第230話、わたくし、世界を夢見ながら眠り続けている神様って、夢魔派と、龍神派の、二つがあると思いますの。
『ウフフフフフフフ』
『アハハハハハハハ』
『クスクスクスクス』
──その時突然、直接脳内に響き渡るようにして聞こえてくる、無数の幼き少女の声。
ふと四方の壁面いっぱいに設けられた、超強化ガラス製の窓のほうを見やれば、ごく自然な魚介類ばかりの海底ならではの風景が、一変していた。
一糸まとわぬ十歳ほどの性的に未分化な小柄な肢体も、いまだあどけなくありながらもどこか妖艶さを感じさせる小顔を縁取る長い髪の毛も、処女雪のごとく一点の曇りもない純白色であったが、その瞳だけがあたかも鮮血そのままに深紅に煌めいていた。
──
その名が示すように、あらゆる世界の影の支配者聖レーン転生教団における、守護神の御使いたる『天使』に当たる、絶対的崇拝の対象。
ただし今ここにいるのは、本物の人魚姫でも天使でもなく、かの『クトゥルフ神話』で名高き、不定形暗黒生物『ショゴス』を人魚の姿に擬態させて、教団秘蔵の『アカシックレコード』から
とはいえ、紛い物といえども、さすがはたとえ『可愛いメイドさん』であろうと、完璧に擬態できる、不定形変身生物の代表格、ショゴス。
グランブルー一色の
──しかし今の私には、そんな幻想的な光景を、楽しんでいる余裕なぞ無かった。
何と、我々が現在存在している、聖レーン転生教団による『実験のための実験のための実験』の世界が、単一の世界ではなく、複数の世界の集合体であると言うのだ。
元々、多元的夢の世界の住人である、
私はもはや堪えきれず、目の前のすべての黒幕たる、聖レーン転生教団異端審問第二部の司教である、ミサト=アカギ嬢に向かって、まくし立てた。
「──ミサト、これは一体、どういうことよ⁉」
しかし目の前の、表向き教団直営の『魔法令嬢育成学園』の初等部教師の仮面を被った悪友は、私の剣幕なぞどこ吹く風と、いつも通りに人を小馬鹿にした笑みを浮かべるばかりであった。
「どうしたもこうしたも、今言った通りよ? ふふっ、やけに取り乱しているわね。そもそも
「とんでもない、こんなこと、とても許せないわ!」
「……へえ、あなたにしては珍しく、『熱血』仕様じゃない、一体何が許せないわけ?」
「だって、だって……」
そして私は、現在における己の思いの丈を、嘘偽り無くすべて、ぶちまけた。
「──何よ、あの、某『メリーさん』作品の最新作に新登場した、『あらゆる世界を夢見ながら眠り続けている、外なる神』的存在は! むちゃくちゃ幻想的な美少女として描写されているじゃない⁉ 何なの一体、同じ『夢の主体』である私との、絶対的な格差は!」
「………………………………はい?」
私の魂の叫びを真っ向から浴びせかけられるや、笑顔のままで硬直してしまう、実は『海底の魔女』の、この世界限定の『
「あ、あの、ミルクさん? あなた突然、何を言い出しているの?」
「突然も何も、あなた、某『メリーさん』作品の最新作──しかも、読者待望の最終回の前編を、まだ読んでいないの⁉」
「……ああ、うん、今すぐ
私がイライラと貧乏揺すりをしながら待つこと数分間、某有名小説創作サイトを閲覧し終えた審問官は、愛用のスマホから顔を上げた。
「ええと……読むには、読んだけど?」
「うん」
「それでさあ」
「うん?」
「ちょっと、言いにくいんだけど、さあ」
「うんっ⁉」
「この内容だったら、別にあなたがそれほど、気にする必要は無いんじゃないの?」
なっ、
「──何ですってえええええええええええええええええ⁉」
「ちょっ、ミルク、声が大きい!」
「気にする必要は無いって、どういうことよ⁉ 確かに私は本編では
「──もうっ、そんなに『メリーさんメリーさん』言うのなら、メリーさんのうちの子になりなさい!」
「何よ、人のことを、小学生低学年のちっちゃなお子様や、グ○ッグ=イーガンやテッ○=チャンのことばかり崇め奉っている、意識高い系のエセSFマニアみたいに言わないでちょうだい!」
「……それって、『そんなに、「イーガン」「チャン」「イーガン」「チャン」ばかり言うのなら、イーガンちゃんちの子になりなさい!』ってこと?」
「つうか、某『カク○ム』オンリー作品の、『イー○ン病』患者ね」
「ああ、円○塔や伊藤○劃等の、『信者』を標榜している、何かと鼻につくやつらね」
「そうそう…………って、ちがーう! 話を露骨に、そらさないでよ⁉」
「チッ、気づきやがったか」
「だから、同じ『あらゆる世界を夢見ながら眠り続けるキャラ』が登場しているというのに、私とは関係無いって、どういうことよ⁉」
「う〜ん、あまりそのことを深く突っ込んで、説明したくはないんだけどなあ」
「……へ、どうしてよ?」
「下手したら、他人様の作品を否定するようなことに、なってしまいかねないの」
「えっ」
「……まあ、いいか。本当は前回の続きとして、『世界というものが無数にあり得る可能性』について、『実はこの世界は、小説のようなものでもあり得るのだ』という理論に基づいて語ろうと思っていたんだけど、別に『実はこの世界は、何者かが見ている、多元的な夢の世界のようでもあり得るのだ』という理論に基づいて語っても、基本的には同じようなものですからね」
「おっと、またしても、いかにもメタっぽい路線ですこと」
「何言っているのよ、あなたこそ、『多元的夢理論』の、代表者みたいなもののくせに」
「……それで、これから一体、何を語っていくつもりなの?」
「その前に宣言しておくけど、これはあくまでも、本作の作者の個人的な意見を述べるものであって、けして他人様の作品を否定するものでもけなすものでも無く、そもそもこのような『夢』とか『世界』を
「何かすごい、『大江戸捜○網並み』の、予防線の張りようね?」
「真面目な話なんだから、茶化さないでちょうだい」
「あ、はい」
「それでねえ、私の話したいことって、大きく分けると、次の二つになるの」
そしてその仮面教師は、初っぱなからメガトン級の、爆弾発言をぶちかました。
「──『あらゆる世界を夢見ながら眠り続けている存在』って、昔から言われているように、たとえ何かの拍子に目覚めたりしても、けして世界が文字通り『夢幻』であったかのよう消えて無くなったりはしないし、そもそも『世界の夢を見ながら眠り続けている存在』なんて、具体的な個体として、存在なんかしていないの」
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