおうが、別に構いやしないぜ!」

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