第209話、わたくし、シンデレラ、死んでもヤンデレを貫く、『死ンデレ』なの♡(前編)

 ──死にたくない。




 死にたくない。死にたくない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。




 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。




 ──嫌よ、絶対に、嫌!




『お姉様』を残して、私だけ、消え去ってしまうなんて!




 ……だけど今の私は、無数のチューブに繋がれた無残な姿で、ベッドの上で横たわったまま、漫然と死の瞬間を待ち続けるしか無かったのだ。




 四方の壁紙や窓に掛けられたカーテンも、上下の天井や床も、すべてが白一色に統一されている、聖レーン転生教団直営の『聖スネグーラチカ病院』内の、清潔極まる病室。


 この狭い部屋だけが、私の全世界であり、いわゆる『ついの棲家』になろうとしていた。




 ……何でまだ十歳にもならない私が、こんな大病を患ってしまったのだろう。




 医者はとうに匙を投げ、両親も泣き疲れてあきらめて、友達はすべて去って行き、


 最後まで残って看病してくれていたお姉様も、念願の『魔法令嬢』になれるかどうかの大事な時だったので、教団の人たちに半ば強制的に説得されて、渋々『魔法令嬢育成学園』へと帰っていった。


 ……その際、お姉様は大泣きして、私を抱きしめ続けたけど、


 私はあえて、笑顔で居続けて、いかにも何でもないように、あっさりと別れを告げた。




 ──だって、それがお姉様との、今生の別れの瞬間かも、知れないのですもの。


 お姉様が思い出す私の顔は、涙なんかで濡れていない、笑顔でありたかったのですもの。


 もはや身体も顔も痩せこけて、骨と皮だけなんだから、せめて表情だけは、明るくしていたかったのですもの。




 ……ああ、お姉様は、一体いつまで私のことを、覚えていてくださるでしょうか。


 己の心の中で、私のことを、生かし続けてくださるでしょうか。


 私との日々を、大切な思い出として、忘れないでいてくださるでしょうか。




 ………………嫌。




 嫌。嫌。


 嫌。嫌。嫌。嫌。


 嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。


 嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。


 嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。


 嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。嫌。




 ──やっぱり、嫌あああああああああっ!!!




 お姉様が、私のことを、忘れてしまうなんて、耐えきれない。


 お姉様一人を残して、自分だけ逝ってしまうなんて、我慢できない。




 ──だってお姉様は、一見しっかりしているようでいて、本当は誰よりも、寂しがり屋なのだから。


 私がいなくなった後で、一体誰が彼女を、支えることができると言うのだ。




 ──死にたくない。




 死にたくない。死にたくない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。




 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。





「──だったら、私があなたに、『永遠の命』を、差し上げましょうか?」





 私以外誰もいないはずの病室に、唐突に鳴り響く、耳馴染みの無い声音。




 ……最初は、『死神』かと、思った。




 なぜなら、そのほんの六、七歳ほどの少女は、その容姿にしろ、まとっている衣装にしろ、あまりにも奇抜すぎたのだから。




 処女雪みたいな純白の長い髪の毛に縁取られた、精緻な人形そのままの端麗な小顔の中で煌めいている、鮮血のごとき深紅の瞳に、いかにもファンシーなレースとフリルに飾り立てられた、漆黒のワンピースドレスに包み込まれた、小柄で華奢な幼い肢体。


 とにかく全身が穢れなく純白でいながら、瞳と唇だけが不吉に紅く、衣装に至っては禍々しき漆黒ともなれば、何か異形なる存在としか思えなかったのである。


「……あなたは、一体」


「私は、聖レーン転生教団の使徒、『みなそこの魔法令嬢』」


「えっ、魔法令嬢、って……」


 その時になってようやく気がついたのだが、確かに彼女のか細い右手に握りしめられていたのは、あたかも高位の聖職者を彷彿とさせる、神々しき『聖杖ロッド』タイプの、漆黒のであった。


 そういえば、彼女が着ているあの妙ちきりんな衣装自体も、学園の授業で何度か見せてもらった、魔法令嬢専用の『バトルコスチューム』に、見えなくもないような……。


「その、魔法令嬢さんが、こんな死に損ないの落ちこぼれに、何の御用があるわけなの?」


 魔法令嬢育成学園に通いながらも、志半ばに病に倒れ、結局バトルコスチュームを着ることが叶わなかった私は、自分よりもずっと幼い女の子に対して劣等感をむき出しにして、皮肉めいた口調で問いかけた。


「何の用って、さっきも言ったでしょう? あなたに『永遠の命』を授けに来たのよ」


「──何ふざけたことを言っているのよ⁉ そんなこと、できるわけないじゃない!」




「できるわよ、教団の秘術を使って、『人魚姫セイレーン』になりさえすれば、あなたはもう二度と、死ぬことは無くなるの」




 ……何……です……って……。


人魚姫セイレーンになれる秘術って、人間が人魚姫セイレーンになることなんかできるの⁉」


「ええ、たった一度、だけでね」


 ………………は?


「な、何言っているのよ、あなたさっき、『永遠の命』を与えてくれると言ったばかりなのに、死ぬことが人魚姫セイレーンになれる条件だなんて⁉」


「別に構わないじゃないの、何せあなたは、このまま何をしないでも、死んでしまう運命なんだから」


「うっ」


 そういえば、そうでした。


「……つまりあなたは、私のように死にそうな人間を選んで、そんなわけのわからない『勧誘』を行っているわけ?」


「いいえ、違うわ、特にあなたのように、『意地汚い』人を選んでいるの」


「ちょっ、意地汚いって──」




「──そう、誰よりも生きることに執着して、己の死の運命に抗い、意地汚く現世に留まり続けようとする、執着心の持ち主こそが、人魚姫セイレーンになるに最もふさわしい人物なのであり、我が『魔法令嬢育成学園』においては、単に魔法令嬢の候補者たり得る、超常の力を有する少女を集めるのみならず、人魚姫セイレーンともなり得る『魂の持ち主』を選別することも、目的にしていたの」

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