第210話、わたくし、シンデレラ、死んでもヤンデレを貫く、『死ンデレ』なの♡(後編)

「……人魚姫セイレーンとなるべき、魂ですって?」




「ええ、ユネコ=シブサワさん、あなたは『魔法令嬢育成学園』に在籍する全生徒の中にあっても、類い稀なる『生への執着』と『お姉様なる人物への偏愛』の強さにより、正式に人魚姫セイレーンとして生まれ変われる秘術を受けることを、我が教団の上層部に認められたのです」




「生まれ変わるって、現在の私ではなくなるってこと? 人魚と言うことは、やはり下半身が魚のようになるわけ?」


 何せすでに今現在の身体のほうは、重度の病魔に冒されて衰弱しきっているのだ。たとえ『永遠の命』とやらを与えられたところで、このまま利用し続けることはできないであろう。


「あなたには、教団が用意した、『新たなる身体』を与えることになっているわ。──ただし、心配はご無用。その肉体は不定形の超生命体を基に創られているので、現在のあなたとまったく同じ姿形とすることだって可能よ」


 何ですって、教団て、そんなことまでできるわけなの⁉


「……つまり、その新しいからの肉体に、現在の私の魂を注入するわけなのね?」


「魂と言うよりも、現在の記憶を保ったままの脳みそを移植すると言ったほうが近いのだけど、もちろん本当にそのようなことを外科手術的に行うわけでは無く、言うなれば『デジタル的な情報データの移行』といった形で、実現することになっているわ」


「──それで、私にそんな面倒な秘術を施して生き返らせて、教団にどういったメリットがあるというの?」


「いい質問ね、まさにそれこそが本題なの。あなたには、めでたく甦った後に、近々魔法令嬢となられるある方の、『使い魔』となってもらうわ」


「えっ、魔法令嬢の使い魔って、人魚姫セイレーン──つまりは、『一度死んだ人間』だったわけなの⁉」


「魔法令嬢の使い魔──すなわち、『補助者サポーター』ともなると、魔法令嬢と同等以上の身体能力や異能の力が必要となるので、人間を大きく超越した不定形暗黒生命体の肉体に、魔法令嬢に対する異常とも言える、恋慕の情並びに執着心を有している必要があるの」


 な、何よ、『不定形生命体』って──じゃなくて、


「……魔法令嬢に対する異常とも言える、恋慕の情並びに執着心って、まさか、まさか、私が使い魔として仕える予定の、魔法令嬢って──」




「ええ、あなたの最愛の『お姉様』である、タチコ=キネンシスさんですよ」




 ──‼


「何せ、常に悪役令嬢との熾烈な異能バトルを強いられるのですからね、魔法令嬢の使い魔たる者は、己の身よりも魔法令嬢を優先するほどに、魔法令嬢のことを心底愛していなければならないの」


「……私が、お姉様の、使い魔になれるって、本当なの?」


「そうよ? だけど、ちゃんと私の話を聞いていた? そのためにはあなたは、不死の肉体を与えられて、常に魔法令嬢の盾となって、傷つき続けるのはもちろんのこと、時には文字通りに死ぬほどの苦痛にさえも、耐えていかなければならなくなるのよ? ──しかも、もはや人とは言えない、『化物』そのものの肉体となってね。本当に、それでいいわけ?」




「──それがどうしたというの⁉ 舐めないでちょうだい! お姉様のお側に永遠にいられるというのなら、使い魔にでも化物にでも、喜んでなってみせるわ!」




「ひいっ!」


 私のとても瀕死の重病人とは思えない怒声を浴びて、ここで初めて余裕の表情を崩し、小さく悲鳴を上げる、転生教団の幼き使徒。




「……ひひ、きひひひひ、このままお姉様と『永遠のお別れ』かと思っていたら、むしろ逆に、永遠の命と不滅の肉体を与えられて、ずっとお側にいられることになるなんて。ふひひひひ、もう絶対に、お姉様のことを、ものですか。これでお姉様は、この私のものよ。ぐふふふふ、正式に使い魔となった暁には、今度こそお姉様を私の色に染め上げて、私無しではいられない身体にしてみせるわ! ぎひ、ぎひひひひ、ああ、楽しみだわ、お姉様が私の『調教』に耐えかねて、苦痛と歓喜とで、切ない喘ぎ声を聞かせてくれることがっ! ……ああ、お姉様ったら、どんな声で鳴くのかしら。妹として、精一杯趣向を凝らして、『愛の饗宴ヤンデレカーニバル』を催して差し上げなくては!」




 そのように私が、恍惚感いっぱいに想像の翼を広げて、うわごとを漏らしていたら、なぜか異形の存在である魔法令嬢が、見るからにドン引きしていた。


「……あ、うん、やる気があるのは結構だけど、ちゃんと相手の同意を得た上で、やってよね?」


「大丈夫よ、調教後の『雌犬』となられたお姉様は、私の言うことには逆らえないはずだから」


「だ・か・ら、調教する前に、承諾を得ろって言っているんだよ! ──つうか、そもそもタチコさんが『御主人様』で、あなたが『しもべ』なんでしょうが⁉」


「え? 元々私たちは、ベッドの中では、私が『御主人様タチ』で、お姉様が『ネコ』でしたけど?」


「──そういった生々しい、『夜の人間関係』を、聞いているんじゃないわよ⁉」


「もういいからあなたは、教団の上層部に言われたように、私に新たなる肉体を与えて、甦らせればいいでしょうが?」


「……ぐっ、確かにその通りだけど、本当にそれでいいの? 私たち教団は今、とんでもない『怪物』の誕生に、手を貸しているのではないの?」


 目の前の奇抜なファッションの少女ときたら、性懲りもなく、いまだに何やらブツブツとほざいていたが、もはや私の耳には入ってこなかった。




 何せついに、私の真の願いが、叶うのである。




 実は私は初めから、この現世での死なぞ、ちっとも恐れてはいなかったのだ。




 たとえこの肉体が滅びようとも、魂すらも消滅しようとも、何度でも甦り、また来世においても、お姉様を愛し続けるに、違いないのだから。




 そう、私とお姉様は、これから永遠に愛し続けるだけでは無く、実はずっと、愛し続けてきたのだ。




 過去の世界において、パラレルワールドにおいて、異世界において、私たちは、姿形すらも変えながら、ずっとずっと愛してきたに違いないのだ!




 なぜなら、私とお姉様との絆は、たった一度の人生程度で成り立ったものではなく、これまで異世界すらも含めて、何度も何度も転生を繰り返しながら育まれてきた、人としての運命さえ超越した、『至高の愛の形』に基づいているはずなのだから。




 だって、現在における私のお姉様への、この上なき愛の情念が、たった一度の人生くらいで、培われることがあるわけないのだ。




 ──そして、『至高の愛の形』とは、それすなわち『ヤンデレ』!




 つまり私は、無限の異世界転生を繰り返して、お姉様と愛し合い続けてきた結果として、今やガチの『ヤンデレ』と成り果てていたのである!

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